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ホルムズ海峡波高し

2019年07月14日 | 地政学上のリスク

  日本とノルウェイのタンカーへの攻撃に続き、ホルムズ海峡を通過しようとしていたイギリスのタンカーにイランの革命防衛隊が接近し、それをイギリス海軍が阻止したというニュースが先週流れました。そして日本はアメリカから「ホルムズ海峡を防衛するのに日本も力を貸せ」と言われています。まずイギリスに関してイギリスメディアの報道を見てみます。7月11日BBCの日本語版を引用します。

 

英国防省は11日、ペルシャ湾を航行中のイギリスの石油タンカーをイランのボートが妨害しようとしたと発表した。ボートはイギリス海軍の護衛艦によって退去させられたという。国防省によると、英護衛艦「モントローズ」は石油タンカー「ブリティッシュ・ヘリテージ」とイランのボート3隻の間に割って入り、音声で警告を発した。同省報道官は、イランの動きは「国際法に反する」としている。イランは先週、英領ジブラルタル付近で自国の石油タンカーを拿捕(だほ)されており、その報復をするつもりだと警告していた。

米メディアは米政府高官筋の話として、石油タンカーがペルシャ湾からホルムズ海峡に入ろうとしたところ、イランの革命防衛隊(IRGC)に所属するボートが近付いたと報じた。」

 

  ホルムズ海峡、かなり波が高くなっています。しかしまず第一に指摘しておきたいのは、そもそもホルムズ海峡の波を高くしたのは誰か。もちろんトランプです。イランを巡る6各国協定から一方的に離脱し、経済的制裁を加えイランを窮地に追い込んだのは放火魔トランプ自身です。それまでおとなしくしていたイランに向かって火を投げ込みました。それでも欧州各国が協定に留まっているのは、そもそもトランプがイランに難癖をつけている理由がさだかではないからです。もっともイギリスだけはいち早くアメリカに部分的に同調しました。

   一方、私はこのところのイランの行動も実に愚かだと思っています。最近になって核合意を逸脱するようなウラン濃縮を実行し、そのレベルをさらに引き上げる宣言をしています。これはあきらかにイランの過剰反応で、トランプにさらなる制裁の理由を自ら差し出してしまっているようなものだからです。これでは欧州各国も協定に留まりイランを支持し続けられなくなります。

   その一方でトランプは日本や中国などにホルムズ海峡防衛の要求を突き付けています。7月9日付ウォールストリートジャーナルの日本語版を引用します。

 「先月イランとの間の緊張が高まった際、ドナルド・トランプ米大統領は次のような衝撃的な発言を行った。「米国はイラン領海とホルムズ海峡を通過するタンカーの航路を防衛する責務を負う必要はない」。同航路の防衛は、米国が過去40年間担ってきた主要な責務の一つだ。代わりにトランプ氏は、米国よりずっと多くの原油をペルシャ湾岸諸国からの供給に依存している中国と日本が、自国向けタンカーを防衛すべきだと主張」」

   タンカーを拿捕されかかったイギリスは、中東政策においてアメリカと常に歩調を合わせる政策をとっています。実際に海軍を常時派遣し防衛に当たっています。日本では憲法を盾に「現憲法下では無理だ」という言い訳が多く聞かれます。しかしアメリカなど他国にとっては、「日本憲法など知ったことか、ダメなら憲法を改正するか、得意の解釈変更をすればいい」という反応が多いのも事実です。

  私自身は日本の生命線であるホルムズ海峡の防衛に関して、トランプの言うことはもっともなことで、憲法を盾に避けること自体、緊急事態の下では意味のないことになりつつあると見ています。3年前に集団的自衛権の行使問題で日本中が揺れに揺れましたが、今回は目の前でアメリカから「俺たちは引くぞ」と言われているのに、のらりくらりと逃げ回る暇はありません。

 

  では現行の憲法とこれまでの憲法解釈により、日本の自衛隊が何をどこまでできるかを見ておきましょう。6月22日の時事通信の報道を参考にまとめてみました。

   まず検討すべき課題は、ホルムズ海峡の防衛をするにあたり、個別対応するのか有志連合への参加かです。

  先般日本のタンカーが攻撃され被害を受けました。このケースでは、犯人はイランだとは特定できていません。しかし今後イランと米の軍事的緊張をあおるような船舶へのテロや攻撃がさらに続発し、攻撃主体が不明なまま日本向けのタンカーも被害が相次ぎ、航行に重大な支障が出ることも考えられます。そうなると各国個別で対応するのか多国籍の有志連合を組み、護送船団方式にするのか国際的に議論されることになり、日本も決断が求められます。

  現在ホルムズ海峡を通過するペルシャ湾からオマーン湾に至るシーレーンは、中東を管轄する米中央軍傘下の第5艦隊を軸に米軍や湾岸諸国などで構成する多国籍軍が警戒しています。日本の自衛艦は参加していません。それに対してアメリカはトランプやポンペイオ国務長官をはじめ制服組も日本などのただ乗りに対するけん制の発言を行っています。

時事通信は以下のニュースを引用しています。

 「米軍事専門誌「ディフェンス・ニュース」(電子版)によると、米軍制服組ナンバー2のセルバ統合参謀本部副議長も「われわれはホルムズ海峡の航行の自由と石油の移動を確保する国際的責任を果たしてきたが、それは米国だけの問題という意味ではない」と、「ただ乗り」にくぎを刺している。また日本の防衛省関係者は「情勢が悪化した場合のシーレーン防衛は、米側が利益を享受する同盟国に応分の負担を求めてくる可能性がある」と話す。」


 では日本はどう対応することが可能なのでしょうか。今の日本政府の持ち札を日本テレビの土曜朝の「ウェークアップ・プラス」は、以下のとおりだと整理していました。

1.     海賊対処法;対象は海賊のみのためそれ以外は適用不可

2.      自衛隊法;海上警備行動・・・自国の船舶のみ対処可能

3.      安全保障関連法;緊急事態の定義により以下の3とおり

    ①   重要影響事態  ② 国際平和共同事態  ③ 存立危機事態

 

  ホルムズ海峡でもし日本の船舶が攻撃を受けた場合、一見すると2や3の項目に当てはめて対処することが可能に思えます。しかし番組に出ていた元防衛大臣の森本敏氏は、今回日本の自衛隊が有志連合に参加するのであれば、「新たな特別措置法を作って参加すべきだ」という見解を述べていました。要は一般論の延長ではなく、場所や事態を限ることで国民のコンセンサスを得て対処すべきだというのです。

   私自身もその意見には賛成で、独自に自衛隊派遣で対処することは難しいので有志連合に参加するが、それには特措法が現実的対処方法だと思います。憲法や安保法の解釈問題でぐずぐずしている暇はありません。

  それと同時に日本がやらなくてはいけないことがあります。それは、国連などの国際機関への働きかけで、まずはトランプの蛮行を糺す。その上で有志連合という言わば勝手な小グループでの対処だけではなく、すでにある国連を活用すべきです。

  もっとも現実的にはトランプのお友達のアベちゃんはトランプを糺すことなどできないし、国連でのコンセンサスは時間がかかるので、当面は有志連合でつなぐ以外ないと思います。

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