私の参加しているネット上のプライベートな「サイバーサロン」には主催者の方を初め、多くの住友商事OBの方がいらっしゃいます。そこで日本企業の例として今回は住商にかかわるESGの話題を提供することにしました。今年の6月の株主総会において気候変動に関する住商の考え方が試されました。
環境NGOのマーケット・フォースから提出された気候変動問題のパリ協定に関する提案内容と、会社側の反対理由をまず会社のHPからそのまま引用します。
まずは株主提案の内容と提案理由についてです。
第5号議案
定款の一部変更の件(パリ協定の目標に沿った事業活動のための事業戦略を記載した計画の策定、及び開示)
提案の内容(議案の要領)
「当会社が気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に賛同していることに留意し、当会社は、石炭、石油、ガス事業関連資産の保有量、事業規模をパリ協定の目標に沿ったものにするための指標と短期、中期、長期の目標を含む事業戦略を記載した計画を決定し、年次報告書にて開示する。」という条項を、定款に規定する。
提案の理由
本提案は、当会社がパリ協定の目標に沿った事業を行うための指標及び目標を含む事業戦略を記載した計画の決定・開示を通して、気候変動リスクの適切な管理及び株主資産の保全を目的としている。
気候変動は、人間社会及び経済システムに深刻なリスクをもたらす。この危機を回避するための条約であるパリ協定は、世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2度を十分に下回ること並びに1.5度に留めるよう努力することを目標にしている。
他の商社が石炭関連資産(一般炭鉱及び発電所)を処分する中、当会社の石炭事業方針は現在でも、既存の炭鉱取得や発電所新設を許容している。当会社は、石油、ガス事業に関しても、パリ協定と整合するカーボンニュートラル化への道筋を示していない。当会社は、自らの不十分な方針とその実行により脱炭素経済への移行に伴う重大な経済リスクに晒される。本提案により株主は、当会社の当該リスク管理が適切か否かを知り得る。
(注)TCFDについて日経新聞のサイトを引用します。
「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の略称。気候変動が金融市場に重大な影響をもたらすとの認識が主要国の間で広がったことを背景に、各国の中央銀行・金融当局や国際機関が参加する金融安定理事会(FSB)が2015年に設立した。投資家などに投融資の対象企業の財務が気候変動から受ける影響の考慮を求めたり、企業に情報開示を促したりする。」
次に上記株主提案に対する住商側の反対意見です。
当社取締役会の意見
1.ᅠ当社取締役会の意見とその理由
当社は、持続可能な社会の実現に向けて、気候変動緩和を重要社会課題の一つとして捉えており、パリ協定で定められた目標の達成を含む気候変動緩和の各種課題解決を目指しています。
この前提のもと、当社は後述の第2項の経営方針に基づいて、定款に定める多様な事業を手掛けるとともに、気候変動問題に関するリスクを適切に管理し、企業価値の毀損を防止しつつ、変化を機会と捉えて持続的成長と企業価値の拡大に努めることで、これからも株主の皆様の期待に応えてまいります。
また、当社は本株主提案に含まれる事業戦略を記載した計画の策定や開示に既に取り組んでおり、本株主提案が求める内容を新たに定款に記載する必要はございません。なお、定款は会社の組織等に関する基本的な事項を定めるものであり、また、必要に応じて機動的に方針や計画を変更し、それを速やかに実行していく観点から、個別具体的な方針等を定めることはせず、現行定款の内容を維持したいと考えています。 したがって、当社は本株主提案に反対いたします。
上記の提案と会社説明は、以下の住商HPで見ることができます。
https://s.srdb.jp/8053/content-1-5.html
この株主提案は6月の総会で提案され、約2割の株主から賛同を得ましたが反対多数で否決されました。議決権行使アドバイザーのISSのアドバイス内容は不明です。一株主からの提案を会社側がしっかりと受留め、会社の考え方を述べています。今やESGに関わる問題はすべての企業が避けて通ることのできない重要問題となっています。特に住商などの商社は世界で資源ビジネスを幅広く展開しているため、炭鉱開発や石炭火力発電に対する厳しい要求を突き付けられるケースが多く、株主から「ヤメロ」と言われるだけではなく、住商に資金を貸し付ける銀行側からも圧力を受けるようになっています。実はその銀行もまた株主から「CO2を排出する企業に貸し付けをするな」という追及を受けていて、単なる株主の提案などとして放置するわけにはいかないためです。
同じことは多くの火力発電所を抱える電力会社、それを資金面で支えている銀行、そして電力債券を引き受ける証券会社にも及び、投資家もそうした企業の株や債券に投資しないということがすでに一般化されつつあるのです。
一方日本では金融庁がこの問題の開示に関して積極的に乗り出しています。
企業の気候変動リスク、開示を義務付けへ 金融庁検討
2021年7月26日 日経ニュース
「金融庁は企業の気候変動リスクに関する開示を義務付ける検討に乗り出す。今夏にも検討会議を立ち上げ、上場企業や非上場企業の一部の約4000社が提出する有価証券報告書に記載を求める議論を始める。法的な拘束力を持つ有報で一定のルールに基づく開示を義務付け、企業の取り組みを加速させるとともに、国内外の投資家の判断材料として役立ててもらう。早ければ2022年3月期の有報から開示を義務付ける可能性がある。」
もっとも金融機関までも巻き込んだ最近の企業包囲網は一部で行き過ぎであるという意見も出されています。現代の魔女狩りになるほどの拡がりを見せているためですが、こうした問題をしっかりと認識せずに個別企業に投資したりすると、手痛い目に遭う可能性があるので要注意です。
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