また東京は緊急事態宣言発動ですね。感染者数が底を打ち増加を始めてから宣言を解除するは、誰が見ても無謀でしたが、わずか3週間で政府は降参しました。オリンピックが行われると感染爆発につながりかねないと思われていましたが、それ以前に開催地でオリンピックとは関係ない自前の爆発が起きつつあるのは嘆かわしいことです。無観客は残念なことですが、この状況下ではしかたないことでしょう。
本題に入ります。前回は「モノ言う株主」という日常的に使われている言葉こそが、日本というガラパゴス列島の後進性を表しているということを申し上げました。そして私はモノ言う株主が日本企業のガバナンスの遅れを取り戻すきっかけ作りをしてくれていると思っています。それがシリーズのタイトルにある「ファンド資本主義が資本主義を救う」の意味の中身を表しています。
でも資本主義と言うつかみどころのないほど巨大な仕組みが、何故たかがファンドにより救われるのでしょうか。それを明らかにするには、2つの要素をつかむ必要があります。
その1.現代のファンドが世界の資本市場を動かすほど巨大化していること
その2.ファンドを含む世界の株主に大きな影響を与えるアドバイザーがいて、アドバイザーは世界の将来を真剣に見通し、的確なアドバイスを行う能力を有し、ファンドがアドバイスに従っていること
この2つがそろうことで、シリーズのタイトルが現実味を帯びます。ではまず巨大化しているファンドの巨大具合をしっかりと数字で見てみましょう。モノ言う株主とはいったい誰なのかが見えてきます。その答えは投資信託に代表される資産運用会社ですが、ここではさまざまな種類のある資産運用会社をまとめてファンドと呼びます。
日本全体の株主構成比率を、東証のカテゴリーに従って投資家主体別に見てみます。現在一番大きな株主は3割を占める海外投資家で、そのほとんどが実はファンドです。ファンドの中にはいわゆる公募の投資信託もありますが、海外では公的年金資金や、富裕層の資金を運用するプライベートファンドなども非常に大きくなっています。
海外投資家の次に大きな構成比を持つのは信託銀行で2割強ですが、その中身の多くは日本で組成されているいわゆる投資信託や公的資金で、信託銀行はそうした投資家の名義代理人として株主名簿に名を連ねサイズが大きくなっています。
ということは、「ファンド」で代表される海外投資家と日本のファンドである投資信託ですでに5割の構成比を占めることになります。この両者はバブルの頂点であった90年の構成比では海外投資家5%程度、信託銀行は10%程度にすぎませんでした。その時に大きな保有者であったのは銀行・生損保の35%、事業法人の30%でしたが、両者はバブル崩壊とともに影が薄くなってしまいました。
一方個人投資家ですが、70年代には7割もあった構成比が90年には20%に落ち、現在は17%程度とこの30年間は変化がないのです。
こうしてみると、日本株の投資家の中身の半分は広い意味で内外のファンドが占めていて、特にアベノミクス以来約10年で存在感を増した海外投資家が大きな割合を占めていることがわかります。
ではいったい海外投資家の運用資産額がどれほどの大きさになっているかを見てみます。現在世界最大のファンドはアメリカのブラックロックという資産運用会社で、運用総額はなんと1,000兆円もあります。日本の上場株式全部の時価総額は現在750兆円くらいなので、このファンドはそれを丸のみするほどの大きさなのです。次いで大きなのはヴァンガードで、800兆円くらいあります。そうした巨大ファンドが名を連ねているのが、世界の株主の実態です。ちなみに日本のGDPは550兆円程度で、ブラックロックの半分程度しかありません。
こうした世界のファンドの分析をしている会社、Willis Towers Watsonによりますと、世界のトップ500社の運用資産総額は19年末に104兆ドルと100兆ドルを超えたそうです。円貨で言うと聞き慣れない桁の1京円を超え1.15京円ということになります。その時から現在までに世界の株価は3割以上上昇していますので、500社の運用総額もきっと1.4京円にはなっているはずです。
ところがこの数字には疑義があります。世界の株式時価総額を調べると、実は上記の総額とほぼ同じなので、どうも500社の運用総額の試算は怪しさが漂います。なにか重複があって、その調整をしていないのでしょう。そこでファンド名を見ていくと、その中に名義代理人として著名な世界的銀行が何行か含まれるため、私に見るところではそれがきっと重複の原因なのでしょう。
しかし他に有力な調査報告がみあたらないため、500社の運用資産総額は京の単位になるほどの大きさであると見ておきましょう。
次に彼らが誰の資金を預かって運用しているか調べます。するといわゆる従来の「機関投資家」の資金が多く、アメリカでは教職員組合の年金や政府系年金基金、大学の基金などが大口機関投資家ということになります。そしてもちろん保険会社や個人の投資家からも運用資金を集めています。
私がソロモンブラザースに入社した90年当時のNY株式市場では、投資家が個人から機関投資家に大きく変わりつつあり、株式市場の「機関化現象」がキーワードでした。しかし株式投資が世界的に拡がりを見せ運用資金も巨大化すると、各機関投資家がアメリカや世界各国の企業を独自に分析するのは手に余るようになり、ファンドを運用する専門家に任せるようになりました。個人投資家も同様で、ファンドに運用を任せることで個人の負担を軽減しました。
こうして投資の主体である投資家が個人から機関化し、その次にファンドに預けるようになったため、現代の資本主義をファンド資本主義と呼ぶようになったのです。
次回はそうしたファンドが超巨大化してしまった結果、企業の業績予想まではできても、総会の議案の一つ一つまでは分析しきれなくなり、それを専門的に行い個別議案の賛否のアドバイスを専門とする企業が出てきて、大きな影響力を持ってしまっている実態を明らかにします。
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