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ファンド資本主義が資本主義を救う その4.世界の機関投資家のアドバイザー②

2021年09月09日 | ファンド資本主義への変貌

  アフガニスタンでは政府の陣容が発表されましたが、女性が排除されタリバン陣営だけが登用されるなど、「国内の様々な勢力からなる政府を作る」というタリバンの言っていたこととは大きく異なる政府になっていますね。こうした混乱に乗じてタリバンの上層部とつながりカブールに大使館も残している中国が、アフガンで存在感を高めつつあります。中国の狙いは、

  • 中国と欧州を結ぶ一帯一路にアフガンを取り込む
  • アフガンの資源、特に中国が欲しい豊富な地下資源の利権を手に入れる

 

  前回経済を立て直せず統治に失敗したタリバンにとって、経済支援の手を差し伸べる中国は渡りに船そのものです。専制主義同士は相性がよいのでしょう。しかしそんな専制主義国家中国などに負けてたまるか。それが「ファンド資本主義が日本を救う」シリーズの重要テーマです。

  このシリーズを7月に始めてからオリンピック、アフガン混乱などでだいぶ時間が経過してしまいました。再開にあたりこれまで3回にわたって書いてきたことを簡単にまとめます。

その1 モノ言う株主

日本の報道では「モノ言う株主」という言葉がたびたび使われ一般化しているが、この言葉は「日本と言うガラパゴス列島ではふつう株主はモノを言わないのだ」ということを表している。この言葉を使う新聞・TV・雑誌などの報道関係者の常識のなさを自ら体現している。

 

その2 超巨大化する世界のファンド

現代の資本市場を席巻するファンドはとてつもなく巨大化していて、世界最大のファンドは1社で1,000兆円を運用し、日本の全株式市場の時価総額750兆円をはるかにしのいでいる。

 

その3 世界の機関投資家のアドバイザー

ファンドを含む世界の機関投資家に大きな影響を与えるアドバイザーがいて、アドバイザーは世界の将来を真剣に見通して的確なアドバイスを行う能力を有し、ファンドは議決権行使で彼らのアドバイスにおおむね従っている。巨大化したファンドは1社で世界の数千社、あるいは万に及ぶ企業に投資をしているため、総会での議案の一つ一つに的確な判断ができなくなっている。そこで総会の議案を精査したうえで賛否のアドバイスをする有力アドバイザーにゲタを預けるのだが、有力アドバイザーは世界でたった2社しかない。最大の会社はISSと略されるInstitutional Shareholders Servicesで、もう一社はグラス・ルイスという会社である。ISSのほうが歴史も古く、サイズもグラス・ルイスの2倍ほどあるが、この2社で世界の主な機関投資家をカバーしていて、そのカバー率は世界のファンドを含む機関投資家の6割を超えている。

ここまでが前回までのストーリーでした。

 

  今回はそれほどまでに巨大化したファンドに大きな影響を及ぼす議決権行使アドバイザーについてです。世界最大のISSがどのような基準でアドバイスをするか、概要から見ていきます。

  彼らのアドバイスは、Accountability、Stewardship、Independence、Transparencyの原則にのっとって行うと謳っています。上記の4つは日本語では若干表しにくいのですが、およそで言いますと順に、説明責任、受託責任、独立性、透明性となり、その原則に則ったアドバイスを行います。

  また彼らは国ごとの内情をよく分析していて、例えば日本の場合は取締役会の独立性が低いとか、親子上場という奇妙な慣習があるとか、監査役すら企業内の「あがり」ポジションであるとかを心得ています。そうした悪しき慣習・前例を踏襲するような人事案には反対票を投ずるようアドバイスします。

  今年の東芝の総会において、取締役会議長の人事案が否決されたことが大きなニュースになりましたが、それが好例です。そのニュースを6月25日のNHKのサイトから引用します。

引用

東芝の株主総会で、永山治取締役会議長ら社外取締役2人の再任が反対多数で否決されました。会社が提案した人事案が否決されるのは異例で、いわゆる“モノ言う株主”への対応などをめぐり企業統治の責任を株主から厳しく問われたかたちです。東芝では、株主に選任された外部の弁護士が去年の株主総会の運営についての報告書で、会社と経済産業省が連携し筆頭株主でいわゆる“モノ言う株主”の提案を妨げるため、一部の株主に不当な影響を与えたと指摘し、「公正に運営されたものとはいえない」と結論づけました。

引用終わり

 

  これと似たことはアメリカでも世界的大企業であるエクソンで起こりました。これもISSのアドバイスが効いた例です。今年5月の朝日新聞ニュースを引用します。

 

引用

米石油大手エクソンモービルが26日に開いた株主総会で、同社に環境対策の強化を求める投資ファンドが推薦した取締役候補2人が選ばれた。エクソンは2人の選任に反対していたが、多くの株主は環境重視の姿勢に賛同。エクソンは今後、いっそうの環境対策が求められることになる。

 投資ファンド「エンジン・ナンバーワン」はエクソンに対し、「本格的に事業を多角化する努力をせず、将来の石油やガスの大量の需要を前提とした投資をしている」などとして、「株主の価値を守り高めるためには、変化しなければならない」と主張。一方のエクソンは、エンジンが「将来のエネルギーシステムにおける石油やガスの役割を無視している」「配当を維持・成長させるために必要な資金を危険にさらす」などと指摘し、反論していた。

 エンジンが持つエクソン株の比率は0・02%だが、機関投資家に議決権行使を助言する米ISSなどがエンジン側の取締役選任案に賛成を推奨。エクソン大株主の資産運用会社などが賛成票を投じたとみられる。

引用終わり

 

  このニュースは全米ではたった0.02%しか保有していない株主の提案が通った驚異的なできごとだと報じられ、ISSの力を示したものと解釈されています。

  そしてエクソンの総会でもう一つ中心議題となったのが「ESG」です。EとはEnvironment環境、SとはSocial (responsibility)社会的責任、GとはGovernance統治です。ESGというキーワードが今や世界の一大潮流で、企業が長期的に成長するためには、ESGへの取り組みが重要との認識が急速に広まっていて、その取り組みが甘い企業への投資は行わないという事になりつつあり、それに逆らう企業は今後株式投資の対象から外され、淘汰される可能性があると思われます。

  上記の東芝のケースはちょっとわかりにくいのですが、総会の運営の仕方が不当でG、つまりガバナンスがなっていないという意見が通って取締役会議長が再任されませんでした。そしてエクソンはE、つまり環境問題に対する姿勢が甘いとされ、わずか0.02%しか保有していない株主の提案が通りました。これらはいずれもその陰で助言会社であるISSが動き、機関投資家がそのアドバイスに従った好例です。

 

 資本主義の根本原理であるはずの多数決が、衆愚政治的単純多数決ではなく、独立性を持った議決権行使アドバイザーにより、透明性責任ある判断なしには済まされない状況に変化しつつあるのです。

 

  次回はエクソンで見られた環境問題への配慮が、世界的に機関投資家と企業の行動を律するものになりつつあることを、さらに具体例をもってお示しします。

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