コメント欄にいただいた「機関投資家の端くれさん」のご質問に、同じくコメント欄で回答を差し上げましたが、別の方からももう少し説明が欲しいとの要望をいただきましたので、今回は本文にアップすることにしました。
ご指摘が比較的短期の財政事情によるものでしたので、私からはみなさんの投資期間を考え、長期的視野に立つべきだという観点から以下の説明を差し上げました。数値の説明はアメリカ単独より、日本との比較で比べないと分かりづらいので、日本との比較をしています。
再掲
1. GDP対比での債務比率
30年前の日本は40%程度でそれが現在は252%とその間に6倍になっています。アメリカは同じく40%でしたが、現在は122%で約3倍です。
何故GDPとの対比が重要かといいますと、GDPの大きさは税収に直結するからです。法人税も個人の所得税・消費税もGDPが増えることが返済力の増加に直結します。
2. 今後の成長力について潜在成長力は日本の0.5%程度に対してアメリカは1.8%程度と推定されているため、将来の債務返済能力も大きな差が出る。人口の減少している日本と増加しているアメリカの差は拡大する一方となる。かつ技術革新力も大きな差がある。
3. 安全性指標として、食糧とエネルギーの自給できるアメリカに対し、日本は両者とも自給できない。また防衛力の差は言うまでもない。
4. 格付け会社の見立て
彼らは1の債務比率や返済能力、2の潜在成長力などを総合して今後を見通しています。
アメリカ AA+
日本 A+
G7で日本より低いのはBBBのイタリアのみ。
ということで、将来を展望すると日米の差は拡大の一方だと言えます。
大統領がトランプになるかバイデンになるかによる差についてはどっちもどっちで、両者とも有権者にいい顔をしたいので、大きな差はないように思えます。
以上が私の考え方です。
コメント欄では以上の説明をしています。さらに以下の補足をします。
今後を見通すにあたって重要なのは、なんと言っても経済成長の力です。日本が不動産投資と株式投資でバブルに酔いしれそれが破綻したのち、90年代前半からアメリカではIT時代が幕開けし、その恩恵を世界中が享受するほどになりました。
もちろん株式相場に限るとアメリカもITバブルが起り、それが2001年にはいったん崩壊したのですが、ITの技術力はむしろその後のほうが著しく発展しています。そのため株価も収益力を伴って上昇しました。
この傾向は今後AIの開発によりさらに加速されることが見込まれます。かたや日本はAI向け半導体の製造分野だけは健闘していますが、残念ながら最先端のAIソフトとその利用の競争からは取り残されています。
これをみていると私はかつて半導体というハードで世界をリードしながら、ソフトの分野では何も生み出せなかった頃を思い出し、「またか」と思ってしまうのです。
日米差はもちろん株式相場の比較でも表れています。
4月18日に4万ドルを超えたアメリカの株価に関して、本日5月19日の日経新聞は大きく取り上げています。
見出し;革新・代謝が4万ドルの源泉
小見出し;NY株、15年で6倍超上昇
時価総額、世界の半分
15年間と言うのはリーマンショック後に付けたダウの安値6,547ドルから現在までの期間です。では現在の株価が割高であるか否かを、株価収益率で見てみましょう。株価収益率とは、1株当たりの収益と株価の比較です。NY株価の現在の倍率は21倍。日本のバブルのピーク時は60倍でした。その株価が正当化されるには、日本のバブルのケースでは60年もかかり、アメリカ株では21年かかるという単純計算もできます。
アメリカ株の長期的平均PER倍率は17倍前後。20倍以上になると割高、15倍以下は割安の目途と言われます。それによると若干割高感はありますが、日本株のバブル時代とは比べものになりません。
しかし個別株で見るといわゆるマグニフィセント7銘柄はすべて20倍以上。特にテスラの80倍、エヌビディアやマイクロソフトの35倍はかなり割高と言える水準ですが、投資家はいずれ収益力が追い付いてくるとみているのでしょう。
私はテスラについては、疑問を感じています。EVでは中国のBYDなどが技術力で追い付いてきているし、最近はアメリカ市場でもハイブリッド車が見直されてきているからです。PER80倍を正当化する技術の発展が今後見込めるとは思えないのです。
日米の政府債務の話から、経済成長力の話に展開してしまいましたが、債務の返済力はしょせん経済成長によるということをみなさんも心に留めておいてください。
だとしたら私は絶対に買いません。
テスラがもしエヌヴィディアと同等のPER価値ありとすると、80-35=45の分、つまり割合では53%がマスク個人によるプレミアム分といえる。
彼がドジを踏む、あるいは追放されるか死んだら最低限それが吹き飛ぶ。
時価総額は84兆円くらいなので、44兆円が吹き飛ぶ勘定です。
そんな銘柄は絶対に買うべきじゃない。
それが私の見立てです。
コメントいただきありがとうございます。
日本の機関投資家は為替ヘッジすることが多いようです。その理由としては以下の通りと考えております。
①まずは時価で評価され、それが自分たちや母体の財務状況に影響が出てしまうことによるものかなと思っております。日本の最大の機関投資家であるGPIFはあまり為替ヘッジしていないと聞いたことがありますが、時価評価で損が出ても国会でたたかれる程度だけだからなのかもしれません。
②さらに、機関投資家は金融系が多いですが、為替予約をすることによる収入が金融業界の飯のタネの一つでもあるのかもしれません(一種の保険のようなものです)。彼らは為替予約しなくてもいいとは決して言いません。先生のような金融業界のことをよく知っていて今は縁のない人の本も読んで賢くなる必要はあると感じております。
>農林中金が外債で多額の損失を抱えているという
報道がされているため外債は危ないという認識を
持たれがちですが、これは機関投資家は時価評価を強いられているためで、債券そのものは満期までもてばその発行母体がつぶれない限り利息分儲かるということもきちんと報道した方がよいと感じております。
そのとおりだと思います。
しかしもう一つ報道にはないので真相はわかりませんが、昨年生保も同様に巨額損失を出しましたが、その原因は為替ヘッジをしていたためです。
そのことは23年3月3日のこのブログで指摘したとおり、価格変動の損失など、このところのドル高で消し飛び、おつりがくるはずなのに、そのチャンスをみすみす逃したのです。
昨年の記事のタイトルは「米国債投資絶好のチャンスなのに、愚かなる日本の生保」でした。
農林中金も生保同様、ドル安をヘッジするために、金利差だけに賭け、価格下落でやられたのかもしれません。
たったそれだけのことなのに、1兆円も増資するなんて、あきれますね。
これを防ぐにはどうしたらよいか?
「林敬一の本を読め!」(笑)
私の先日の質問に関して、追加の解説をいただきありがとうございます。
農林中金が外債で多額の損失を抱えているという
報道がされているため外債は危ないという認識を
持たれがちですが、これは機関投資家は時価評価を強いられているためで、債券そのものは満期までもてばその発行母体がつぶれない限り利息分儲かるということもきちんと報道した方がよいと感じております。そしてその債券の中では先生のおっしゃる通り米国債がぴか一だと思います。