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アメリカの財政赤字問題

2021年02月08日 | アメリカ国債の安全性

  アメリカでも日本でもコロナ対策として大規模な財政支出が予定されています。いまだに最終化はされていないのですが、財政問題を考える上では多めに見ておく方が安全です。例えばアメリカのバイデン政権の打ち出している1.9兆ドル、およそ200兆円を3年間で支出する案ですが、2月3日に下院で採決の結果承認されました。それに対して共和党は約3分の1の60兆円で対案を示しています。

  バイデン案が上院に送られた場合、可否同数となる可能性がありますが、カマラ・ハリス副大統領兼上院議長の1票が効き、バイデン案可決の可能性が強まりました。そのためNYの株式相場は再び最高値圏に押し上げられています。

 

  200兆円にものぼる支出のためには当然政府の債務が大きく増えることになります。それが果たしてアメリカの財政にどの程度のインパクトを与えるのかを見ていきましょう。

  政府債務の規模を計る指標でもっとも重要なのは、その国のGDPに対してどのくらいの比率になるかです。何故GDPと比較するのでしょう。それは返済能力を推し量るためです。GDPの中で最も多きい比率を持つのは個人消費です。アメリカではGDP全体の約7割を占めます。消費をすれば国あるいは地方自治体に消費税が入ります。それが債務の返済原資になるので大事なのですが、もちろんそればかりでなく個人の所得税や法人税などもおよそGDPに比例して政府に入ってくるので、GDPの大きさ、そして将来を見据えるとGDP成長率が重要になってくるのです。

 

  アメリカは日本ほどでないにしろすでに巨額の政府債務を抱えています。そこに200兆円が加わると、どれほどのインパクトになるのかを数字で見てみましょう。まず単純にアメリカのGDPは2020年に20兆8070億ドルですが、100円換算で2081兆円とします。それと3年間の対策費200兆円を比べれば約10%相当です。

  公平を期すためにIMFの公表数値を採用します。以下の数値は200兆円を織り込んで、IMFが今年1月にアップデートした債務比率の推定値です。アメリカ以外も参考のため付けます。日本は第3次補正予算も込みにしています。その総額は73兆円と言われていますが、実際に政府の支出は半分程度と、いつものとおり話半分です(笑)。

 

債務の対GDP比率推定値

アメリカ     128%

日本       258%

欧州        98%

世界全体平均    98%

 

  この数字を見るとアメリカの巨大追加予算など、日本に比べれば実はたいしたことがないように見えます。欧州はEUの盟主であるドイツが財政赤字を徹底的に嫌うため、他の国々が債務を累積させていても、平均値は低めに抑えられています。発展途上国が多い世界全体の平均も低めですが、それは借金する力がないことの反映でもあります。途上国は通貨が弱い国が多く、自国通貨建ての借入は高い金利を払わざるを得ず、ドルなどでの借り入れは返済に窮する可能性が強いので、どちらにしろ抑制的にならざるを得ません。

  結局経常黒字国であり国内に行き場を失った資金が溢れる日本と、経常赤字ですが基軸通貨ドルを有するアメリカの2か国が、返済に窮する可能性が低いためいい気になって借り入れを増やしているという図式になっています。

 

  ではこの先を考えるとどちらがより安全か。もちろん返済の源であるGDP成長力の高いアメリカがより安全であることは間違いありません。

  では返済能力の源であるGDP成長力もついでに見ておきましょう。直近10年間の成長率と、異常な年であった昨年と、今年の予想を3つ並べてみます。20年、21年はいずれもIMFの発表値です。                                            

         19年までの10年間   20年   21年

アメリカGDP     +34%      ▲3.4%  +5.1%

日本GDP         +5%         ▲5.1%  +3.1%

                                                  

  アメリカがこの10年で34%成長したのに対して、日本はたったの5%と、ほとんど成長していません。情けない限りですが、これが現実です。先ほども申し上げましたが、GDPは税収の源ですので、成長率が高まらないと対GDP債務比率は低下しませんので、返済に窮する確率は高くなります。格付会社などの評価は成長力を大きな要素と見ています。

 

  さて最後に、アメリカの今後を定性的に外観します。バイデン政権は新財務長官にFRB議長を経験したイエレン氏を任命しました。最後までトランプのいいなりであったムニューチン前長官とは大違いで、金融の世界のすべてを知り尽くしている人材です。現FRB議長のパウエル氏はトランプの指名ではありますが、トランプの言いなりにはならなかった気骨ある人物で、2人ともお互いの手の内も理解している信頼のおける人材です。そのコンビは世界の有力エコノミスト達を安心させています。FRBは今後も米国債の長期国債の買い入れを続けると同時に、短期金利をゼロ近辺に継続的に誘導すると思われます。先日申しあげたとおり、FRBの金利引き上げは23年までなしと想定されていますが、私はそこまで長く続けるとは思っていません。最近の10年物金利は1.1%を超えていますが、それを無理に下げることはしていません。

 

   さてここまでアメリカの財政事情を日本と比較しながら、見てきました。GDP対比で見た日本の債務の異常さ、また国債の返済能力の裏付けとなるGDP成長率の大きな差を見てきました。どちら場安全かは、一目瞭然です。 

   次回は日本についてもう少し深く見ることにします。

 

 

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