ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

アメリカの安全性について

2019年02月01日 | アメリカ国債の安全性

 珍しいことが起こりました。スキーから帰ってきてブログをチェックしたところ、26日にアップしたはずのこの記事がアップされていないことに気づきました。「しばしお待ちを」と言ったまま、2月になってしまい、申しわけありません。では早速。


  ブログ読者のお二人からアメリカ国債の安全性に関して、同じ様な質問がありました。他の方々も関心が高いと思われますので、本文にて回答させていただきます。

  まず山男さんからいただいた質問です。回答はすでにコメント欄にアップしましたが、追加の質問もありましたので追加質問への回答を含めここで再度アップすることにします。

 最初の質問と私の回答です。

 >アメリカの債務残高に関わらず、フライ・トゥ・クオリティは続くのでしょうか?

他に逃げ込むアセットはありませんので、続きます。それともどこかに代替候補はありますでしょうか。

>次に、FRBは日銀と違い規律ある金融政策運営を行うと思いますので、日本とは事情は異なると思います。しかし、アメリカの財政赤字増大によってドルの信認が下がって、長期的にはドル安基調になることは考えられないでしょうか?
(その前に円の暴落のほうこそ起こりそうですが)

全世界の国々のリザーブ・カレンシーとして、他に信認のある大きなサイズの通貨は見当たりません。

アメリカ財政の累積赤字がGDP比で日本以上になって、かつ日本以下の成長しかしない老大国になったあかつきには、そういうことが言われるようなるかもしれませんね。しかもFRBが日銀以上のおバカな政策を長期に渡って実行すれば、という条件も付きます。考えずらいことです。

>最後に、直近では30年ものの利回りが3%を超えていますが、先生はその理由は何だとお考えでしょうか?

えっ?

ご質問の真意を測りかねますが、金利レベルは需給の一致したところだから、ということしか言えません。

  これに対して山男さんは私が何か特別なわけを知っているのではないかと思い、たずねたとのことですが、私はそれ以上の理由はないと思いますし、流動性の高い米国債が多くの人が知らない理由で動くことなどないと思っています。

  そして山男さんから以下の追加質問がありました。

 >先生は、アメリカが力を失う、言い換えれば米国債が圧倒的な信頼を失うことが将来に起こり得るのであれば、それはどのような原因や事情のためとお考えになるでしょうか?

  トランプが8年大統領をやってアメリカの政治経済をめちゃめちゃにしても、復元力があるので大丈夫です。すでに下院を失ったトランプはドナルドダックですしね(笑)。私が先日記事で書いたように、「トランプ恐怖支配の終焉」の一つの証拠が昨日起こりました。トランプがメキシコの壁問題で議会民主党に一時休戦を申し出たのです。これまですべて押し切ってきたトランプは、民主党の軍門に下るなど考えられないことでしたが、それが起こりました。それは別としても、予見しうる将来で、トランプ以上の悪いインパクトをアメリカに与える事象は私には見えません。

  それでもあるとしたら中国でしょう。最近中国はハイテクを含む様々な分野で台頭していますが、それがアメリカ全体の競争力を脅かすまでに至るのは容易なことではありません。自由主義諸国は中国に屈することを「よし」としませんので、中国のテクノロジーやITインフラが世界を席巻するとは思えないのです。対ファーウェーが一つの例です。

 

  では次に日本丸さんからの質問と回答です。

 >本日124日付けの日経新聞に中国、ロシア、トルコの米国債売りの記事が出ておりました。

  はい、ですが若干問題のある記事です。米国債市場は世界でもっとも大きなアセットで、流動性も世界で一番です。「流動性」はなかなか一般の方には理解しづらいのですが、株式、為替、商品などを含めすべてのアセットの取引で最も大切な概念です。為替市場も流動性が高いので、みなさんが1万ドルのドル買いを入れても市場がピクリともしないように、米国債は1千億円程度の売買ではあまり価格は動きません。1兆円相当の売買でもあっと言う間にスムーズに消化します。

  記事では「中国の保有が5か月連続で減った。直近ピークの178月からの減少幅は5%になる」とありました。まずこの記事にごまかされないようにしましょう。5%減らすのに1年半もかかっているのに、5か月で5%減ったような書きっぷりですよね。驚くには値せずです。

 >各国が米国債を売っておりますが金利低下傾向という事は、それを上回る買いがあると理解しております。

  これはちょっと注意して見る必要があります。日経記事での各国の米国債売りは10月までの5か月のことです。アメリカ財務省の統計は時間にかなりずれがあります。この間に金利はおだやかですが上昇していますので、全く影響なしとはいえません。低下したのはその後のことで時間のずれにご注意ください。それでも、その後は日本丸さんがおっしゃるように、「それを上回る買い」が入ったのは事実でしょう。しかしその買いは中国の売りを吸収する性質のものではなく、単に株式相場の暴落に促されたいわばミニ・フライト・ツー・クオリティと考えた方が妥当です。そしてロシアやトルコの売りなどは、規模からも大きな影響は与えません。

  日経記事は「中国、ロシア、トルコ」の3国は政治的動機で米国債を売っていると書いていますが、実はアメリカの制裁に対する反撃などではなく、いずれの国も最近自国通貨安に悩んで介入をしているに違いないと私は思っています。米国債を売ったドルで自国通貨を買い支えているのです。特にロシアとトルコは通貨安で苦しんでいます。

  中国はかつてSDRに人民元を組み入れることに成功し、世界の主要決済通貨に入ることを目指しましたが、依然として中国関連以外の貿易決済などで人民元が使われる気配はありません。政治状況で動く通貨などSDRに組み入れること自体ナンセンスだと私は思っています。

 ※SDRとはIMFがドルなどの主要準備通貨を補う目的で創り出したいわば仮想通貨で、ドル・ユーロ・ポンド・円が一定の比率で組み入れられています。2016年に人民元が追加されました。

 >米国の金融緩和縮小や各国の米国債売りにより今年の米国債金利上昇というシナリオはあり得ますでしょうか。

「ありえるか」と聞かれれば、「ありえる」でしょうと回答します。

  山男さんへの回答にもなりますが、各国が自分で保有する米国債を売る時に、価格にインパクトを与え暴落するような下手な売り方はしません。誰が売っているかわからにように工夫して静かに売りますから、新聞が書きたてるようなおバカな売り方などしないのです。

  そして海外勢売りより緩和縮小のほうがよりインパクトはあると思いますが、金利を動かす要因は多数ありますのでこれだけでは不足です。先ほどの回答にあるフライト・ツー・クオリティもあれば、私が常に言うように、「物価と雇用」による売買も主な要因です。

 >米国、中国、日本の不動産市況の悪化も伝えられてきており、いつ金融緩和の副作用としてのバブルが弾けるのか、その時に米国債の金利がどうなるのか気になる次第です。

  日本の90年代の不動産バブル崩壊ほどの壊滅的状況にはならないと思います。理由はまともな投資家は不動産価格の適正相場をある程度心得ているし、サブプライムの反省はまだ残っているからです。もっとも一部の中国人の爆買いの反動は出るでしょう、現在のオーストラリアの不動産の価格低下のように。


>現在は年利2.42.6%程度のUSD1年定期預金で待機しつつ長期の米国債金利の上昇に応じて米国債購入していきたいと考えております。

 わるくない方法だと思います。でも定期預金は引き出しに制約がありますよね。予定した金利がもらえないというような。それを覚悟のうえでなら、問題はないでしょう。金利は少し低いですがドルのMRFという手もあります。変動で現在年利1.8%程度ですがペナルティはありません。

  以上が私の回答です。ご納得いただけますでしょうか。

コメント (15)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« さよならをもう一度・・・原... | トップ | 平成とはどんな時代だったの... »

15 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ももこ)
2019-02-01 15:44:18
林先生

お世話になっています。
FRBの利上げ停止が発表されましたので、米国債の金利は下がると思うのですが、長期はまだ間に合うますでしょうか。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の利付債でオーバーパー のものがあります。
2048年償還 利率3.125% 価格104.39 利回り2.901

しばらく長期はとめて、短期で利回り2%くらいのもので回した方がよさそうでしょうか。

返信する
Unknown (ももこ)
2019-02-01 16:38:06
林先生
連投すみません。

1年前の先生の記事で年限のリスクと金利差のことを書かれていましたが、30年で2.9%は間尺に合わないと見るのか、それとも今後さらに長期金利は下がっていくから2.9%でもよしとして買っておいた方がいいか、どのようにお考えになりますか?
先生のおかげで昨年から分散投資していますが、まだ
資金の10%くらいしか終わっていません。

なお、短期の場合の候補は下記です。
MMF2.1%、定期貯金2.3%、2020年償還米国債2.18%


返信する
ももこ様へ (たまち)
2019-02-02 04:33:42
ももこ様、はじめまして。横からおじゃまします。また、林先生ごぶさたいたします。

実は昨年11年の高利回りを私自身も逃してしまい、同じようなことを考えながら、長期債利回りを指を加えて見ているところです。
私の経験から何点か。

・三菱モルガンの米国債は、ネットに上がっているリストよりも実際にはかなり少ないので注意が必要と思います。電話で問い合わせてみると、意外にあれもない、これもない。どうやら、市場の状況をみて在庫を仕入れている(主にオークション?)ようです。債券価格が上向き(利回りは低下)の時には在庫が多く、逆の場合は少ないのではないかと推察しています。

・短期商品で「MMF2.1%、定期貯金2.3%、2020年償還米国債2.18%」とありますが、外貨預金は預金保険の対象外なので、預け先銀行に問題が起きた際には元本保証がないし、金利にかかる税金も雑所得になって損益計算や損益通算の対象外になるのでイマイチでしょうか。また、米国債はスプレッド(この場合、買値と売値の乖離)がわりとあるので、1年ぐらいの短期で売りと買いをするとロスが大きいのでは。実際にはこのスプレッドが証券会社にとって手数料になっていると思います。結果、MMFで回すのが一番お手軽ではないでしょうか。

・これから先、米国債利回りがどうなるか、先日のFOMCの本音をどう読むかを含め、とても混沌としてきたように感じています。例えば今日2月1日は、米時間朝から長期債利回りが10年も30年もぐっと下がって残念に思っていたのですが、その後発表された1月雇用統計を好感して長期金利は一気にプラスに転じています。過去数年のスパンでの利回りを思えば、この機会に少しでも買って、その分だけストレスフリーになる(忘れてしまう?)のも悪くないと思うのですが、いかがでしょうか。

それにしても米経済(長期金利)が今後どうなるかは気になるところです。FOMCの政策は大きな転換期を迎えたのか、それとも消費や雇用は堅調だが、企業債務が膨れ上がったところに金利高が来て不安定になっている一過性の現象に過ぎないか。しばらくは注視が必要だと思っています。
返信する
ありがとうございました (山男)
2019-02-02 10:21:34
ご丁寧にご回答いただき、ありがとうございました。

先生やコメントされる皆様のお考えを読みながら、これからも勉強させていただきたいと思います。
また、ほぼ書き上げたとのことですが、先生の新刊も楽しみにしております。

寒いですので、お体にはご自愛くださいますよう。
返信する
Unknown (ももこ)
2019-02-02 10:44:56
たまち様
有益なアドバイスありがとうございます。
三菱モルガンのリストは在庫があると思っていたので驚きです。

MMFは売却時(米国債を買うタイミング)に円転しない場合でも為替差益に課税されると過去のコメントに書かれていたので躊躇していました。。

米国債のスプレッドは、償還まで売らない場合でも関係するのでしょうか?

林先生 みなさま
いまは長期は様子見の方がいいか、
待つ間の資金運用はどうしてらっしゃるかなど、
いろいろご意見聞かせていただければ幸いです。






返信する
Unknown (たまち)
2019-02-02 10:50:36
おっしゃる通りで、間違えていました。償還の場合は途中売却じゃないのでロスはないですね。訂正します。
返信する
ももこ様 皆様 (陽子)
2019-02-02 14:23:21
大丈夫です。
長期分散で行きましょ。

ももこ様
この度、一割買えたのなら上出来です!
債券にはまだ不慣れでしたよね。

全投資予定額は私もももこ様と同じくらいなんです。
でも、先は長いので、ゆっくりと。

昨年7月からこの1月末までに、ももこ様の4倍弱を米国債に投資しましたが、まだ全体の5割弱は置いてます。

12年物までは予定の9割は終わりました。
今後は、29年物を24万ドル買う計画ですので、先月から月1万ドルと決めて買って行ってます。
様子を見ながらですが、こちらは2年計画です。
長生きリスクへの備えです。

こんな感じですよ。参考になれば。

円高時に少しずつドル転して外貨MMFで待機。
もちろん、今の利回りでも拘束されていいのなら2年物等の米国債でもよろしいかと。

ただ、三菱UFJMS証券に今、それがあるのかは、わかりません。

無い物が多いと、私も証券マンから聞きました。

債券に替える時、源泉徴収有り口座なら、税金とられます。無しなら、自分で確定申告です。
でも、基礎控除38万円や社会保険料の控除などもありますから取られても還付申告という手もありますし、それほど持って行かれないと思います。
返信する
陽子様 (ももこ)
2019-02-03 13:42:20
励ましとアドバイスありがとうございます。
一割しか買えていない自分が勇気ないなぁと思っていたのでほっとしました。

知人とは話しにくい内容で、貯蓄額も異なるとなかなか話が合わないので、陽子様の運用計画はとても参考になります。

以前、陽子様が紹介されていた金融電卓をやってみたところ、金利上昇を待つより、現状の利率でも早く買い進めた方がいいように思いました。

良い情報をいつもありがとうございます。

返信する
ももこさんとこめんといただいたみなさんへ (林 敬一)
2019-02-04 12:16:11
またスキーで留守をしていましたが、その間もコメント欄はしっかりと見ています。

20年を超えるような超長期債への投資判断を決断するのはなかなか難しいですね。昨年私は2度買い信号を出しました。しかしその後金利が低下してしまった局面では、超長期債はお勧めしません。ももこさんのご質問、

>1年前の先生の記事で年限のリスクと金利差のことを書かれていましたが、30年で2.9%は間尺に合わないと見るのか、それとも今後さらに長期金利は下がっていくから2.9%でもよしとして買っておいた方がいいか、どのようにお考えになりますか?

私のスタンスは変更ありません。3%を切っての30年債は間尺にあわないと思います。たとえば今日のレートは3.03%ですが、これも間尺に合わない方に極めて近い水準だと思います。それに比べて5年は2.50%、2年は2.51%、1年は2.55%と逆転し、金利のカーブに歪みが生じています。これに着目しましょう。

超長期、そして10年物長期債が買いづらい水準の時にはしばらく短期債で様子を見るという手があります。1年物を買って半年くらいして、金利が上昇したので長期債に変えたいという時、売却により損失は生じますが、期間の短い債券の価格下落幅は小さいので損失を気にせず長期債に乗り換えることができます。それは2年債でも同様ですが、損失幅は若干大きくなります。

長期金利の予測は株式の騰落予測と同様、我々が的確にできるものではありません。かつて世界最大の債券ファンドを率いてキング・オブ・ボンドの異名を持っていたビル・グロース氏も見通しに失敗してPIMCOというファンド会社を追われ、その後率いている債券ファンドが現在また危機に瀕しています。

金利の上下に賭け続けるとこうなりますので、それより常に安全サイドを取りながら、ご自分で納得できる範囲の分散を進めることがよいと思います。
返信する
ありがとうございます (ももこ)
2019-02-04 16:55:42
林先生

お忙しいところありがとうございます!

おかげさまですっきり方向性が定まりました。
しばらくは短期を買うことにいたします。
分散投資かつ償還まで売らない方針なので、
長期を買う資金は残しておきます。

SBIネット銀行が為替手数料0円キャンペーン中なので、長期のタイミングがくるまでドルを買い進めておきます。

いつも本当にありがとうございます。
立春の日に、とても爽やかな気分になりました。



返信する

コメントを投稿

アメリカ国債の安全性」カテゴリの最新記事