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トランプ支持率上昇のわけ 

2020年03月30日 | トランプのアメリカ

  アメリカが世界のコロナウイルスのパンデミック本拠地と認定される中、相変わらず大統領ともあろうトランプが吹きまくっています。BBCによると、3月25日の発言では、

引用

トランプ氏は米フォックスニュースに対し、イースターまでに国が通常の状態に戻れると期待していると述べた。

「我々は、比較的すぐに(経済活動を)開始する。(中略)私は、イースターまでこの国を開放させたい」

トランプ氏はその後のインタビューで、「イースターは私にとってすごく特別な日だ。(中略)国中の教会が満員になるだろう」と述べた。

引用終わり

 

  トランプのいい加減な発言は、この根も葉もない「イースターまでには収まる」発言だけではありません。3月26日付の日経新聞記事によれば、1月から順に以下のようなコロナ発言がありました。数字はその日のNYダウ平均です。

1月22日 全く心配いらない。すべての状況はコントロールできている 29,186/9

2月10日 ウイルスは4月には消滅すると思う 29,276/7

  26日 アメリカ人のリスクは極めて低いものにとどまっている 26,957/4

3月9日 世界が予期せぬ不意打ちを食らった 23,851/9

 15日 我々は素晴らしく制御できている ---休

 16日 世界のどこでもコントロールできていない。10人以上の集まりは自粛を 20,188/8

 18日 自分は戦時の大統領だと思っています 19,898/8

 24日 我々は経済活動を4月12日までに再開したい。イースターは私にとって特別な日だ    20,704/5

 

 こうした能天気なトランプのおかげで、アメリカは世界のコロナの中心地になってしまいました。トランプが大統領就任後、今大活躍中のアメリカ疾病予防センターCDCの予算を大幅に削減したことも添えておきます。

   そしてこの記事の大見出しは「大統領選にらみ トランプ氏焦り」、小見出しは「経済活動再開 来月12日までに」でした。トランプは4月12日のイースターまでに再開すると宣言したのですが、それを焦りからの言葉だというのです。トランプのあまりにもいい加減で大間違いな言動により、アメリカは初動操作を遅らせたため、今や世界のコロナセンターになってしまいました。

  しかしこの見出し、私に言わせれば大間違いです。その心は、のちほど。

  ではその間の株価の推移を見てみましょう。上の発言一覧の後ろに、発言当日のダウ平均の数字を書きましたので、それをご覧ください。1月22日、2月10日の29,000ドル台の史上最高値付近から、最近の2万ドル割れまで史上最大の大暴落でした。3万ドルが2万ドルまで、約3分の1が一か月少しで吹き飛び、かれの就任後の上昇はすべてなかったことになってしまいました。「トランプが焦るのも無理はない」と解釈可能です。

  にもかかわらず、私が日経新聞の「トランプ氏・・・あせり」の見出しが間違いだと言った根拠を説明します。上の一覧の株価の後に私は/4というように、斜線の後ろに小さな数字を書き入れています。これがその理由を説明する数字です。数字ヲタクなので数字ばかりで申し訳ありませんが、大事なことなので説明します。

  この数字はトランプの支持率からトランプの不支持率を引いた数字で、Real Clear Politicsからの引用です。

例えば 支持率45% ― 不支持率52%= ―7 なので、不支持率が支持率を7%ポイント上回っていることになります。この半年くらいはだいたいこのくらいの数字で推移していましたし、3月18日でも8ポイント差でした。マイナス符合は省略しています。もしトランプ支持率が不支持率を上回ると(+)プラスの数字になります。

  では直近はどうか。

18日 8ポイント

24日 4ポイント

25日 3ポイント

26日 2.5ポイント

27日 2ポイント

 

 24日くらいから支持率の上昇と並行して不支持率の減少により、就任以来初めて大接近しています。ちなみにこの世論調査の結果は単一の調査ではなく、全米で行われる主な世論調査をほぼ網羅し、その直近10調査あまりの移動平均を取っていますので恣意性はかなり排除されています。

  株価はトランプのいい加減さに呼応するように、そして感染者が増加するに従って大暴落したのですが、支持率・不支持率は逆に大接近して差がわずか2~3ポイントになっていることがわかります。このままいくと、逆転もありそうです。

  ゆえに、日経新聞の見出し「大統領選にらみ トランプ氏焦り」は全くの間違いなのです。それどころか、見出しは「トランプ大満足」とすべきです。日経さん、こうした数字くらいチェックして、私に噛みつかれないようにしてください。トランプは毎日支持率をチェックし、むしろ自分のいい加減な出まかせ発言を喜ぶ支持者が多いので、もっといい加減なことを発信しよう、となるのです(笑)。

  ではアメリカ人の間で何故こうしたバカなことが起こるのか。私なりの分析をしてみます。まず感染の拡大にともなう株価の下落に対して政権が金融危機時を上回る巨額の財政出動を決めたのがひとつ。しかしこれはだれもが予想する当たり前のこと。それよりも、『アメリカ大統領の支持率は戦時に上がる』が理由だ、というのが私の分析です。

  ブッシュはパパもジュニアも戦争に踏み切りましたが、その前に低迷していた支持率が戦闘開始で一気に8割を超えました。それをトランプはもちろん知っています。そのため最近トランプが言い出した言葉は「オレ様は戦時の大統領だ」です。自分を非常事態、それも戦時の大統領と位置付けることで3匹目のドジョウを狙い、アメリカ国民はまんまとそれにひっかかっているのです。

  では今後もトランプの支持率は上がり続けるのか。そう簡単にはいかないでしょう。いい加減な発言で初動操作を遅らせ感染者を増やした責任はいよいよ問われるでしょうし、一方で感染者は全米で最大でも、必死に食い止めるため厳しめの制限を叫び続けているNY州のクオモ知事が、支持率を大いに上げています。

  一昨日そのクオモ知事を意識してトランプ大統領がNY州などにより厳しい移動制限を検討中と伝えられましたが、クオモ知事が逆に「移動制限は混乱をもたらすだけだ」とかみつき、トランプはキャイーン、と泣いて引っ込めました(笑)。

 

  世界のコロナセンターであるアメリカの今後の推移に注目していきましょう。

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6 コメント

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今後の米国債金利について (田中)
2020-03-30 22:24:11
こんばんわ。最近、金利について勉強したいと思ってインターネットをさまよっていたところ、林先生のブログにたどり着き、著作を読ませていただきました。実務経験から語られる債券や金利へのお話は、これまで読んだ学者の方の話と違い、実践的で、大変貴重な勉強をさせてもらっています。
そして米国債への投資にとても興味を持つようになりました。そこで、米国の30年債の30年の過去チャートを調べたところ、綺麗に下降トレンドを描いていることに気づきました。リーマンショックなどの経済危機の度に金利が一気に低下し、経済が安定してくると、金利が経済危機前の水準手前まで戻して、また経済危機が来て一気に下がるということを10年程度のサイクルで繰り返しているようです。

先生のおっしゃるとおり有事の米国債買いが下降トレンドをつくっているようですが、有事の際にアメリカ国債が今後も買われていく前提とすると、米国債の金利は今後も下降トレンドを続けるみてよいのでしょうか。その場合、今後はあまり高望みせず、3%台で30年債が買えれば御の字だと思うのですが、先生はどう思われますか?
また、今後、下降トレンドを上回って金利が4%、5%台に届くような場合、米国自体のリスク要因によるネガティブな金利の上昇しか思いつかないのですが、ポジティブな理由から上昇する可能性はあるのでしょうか。
ご意見お聞かせいただけると幸いです。
今後の米国債金利について2 (田中)
2020-03-30 22:33:37
先のコメントで金利金利と書いていましたが、利回りの誤りでした。失礼しました。
田中さんへ (林 敬一)
2020-03-31 14:58:51
初めまして。ようこそ私のブログへ。
ご質問いただき、ありがとうございます。

>実務経験から語られる債券や金利へのお話は、これまで読んだ学者の方の話と違い、実践的で、大変貴重な勉強をさせてもらっています。

ありがとうございます。そう言っていただけると、素直にうれしく思います。
債券の話は教科書的に書くと、これほど面白くない話はないほどつまらないのです(笑)

>30年の過去チャートを調べたところ、綺麗に下降トレンドを描いていることに気づきました。リーマンショックなどの経済危機の度に金利が一気に低下し、経済が安定してくると、金利が経済危機前の水準手前まで戻して、また経済危機が来て一気に下がるということを10年程度のサイクルで繰り返しているようです。

その通りですね。しかも危機のサイクルを描きながらも、長期ではダウントレンドを抜けていません。

>米国債の金利は今後も下降トレンドを続けるとみてよいのでしょうか。その場合、今後はあまり高望みせず、3%台で30年債が買えれば御の字だと思うのですが、先生はどう思われますか?

トレンドが大きく転換するのは見通せませんね。特に今は危機の真っ最中なのでよけいにそうですね。

30年債の3%、このところの推移では、しかたないレベルだと思います。もちろんそれは田中さんのおっしゃる「今後はあまり・・・・」の今後が何年くらいをイメージされているのかにもよります。

そのしかたないレベルでどれくらい買うのかも、一口で簡単には答えられません。

このところの読者の方々の質問への回答にあるように、田中さんはどの程度の資産をお持ちで、そのうちのどの程度を米国債投資に回そうとされているのか。すでにドルをお持ちなのか。また一気に買うのか分散するつもりなのか。
また、そもそもここまで利回りの低下している米国債に何故注目されているのか。そうした考えをよく伺ったうえでないと、軽々に買えというシグナルは出せません。特にここまで金利が低い時はそうです。
私がこのところ回答に慎重になっていること、是非ご理解ください。
単に有料アドバイスを広く始めたからという理由ではありません(笑)
お返事ありがとうございます。 (田中)
2020-04-01 00:17:40
個々の事情を考慮せずに答えを示すのが難しいこと、理解しました。個人相談の窓口を設けて頂いているので、自分なりに方針を考えてから、タイミングを見てアドバイスを頂きに伺いたいと思います。こうしてお返事をいただけるだけでも本当にありがたいことです。
債券に興味を持ったのは、20年、30年スパンでの複利運用で、着実に増やしていけると知ったからです。また、償還期限による利回りが違いや、価格変動の影響度の違いを考慮して、自分にとっての最善を考えることができる柔軟性に、純粋に面白さを感じています。
しばらくはドルへの交換を進めながら、この先の変化を見守ろうと思います。
ありがとうございました。
ブログ楽しみにしています。
田中さん (林 敬一)
2020-04-01 10:24:40
私の趣旨をご理解いただいたようで、ありがとうございます。

日本は投資と言えば株式しかなく、債券本の出版数は株式本のきっと千分の1くらいかもしれません、いやもっとかな(笑)。実際の市場のサイズはほぼ同じなのに。
林先生 (田中)
2020-04-01 18:10:56
本当にそのとおりで、金利や債券で本を検索しても数える程度しかでてきません。仕方なく、よく分かる図解金利とかを読んでましたが、よく分かりませんでした(笑)
先生の著作が出版されるとのことで、楽しみにしています。

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