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ブラックスワンが来た

2020年03月19日 | ニュース・コメント

   相場にまさかの大リスクが来ることを「ブラックスワンの出現」と言い表します。

  この言葉、もともとは2007年にナシーム・ニコラス・タレブという数学者で天才的ヘッジファンドのマネージャが著わした「ブラック・スワン」という本のヒットで知られるようになりました。その後彼は「まぐれ」という本も書き、とてもお面白いリスク分析ですので、興味があればお読みください。

  今回のコロナウイルスによる相場の崩壊は、まさにこの世にいるはずもない「ブラックスワンが来た」でした。というのも単なるバブル相場の崩壊であれば、誰もがいずれは来るぞと心の片隅で予想しながら投資をしていますが、新型コロナウイルスの世界的蔓延で相場が崩壊するとはだれも予想すらしていませんでした。新たな伝染病の世界的蔓延もある意味では予想の範囲ですが、株式相場がそれにこれほど打たれるという予想は聞いたことがありません。

 

  統計学用語でブラックスワンを表す言葉は、「テールリスク」です。ちょっと難しい話になりますが、統計でよく使われるグラフに正規分布というグラフがあります。真ん中が高く両側のスソはしだいに低くなっていくベルのような形をしています。それが表している意味は、世の中の様々な事象は真ん中、つまり平均値の近くで起こる確率は高く、平均値から乖離すれば発生確率はどんどん低くなると言うもので、ある意味あたりまえの事象をグラフにした用語です。

  正規分布のベル型は真ん中から離れて端のほうに行けば行くほどなだらかになり、最後は高さがゼロになってしまう。つまり恐竜のしっぽが先に行けば行くほど細くなるカタチなので、そんなところで起こってしまう事象を「テールリスク」と呼びます。確率的にはほぼゼロに近いのですが、コロナショックはそれが現実に起こってしまったということです。

  しかし今回の株式相場の崩壊を冷静に分析してみますと、NYの株式市場で言えば史上最高値を数年間も継続してきたのですから、暴落するエネルギーを長年にわたりため込んできたとも言えます。

  世界にはコロナウイルス・ショックは予想できなかったとしても、この一年の相場の危うさを指摘していた「稀代の相場師」がいます。それはもちろん、こうした相場崩壊時にこそ虎視眈々と底値での投資チャンスを狙っているあのバフェット爺さんです。

  ウォーレン・バフェット氏は08年の金融危機で相場が崩壊し世界の投資家が絶望する奈落の底で、こう言い放ちました。

「この危機にこそ、わしが市場に流動性を供給しないで、いったい誰がやる!」

  彼の場合、流動性供給とは株を買ったり株式への転換権付きの債券を買うことなのですが、言葉としては「流動性の供給」と、まるで中央銀行総裁のような言葉を使ったのです。その理由はもちろん、大崩壊時に必要なのはなにより流動性だからです。そしてその後の展開は言うまでもなく、各国の中央銀行も右へならいで市場に国債などの買取りを通じて流動性資金を供給し、同時に金利の引き下げをおこないました。

  今回も各国の中央銀行は協調して市場に流動性を供給しています。そのやり方は主に国債を買ったり、CP(短期の約束手形)の買取り、中銀から市中銀行への貸出増加などです。株式そのものを買うなどというタワケたことは、日銀しかしません。

 

  では今回の株式市場崩壊に至る間のバフェット爺さんの言動を見てみましょう。時間をさかのぼります。19年8月に彼は最初のウォーニングを発しました。

  株式相場が伸びきって度を超えたと見ると、いつも彼が引っ張り出すのは「バフェット・インディケーター」呼ばれる単純な指数です。株式の時価総額とその国のGDPを単純に比較します。GDPが100のとき、時価総額も100で同等あるいは少しオーバーくらいなら市場はちょうどいい、つまり割安でも割高でもない。ところが株の時価総額がGDPを大きく上回って例えば130くらいになると、それは赤信号とみなし警戒警報発令となります。そのバフェット指数昨年央から厳重警戒レベルになっていたのです。

  ここからはアメリカのCCN(CNNではありません)という市場コメントやちょっと怪しげなニュースも載せるサイトの今年1月7日の記事から、私がかいつまんで引用し日本語訳したものを記します。

引用サマリー

  これまでアメリカ株が大崩壊を起こしたときにバフェット指数はどうだったか。00年、ドットコムバブルが崩壊した時比率は146%になっていた。崩壊後はゆっくりながらも順調に回復した株式市場だが、08年リーマンが破綻し金融危機と言われた時はまた高値まで買われた。指数は137%程度でかなり高かった。

  ではバフェット爺さんが警告を発した去年の8月はどうか。その時点での時価総額はGDP対比で約140%とすでに赤信号になっていたのです。そして記事が書かれた今年の年初はどうだったか。なんと157%にもなっていて、いつ大崩壊が起きてもおかしくないレベルでした。

サマリー引用終わり

 

  というようにオマハの賢人、バフェット爺さんの指数で分析すれば、そりゃコロナなんぞなくとも崩壊するわ、となるのです。

「相場のことは相場に聞け」などという格言は、結果がわかってからの言い訳に過ぎないことがわかります。そうです、

 

「相場のことはバフェット爺さんに聞け」なのです。

 

  そのCCNにはさらに面白いことが書いてあります。それはアメリカの大手メディアであるCNBCがアホだったという記事です。(CNBCは昔の3大ネットワークの一つNBCです)。

CNBCは爺さんの運営する「バークシャーハサウェイが懐に125億ドル、つまり13兆円も投資できない無駄がねを貯めこんでいる」と書いたが、今となって爺さんがいかに賢い選択をしていたかがわかる、というものでした。

 

  さあ爺さん、この13兆円をこれからどう使うか、楽しみですね。

  ちなみに爺さんの会社バークシャーハサウェイの株は暴落後の3月18日終値でもなんと1株が256,300ドル、2,768万円もします。しかし親切な爺さんはみんなが買えるようにそれを1,500分の1に分割したバークシャーB株を発行していて、それなら昨日18日の終値で1株172ドルです。

ここからだったら楽しいミニ株投資かもしれませんよ(笑)。

おわり

コメント (5)
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