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トイレットペーパー騒ぎと質への逃避

2020年03月05日 | ニュース・コメント

  こうした騒ぎのたびにトイレットペーパーがなくなるのは何故だろう。

  みんな自分もバカだと思いながらも、ないと困るという一心で買いこむ。一昨日の昼頃のテレビで「納豆が免疫力アップにいい」と言っていた。家内から買い物をたのまれて午後4時くらいに近所のスーパーOKストアに行くと、やはり売り切れ。OKストアの納豆売り場は想像を絶するほど大きな棚に、いつもなら数種類の納豆が山積みにされていて、私は好みの小粒のオカメ納豆3パック入りたった63円のものを1つ買います。あんなに手間ひまかかる納豆パックが1つ21円だなんて、申し訳ないと思いつつ手にします。しかし今回はからっぽ。

     消費者のテレビへの感応度は抜群ですね。納豆でコロナに対抗できるわけないのに、愚かな消費者たちの愚かしい行動は、本当に笑うしかありません。その愚かさはマスクを本当に必要な人々を困惑させ、医療や介護関係の現場に大きなリスクをもたらします。

   

  さて、アメリカの長期金利、10年物国債の金利が1%を割り込みました。これではもちろん投資するには値しません。これがどういう意味を持つかを解説します。

  今回の新型コロナウイルスの蔓延により、株価は世界的に大暴落しています。どれほどの暴落だったかをまずNYダウで見てみます。直近の高値は2月12日の29,551ドルで、これは史上最高値です。それが一昨日の終値で25,917ドルですので、12.3%の下落で、金融危機と同じような下落率になっています。ではこの25,917ドル程度の値が過去ではいつ付けたのかを見ますと、昨年の8月末ですから、今年2月まで約半年かけて上昇してきた価格を3週間で一気に失ったことになります。

 

  ちなみに日経平均は同日比較で23,861円が21,082円ですので、11.6%とほぼ同様の下落率でした。日経平均もダウ同様に過去の同レベルがいつ頃だったかを見ますと昨年の9月初めです。日経平均もやはり半年かけて上昇した価格をあっという間に失ったことになります。

   一昨日のアメリカでは慌てたFRBが翌日物の政策金利を0.5%というけっこう大きな幅で利下げを決めました。それでも株価はむしろ700ドル強下げてしまいました。そんな中で米国製長期金利は1%を割り込むという史上最低レベルをつけたのです。金利が低下したということは売られたのではありません。米国債は市場最高値まで買われた結果イールド、つまり金利が下がったのです。

  米国債は私が常々申し上げているように、世界に一兆事があると資金が集中して買われます。逆に株式は一兆事があると売られて資金が逃避します。その逃避資金が米国債に集中投資されたため、金融危機の時よりも買い上げられ金利が低下したのです。

  こうした非常事態においてアメリカ国債に世界のおカネが集まることを金融用語で「質への逃避」と呼びます。英語ではFlight to qualityです。10年に一度程度の非常事態です。前回はもちろん金融危機の08年から09年にかけて、その前はITバブル崩壊の01年でした。

  では日本のバブル崩壊時はどうだったか。日本の株式が暴落を始めた91年から97年の金融機関大破綻に至るまで、米国債への資金逃避は全く起きていません。世界にとって日本のバブル崩壊など、どうってことなかったのです。勝手にバブったんだから勝手にはじけていろ、という程度でした。

 

  今回の異常なほどの資本逃避で、くしくもアメリカ国債の安全性が証明されたのですが、一方投資を考えている方にはチャンスが遠のいたことになりました。アメリカ国債のイールドの低下は、一方で円高を作り出します。従って待機資金を円で保有している方にとっては、ドルへの転換のチャンスです。

  今回の米国株式の暴落と国債金利の低下にもかかわらず、円高はさほど進んでいません。為替の専門家たちがいつも言う「リスクオフの円高」とか、「相対的な安全通貨である円に買いが集まった」というコメントは聞かれません。いつもいつもこうしたことを言っている専門家に、何故今回そうした言い訳を使わないのか、説明してほしいものです。

  私の考えでは、すでに日銀が政策手段を失っていると見透かされていること、そして日本の全般的信頼度が低下しているからだと思っています。

コメント (29)
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