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減税で今後のアメリカ金利はどうなるか?

2017年12月21日 | トランプのアメリカ

  トランプ減税が実現することになりました。彼にとって初めてといってよい公約実現の朗報ですので、「オメデトウ」と言ってあげましょう。

   米国債へ投資をしようと待機している方にも、減税のニュースは金利上昇を伴っているので朗報ですね。10年債金利は久々に2.5%近辺になっているので、買いのチャンスがめぐってきていると思います。一方株式は定石通り、うわさで買われたため、事実で売られています。

  では、長期金利の今後はどうなるのでしょう。来年以降、さらに上昇していくのでしょうか。

  先日のFRBによる利上げに長期金利は反応せず、今回の減税による財政赤字拡大見通しに反応しています。長期金利は長期見通しに正しく反応しているのでしょう。今回の金利上昇の解説の中にはつぎのような説があります。

   減税内容と影響を簡潔に説明しますと、「今回の減税はトランプのような金持ちと企業に手厚く、その他大勢には少しの恩恵がある」いう内容です。個人所得では高額所得者の最高税率がいちばん下がります。中・低所得層にも若干恩恵があるものの、さほどの大きさではないため、民主党などは反対していたのです。法人税率は35%が21%へ、企業は平均すると10%程度の利益押し上げ要因になるという計算が、エコノミストなどから示されています。それにより経済・財政はどうなるのか。

   アメリカ財政は08年の金融危機のあと、巨額の景気対策により09年には赤字をGDP比で10%近くまで拡大させました。日本では財政によるテコ入れを始めると際限がなくなりますが、アメリカは違います。11年には財政赤字削減策を開始し、15年度の財政赤字はGDP比で2.4%にまで縮小しました。赤字幅を4年で4分の1に削減するという早業です。この2年くらいはそれが足踏みし、GDP比で赤字は3%台で推移しています。

  そうした赤字削減を実現してきた原動力の一つが、歴史的に小さな政府を標ぼうしてきた共和党の力です。オバマ政権下でも、議会では多数派を形成していました。その共和党がトランプの術中に見事にはまり、民主党もビックリの財政赤字増大に踏み出しています。

 「共和党、おまえもか」

   トランプの人気取りに簡単に乗ってしまうとは、党是である「小さな政府」を今後どうするつもりでしょう。それはそれとして、政権のトラタヌ皮算用は以下の通りです。

 「減税による企業利益拡大と個人所得向上による消費拡大で、GDP成長率4%を実現する。経済拡大により将来は税収が上がり、財政は健全化する」

   えっ、4%成長?

  多くの研究機関、IMFのような国際機関、そしてエコノミストの計算では、減税が経済に与えるインパクトは、おしなべると年間わずか0.4%程度です。例えばOECDは減税を見込んだうえで18年の成長見通しを2.2%から2.5%に0.3%上方修正しました。成長率見通しの低さは、雇用の伸びが限界に達していることによります。成長による財政赤字の大幅削減など夢のまた夢というのが大方の評価です。

   アメリカも今後は高齢化が進みますので、潜在成長率はよくておよそ2%程度と見込まれますが、そこにトランプによる移民規制や貿易制限がかかれば、減税による0.4%の上乗せなど吹っ飛んでしまう。となると、長い目で見た金利動向も、どんどん上昇するとは望みにくい、それが私の見方です。

  長期金利が上昇すればこのブログの読者のみなさんは米国債投資を実行に移すと思います。本日の日経新聞も、日銀による9月末の資金循環統計を引用し、「家計・企業の金融資産3,000兆円」、「海外シフト鮮明」というタイトルの記事を載せています。その中でも「目立つのは企業だ。M&Aなどの対外直接投資は前年比20.2%増、証券投資は38.6%増と際立っている」と書いています。中でもアメリカへのシフトが鮮明です。

   こうしたアメリカへのシフトは日本特有の事象ではなく、海外でもカネ余りが継続するため、安全志向の強い投資マネーは米国債に向かうとみられ、債券の需要面からも長期金利の上昇余地は抑えられる、というのが私の見立てです。

  

コメント (8)
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