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大統領選挙の戦後処理

2016年10月26日 | アメリカアップデート

  私がNYに住んでいたのは80年代後半で、87年の大統領選挙を現地で経験しました。選挙は共和党の父ブッシュと民主党のデュカキス候補の戦いでした。うちの二人の子供たちは当時11歳と8歳でしたが、小学校で「お前はどっち支持だ」というのがあいさつがわりだったそうで、教室でも先生が大統領選挙を日常的に話題にし、生徒間でも議論させていたそうです。

    今回の選挙の争点の一つであるトランプの女性問題を、いったい小学校、中学校、そして高校などで先生がどう取り上げているのか、とても心配だし興味があります。テレビで毎日、毎時この問題が取り上げられているため、学校でも避けて通ることはできないと思われます。さぞかし困っていることでしょう。

  さて、CNNはすでにポスト選挙の問題を取り上げ始め、上の子供たちの問題などを真剣に議論しています。一国の大統領候補が放送禁止用語を連発している様子が何百回と放映され、それを常識ある著名人などが非難しても彼は意に介しません。相変わらず「9人の女はすべてウソつきだ。選挙後に訴えてやる」。「アメリカのメディアはすべて偏向し、オレ様を降ろそうとしている。こいつらも訴えてやる」と息巻いています。そして挙句の果てに「オレが勝ったら選挙は公正。負けたらインチキだ」

  このあまりのひどさにニューヨークタイムズは遂に、彼がこれまでにツイッターで行った他人などへの侮辱的発言を見開き2ページで全部掲載しました。なんとその数は6,000件に上っています。

  そして「トランプ・パレス」などと名の付いたコンドミニアムに住む人たちが、名前を外せという運動を始めました。これも戦後処理の一つになるでしょう。


   では、今回の選挙後の大事だと思われる後遺症問題を私なりにいくつか取り上げてみます。

後遺症に関する主な点は以下の3つです。

1. アメリカの分断をどう修復していくか

2. トランプ支持者の精神的後遺症にどう対処するか

3. 共和党は党の分断をどう修復するか

  それぞれに対してもう少し解説します。

1.アメリカ国内の分断をどう修復していくか

これと同様の問題はすでにドゥテルテ問題で取り上げていますが、アメリカでもポピュリズムが今後も最大の政治課題として継続します。今回トランプは「反既存政治」という打ち出しで支持を勝ち取っています。この問題は選挙で負けて終わりではないため、今後政策的な対応をする必要があるでしょう。トランプがあれだけ支持された理由は、数年前のウォールストリート占拠運動から表面化し始めた格差問題で、対処は簡単ではありません。

2.トランプ支持者の精神的後遺症にどう対処するか

CNNでは、イラク戦争後の帰還兵士のPTSD、心的外傷後ストレス障害問題にも似た症状が、トランプ支持者やこのニュースを毎日浴びさせられていた子供たちにも表れるとして、精神科医とセラピストをスタジオに呼び、今後の治療について議論を開始しています。この期に及んでもなおトランプの遊説で熱狂的に沸き返っている人々の敗戦後のケアーを真剣に議論しているのです。

そして、より個人的問題としてはトランプを支持して先頭に立っていた、ニュージャージー州知事のクリス・クリスティーや、元NY市長のルドルフ・ジュリアーニなども同じです。ジュリアーニはNY市の犯罪撲滅に貢献し、9・11の時の市長で、冷静な対処が称賛されました。しかし今回の選挙では一貫してトランプを支持しています。2か月ほど前にCNNのキャスターとの1時間に及ぶ1対1の対談で、驚くほどCNN非難を行い、キャスターがそのあまりの非道ぶりに遂に本気で怒ってしまったことがありました。テレビ放映中であるにも関わらず、彼の話ぶりはトランプどころかドゥテルテもびっくりするほどのひどい言葉の連発でした。元市長ともあろうものが、いったいどうしたというのでしょうか。

ジュリアーニのように、著名人でトランプに篭絡され選挙後もマインドコントロールの解けない人たちは、選挙後はきっと社会的に葬り去られるでしょう。しかし、アメリカ国民の何割かがトランプ後遺症に悩むとしたら大問題です。

3.共和党は党の分断をどう修復するのか

共和党は修復不能に近いところまで深々と分断され、民主党もクリントンとサンダースで同じ問題に直面していました。もっとも民主党の場合、サンダースはプライマリー選挙敗北後にクリントン支持に回ったため、表面上分裂はしていません。しかし共和党はそうはいきません。政策論争での対立であればある意味しかたないのですが、トランプを支持する支持しないは、その人の人間性が問われる事柄です。党分裂の危機を今後どう克服するかが見ものです。

   大統領選挙といつも同時進行で、上院・下院の入れ替え選挙も行われます。上院は3分の1、下院は任期2年のため全員の改選です。共和党は現在上下両院で過半数を占めていますが、トランプの悪影響のため、特に下院で多数が怪しくなっています。

以上、すでに始まっている戦後処理についてでした。

コメント (4)
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