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原油価格の回復をどう見るか

2016年10月14日 | ニュース・コメント

  大統領選挙の見通しが立ったので、政治から経済に目を移します。

  このところの世界の様々な市場の動きで注目すべきは原油価格の動向です。9月末のOPECの減産合意を受けて、原油価格は40ドル台後半から50ドル台に乗せました。OPECの盟主サウジが遂に自国の財政ひっ迫と、他のOPEC諸国の疲弊に対処せざるを得なくなりました。減産合意は8年ぶりとのことです。

   そしてその後プーチンがロシアもOPECの減産に協調すると表明したことで、市場には安心感が広がっています。

   実は原油をめぐる大方の懸念はことごとく外れています。ちょっとこの2年ほどを振り返ります。

  原油価格は14年に100ドル付近から半値の50ドル台まで大暴落しています。その時エコノミストたちがこぞって逆オイルショックによる恐慌がくるかもしれないと騒ぎ立てました。

   それに対し14年の年末に私は以下のようにコメントしました。

 引用

1.原油価格下落のメリット享受国はアメリカ、ヨーロッパ、日本、中国などの経済大国をはじめ産油国を除く全世界

2.原油価格下落の最大の被害者は産油国であって、その経済規模は消費国に比べはるかに小さい。つまり中東・ロシア・ベネズエラ・ナイジェリアなど

3.経済問題以外では、最悪状態にある国際紛争解決に神風となる。常に世界の火種でありイスラム国まで出現した中東や、このところの火種の一つロシアの力を削ぐ神風が吹くのは、民主的な自由主義諸国にとって大きなプラス

  2度のオイルショックを思い起こせば、今回はその逆なので心配などいりません。オイルショックが世界経済を不況に追い込んだように、逆オイルショックは世界を不況から救ってくれます。単純な事実関係を複雑に考える必要はありません。

引用終わり

   そしてその傍証としてウォールストリートの記事を引用しました。それには石油価格が60ドル台で1年推移した時に、各国のGDPはどれくらいプラス・マイナスの影響を受けるか、シミュレーション結果が示されていました。その数字は以下のとおりでした。

引用

GDPにプラスのインパクトがある国

韓国2.4%  インド1.8  日本1.2  ドイツ0.8  中国0.8  アメリカ0.5
同  マイナスのインパクトがある国

クウェート18.1 % サウジ15.8  イラク10.2  ナイジェリア5.4  ロシア4.7


引用終わり

   原油価格は上記シミュレーションの60ドルよりもさらに下落し、16年は9月まで平均でも50ドルを割り込んで推移していましたが、世界経済は恐慌になどなっていません。


   そしてもう一つ言われていたことは、16年春頃、原油価格がさらに20ドル台まで暴落した時、「アメリカのシェール産業が壊滅し、シェール企業が発行した巨額のジャンクボンドが金融危機を引き起こす」でした。

   それに対して私は3月22日と27日のブログで、「そんなことは全くない。ジャンクの投資家はギャンブラー達だから。ギャンブラーが負けたところで、どうってことない」と申し上げました。

  私はアメリカの会社更生法をノースウエスト航空の例を示して説明し、こうも言っています。アメリカのシェール関連企業は、サウジなどがいくら価格を低下させて倒産させたとしても、そんなものは仮の倒産でしかなく、価格が上昇すればすぐに戻って生産を始める。そしてそれが繰り返されるたびにテクノロジーの進化により、より強靭になって帰って来る可能性が強い」。

   その結果はどうだったでしょう。価格戦争に負けたのは攻め上ったはずの盟主サウジとOPECでした。そしてついでにOPECに追随したロシアです。

   ちょっと残念なのは、もっとサウジが頑張っていれば、中東とロシアという地政学上の2大リスクがより小さくなっていたかもしれないし、ISISも石油に資金調達を頼れなくなり、弱体化します。

   というようなことを言うと、サウジの混乱はリスクを増すことになる、と反論されそうです。確かにサウジが中東で睨みを効かせることで安定が保たれている部分はあるし、原油価格の一層の下落は中東全体の不安定さを増すことになるかもしれません。それでも長期で見れば、ロシアや中東が経済力を落とすことは、その分自由主義経済圏に経済力がシフトすることなので、決して悪いことではないのです。

   一応ニュースでは、「約60社のシェール企業が倒産し、その負債総額は2兆円あまりだ」ということになっています。しかし倒産即破綻でないことは申し上げた通りで、その証拠にアメリカの原油生産量はピークの940万バレルから約1割程度しか落ちていません。

  一方、このところ株価の動きは原油価格の動向と方向を一致させ、原油が下がると株価も下がり、原油が上がると株価も上がっています。それを見て株やさんちのエコノミスト達が一喜一憂するので、あたかも原油価格の上昇が好ましいものだと思い込んでいる人が多い。それに加えて物価下落の真犯人は原油価格の下落だとする中央銀行の論調に乗せられていますが、それらの議論は根本的に間違っています。理由は以下の2つです。株やさんちのエコノミスト達に答えてもらいましょう。

 1.中東諸国、ISIS、ロシアが大復活し、羽振りを効かせることは好ましいですか?

2.ガソリンなどエネルギー価格の上昇に所得が吸い取られ、他の需要が減ってしまうのが好ましいですか?

    このブログの読者の方には、世の中の大方のエコノミストなどの言うことうのみにせず、問題の本質をしっかりと理解してこの先を見通していただきたいのです。

    では原油とともに大事なシェールからの生産されるLNGの価格を見てみましょう。LNG価格は今年2月の百万Btuあたり1.7ドル台のボトムから現在は3.3ド台へなんと2倍ちかく上昇しています。世界の石油やLNGの需給は、新興国経済のスローダウンにより緩んでいるというのが一般の見方ですが、中国やインドなど新興国の大どころは成長がマイナスになっているわけではなく、先進諸国よりはるかに高いプラス成長を維持しています。従って需要面での懸念は大きくありません。調子が本当に悪いのはバブルに踊ってそれが破裂しつつあるシンガポールと、他でもない石油生産国くらいです。

    もちろんここから一気に原油価格が上昇を続けることはないでしょう。ですがOPECとロシアはアメリカのシェール産業の軍門に下り、思うがままの価格操作などできません。高くなればすぐシェール軍団が大増産する図式に今後も変わりはないでしょう。

    世界を混乱に陥れる地政学上のリスクの根源たちはこの先も苦しい展開が予想され、そのことは先進国・新興国を問わず石油消費国経済と世界の安全にとってはたいへん好ましいのです。

以上

コメント (1)
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