アメリカ大統領の共和党候補がトランプに正式に決まりました。応援演説ではファースト・レディー候補の演説の大事な文言が、8年前のミッシェル・オバマの演説のパクリだったと判明してミソを付けています。しかもCNNは彼女に対して演説以前にインタビューし、そこで「スピーチ・ライターは誰か」と聞いたのに対し、「私が書いた」と言わせていました。なんともバツの悪い、言い訳のしようもない大失態です。
他にも共和党の全国大会は異例づくめで、会場には反トランプ党員が押しかけて「Dump Trump!」とトランプ排除のシュプレヒコールをあげ、党の重鎮はだれも出席をせずに暗黙の抗議をし、彼らに代わる応援演説はトランプファミリーばかり。最後には候補を降りたテッド・クルーズが、一切トランプ応援の言葉のない応援スピーチ?をして、「本選挙ではみなさんが自らの信条に従い、憲法を守る候補に投票しよう」と、あからさまに反トランプののろしを上げるというお粗末な大会でした。
私はこの戦いは「良識派対非良識派の戦いだ」と申し上げてきましたが、共和党員にも良識派は多数いることがわかり、やはりいつもの共和党対民主党の戦いではないことが明らかになったと思っています。
実は先ほどまでCNNで彼の受諾演説を1時間15分、ライブで聞いていました。演説の中身は選挙スペシャリストの予想した、「これまでの主張をマイルドに修正した内容」などではなく、これまで彼の言っていたこととなんら変わりのない、ポピュリストによるアジ演説でした。移民に対しては壁を作るぞ、貿易協定は全部見直しだ、イスラム国をやっつける、軍事同盟国にはコストを払わせる。
演説中に何度も何度も言った言葉は、「Make America Great Again. America First. そしてBelieve Me!」。コミットメントの具体策などなく、俺を選べば明日からすぐにすべてを実現してみせる。「俺を信じろ」の一点張りでした。彼を選んだ共和党さん、党の結束をみじんも示すことができず、誠にお気の毒様でした(笑)。
そしてこの演説を聞いたあとの単純な感想としては、ポピュリストとしての彼の恐さを見たということ。ヒトラーやパナマのノリエガ、ベネズエラのチャベス、金正恩、さらにトルコのエルドアンなどに見られる大衆を掌握する力を大いに感じました。
念のため再度申し上げますが、私は民主党を支持しているわけでも、ヒラリーが好きでもありません。ただただアメリカ、日本、そして世界のためには、Anyone, but Trump. トランプでなきゃ誰でもいい、ということです。
さて、シリーズの続きです。世界的な金利低下と株高が同時に起こっていることについて、前回の記事で私は以下のように書いています。
「株価と債券価格の同時上昇の大きな原因は、Genrechtさんも書いていらしたように、世界の余剰マネーがアメリカに引き寄せられているということだと思われます。」
世界的なカネ余りが続くと、株高・債券高の状態はずっとこのまま続くのでしょうか。
今一度、この数年の成長率、金利、そして株価上昇率を加えて並べてみます。
12年 13年 14年 15年 16年(推定)
実質GDP 2.2 1.5 2.4 2.4 2.4
名目GDP 4.1 3.1 4.1 3.5 3.4
米国債10年物6月末 1.67 2.52 2.53 2.35 1.49
各年最高値 2.30 3.01 2.86 2.48 2.13
S&P500(株式) 16.0 32.4 13.7 1.4 7.5
インフレを加味したアメリカの名目成長率が3-4%で堅調に推移しているのに対して、株価の成長率はそれを大きく上回り、非常に高い伸び率を示しています。これは投資家がかなりリスクを取っているという事を示していますが、そのリスクの取り方をPER(株価収益率)でみてみます。
このところ数年間は伝統的な15~20倍未満からかなり上方にはずれていて、20~25倍程度を示しています。ちなみに日経225の倍率は戻っても14・5倍にすぎません。
株式がそこまで買われていることを近頃のアナリスト風の言い方で言えば、リスクオンの状態が続いているにもかかわらず、本当の意味の安全資産である米国債も同様に買われ、債券側から見ると正反対のリスクオフの状況にあります。
今回はさらにリスクマネーがどう動いているのかを見極めるために、いつもあまりみなさんが見ることが少ないと思われる高リスク資産の価格動向を見てみます。
みなさんには以前、「たまには商品相場も見ておきましょう」とお伝えしました。実行されていますか?
まず商品相場の主要指標であるトムソン・ロイターCRBインデックスの2・3年間の動きを追います。14年の前半まではおよそ300前後で推移していたものが14年後半から下落し始め、15年は年間を通して下落。年初の220台から170台まで約2割下落しました。そして今年の2月19日に160と最安値を記録。その後現在は184と5か月で15%も一気に戻しています。その動きの主役は原油です。2月に26ドル台だった原油(WTI)が現在45ドル付近まで約7割も上昇したことが大きく貢献しています。
次にこれも代表的リスク商品である新興国の株式相場を見ましょう。代表的インデックスであるMSCI 新興国株価指数を見ますと、先進国の株価より1か月くらい早い1月に約700でボトムを付け、現在は868と25%も上昇しています。
さらに、これぞ私が忌み嫌う代表的リスク商品のジャンクボンドです。こちらはイールドからみるのではなく、価格をiシェアーズ・ドル建て社債ETFの価格が把握しやすいのでそれを見ますと、2月初旬に8,928でボトムを付け、現在は10,491と17%もの上昇です。
以上を見ることで、世界の代表的リスク商品のほとんどをカバーできたと思います。これらのほとんどが年初にボトムを付け、そこからから2割程度の回復を示しました。
世界の余剰資金は必ず大きく動き回ります。いまいちどレビューしますと、今年は年初の1月2月くらいにアメリカのスローダウンや中国をはじめとする新興国の景気低迷の懸念から、株式も商品相場もずいぶん下げていました。ところがアメリカをはじめとして実体経済は、相場の動きに反して意外と堅調でした。ところがそれに6月のBREXITが冷や水を浴びせ、一時的にかなりの程度あらゆる相場が下落したのですが、ここにきてBREXITショックは、現物経済や金融市場自体のショックではなく、地政学上のショック、それも将来がどうなるかわからないことに対する不安が大きかったとわかり、相場を回復させました。
しかもNY株式などが史上最高値を更新するに至っては、単なるBREXITの反動以上の期待感を抱かせます。
それにもかかわらず、米国債の金利だけはBREXIT後のボトムの1.37%からわずか0.2%程度しか戻していません。それを価格に換算すると計算上はたった2%程度の動きです。そして今年の年初のイールド、2.25%に比較しても、あまりにも低いレベルでしかありません。
次回はその低金利の意味するところを私なりに読み解き、将来の予測のヒントにしたいと思います。