イギリスではあっという間に首相が交代してしまいましたね。もともと勝ち目のないもう一人の首相候補、離脱派のレッドソム氏は「英国は大変な時期にあり、可能な限り早く新首相を選ぶことが国益だ」と語り、実に見事な引き際を見せました。その後新首相のメイ氏が官邸前で行った就任演説も、難しい局面での引き継にもかかわらず堂々としていて、簡潔かつ要領を得た内容だと感じました。
さらに新首相を印象付けたポイントは新閣僚指名の中で、逃亡中のジョンソン氏をひっ捕らえて、「EUとの離脱交渉は言い出しっぺのお前がやれ」ということで外相に任命したことです。もちろん新首相自身も前面に立ち交渉を行うと宣言し、最重要課題にかかげました。
こうした一連の動きは、市場にはポジティブに捉えられたようです。
今後のイギリスのEU離脱問題で特に金融にかかわる部分で重要な、「ロンドンのシティの地位」が果たしてどうなるかについては、近々別途書くつもりです。
一方、市場はアメリカ株の驚くほどの好調さを受け、だいぶ戻していますね。特にドルをお持ちのみなさんが心配されていた為替市場では、15日正午現在106円台と、「相対的に危険だとみなされている円が大いに売られている」ようです(笑)。
では本題に戻りますが、今回はちょっと長いです。いや、いつもか(笑)。
まず各国金利の状況をアップデートします。シリーズの最初にBREXIT以前と以降の各国金利レベルを示しましたが、それに昨日のレベルを追加します。
各国10年物指標金利% 6月13日 7月1日 7月14日
アメリカ 1.62 1.44 1.54
英国 1.23 0.87 0.79
ドイツ 0.02 ▲0.11 ▲0.04
フランス 0.39 0.18 0.18
日本 ▲0.17% ▲0.26 ▲0.23
アメリカとドイツはある程度上昇、日本は若干の上昇、フランスは変わらず、英国はさらに低下とマチマチの動きになってきています。第1波が去った証拠が見て取れます。なかでもアメリカではこのところ発表された経済指標が比較的かんばしいものが多く、株価は史上最高値を連日更新しています。
シリーズ2回目ではアメリカFRBの利上げ先送りに関して、アメリカの実質GDP成長率が四半期ごとに低下していることが重要な要因の一つだろうと申し上げました。ここ1年の実質成長率は以下の通りでした。(前期比年率)
15年第2四半期 第3四半期 第4四半期 16年第1四半期
3.9% 2.0% 1.4% 0.8%
そして「実にコンスタントに低下しつつあります。この状況ではFRBも利上げには踏み切れず、長期金利も簡単には上昇しないでしょう。つまり正常化への復帰であっても、やはり成長率鈍化には勝てない」と申し上げました。もちろん世界経済の動向も影響を与えたとは思われますが、なんといっても自国の経済状況が最重要と思われます。
今回はGDP成長率をすこし長い系列で見てみましょう。5年間の数字を示します。16年は推定値です。実質GDPも名目GDPも年間の伸び率は実にコンスタントな数字であることがわかります。そこに10年物国債金利の6月末と各年の最高値を追加してみます。
12年 13年 14年 15年 16年(推定)
実質GDP 2.2 1.5 2.4 2.4 2.4
名目GDP 4.1 3.1 4.1 3.5 3.4
10年物6月末 1.67 2.52 2.53 2.35 1.49
各年最高値 2.30 3.01 2.86 2.48 2.13
金利は各年の6月末も最高値も瞬間風速ではありますが、実はけっこう狭い範囲で推移していることがわかります。6月末を指標の一つに上げたのは、直近16年の実績がすでに出ていることと、各年のいつを見るのが適当かを考えたとき、年央がよいと思っただけで、恣意的な意味合いはありません。
米国債投資のタイミングを計っている方にとっては各年の最高値もきっと気になるところでしょう。こちらは13年末をピークにして年々低下しています。インフレ指標も実質的に含む名目成長率がさほど低下しているわけでもないのにです。
5年間の成長率推移にNY株式価格の伸び率の欄を加えますと、NY株式が実にコンスタントにしかも大きく上昇していることがわかります。12年から株価の年間上昇率を並べますと、
12年 13年 14年 15年 16年(現時点まで)%
16.0 32.4 13.7 1.4 7.5
15年を除くとほとんどの年で株価の成長は2桁の伸び率を記録し、5年平均でも2桁の伸びになっています。
コメント欄でGenrechtさんは前回の記事にあった「相関関係」という言葉に反応され、各国の株式相場が相関関係にあるということを指摘されました。またこの金利問題では『株式価格の上昇と債券価格の上昇という本来であれば逆相関になってもよいはずの両者が同じ動きになってしまっている』という主旨のご指摘がありました。
この部分については、必ずしも教科書的にも「逆相関だ」と言えない悩ましさがあります。例えていえば、
「金利が低いということは景気刺激的となり、将来の収益向上が見込める。従って株価にもよい刺激となり上昇する。逆に金利が高いと景気抑制的になり、将来の収益低下見通しから株価は低下する。」という事も言えるからです。株価も金利も現在だけでなく将来も見据えて値付けされるため、時差のとらえ方次第で、その時々で因果関係に違いが出ます。
この伝でいくと、金利の低位安定が株価上昇の原因の一つだ、とも言えます。
しかし株価と債券価格の同時上昇の大きな原因は、Genrechtさんも書いていらしたように、世界の余剰マネーがアメリカに引き寄せられているということだと思われます。
それと各国の株式相場の連動性については、もちろんグローバリゼーションの進展の結果だと思われます。各国・各地域とも貿易や資本移動、そして人的移動の活発化で相互依存関係を強めています。
最近は「反グローバリズム」という言葉を使ってそれに対して批判的な意見が多くなっています。BREXITの主張の中にもありましたし、アメリカ大統領選挙の焦点の一つでもあり、果てはイスラム過激派の主張にも反グローバリズムの考えが入り込んでいます。
私は以前も申し上げましたが、世界各国・各地域に見られるのは自然発生的な「グローバリゼーション」であって、グローバリズムという思想や意思の元に進展しているわけではないと思っています。
交通・運輸・通信手段が発展すれば、人・物・カネが活発に動き、交流するのは当然だと思います。それをイズム、つまり主義だととらえ、政治や宗教の勝手な「反グローバリズム」という考え方で阻止することなどできないでしょう。
あの鎖国状態の北朝鮮でさえ国内で稼働している生産手段や通信手段、武器、エネルギーなどの重要部分のほとんどは海外から技術を得て初めて稼働したものです。もちろん日本の今日の発展も明治に開国したことがスタートになりました。
そうした世界の相互連関は今後も進展するのは間違いありません。それでこそ世界は発展します。よく言われる「行き過ぎたグローバリゼーションが格差を生み、反グローバリズムを生んでいる」というのはある程度は事実でしょう。しかしそれに乗って行かなければ世界のどの国も発展からは取り残されます。それでも構わないという過激な思想は、不幸な結果しかもたらしていないと私には見えます。
相互依存度が高まることにより世界の景気循環や株価まで連動性が高くなり、変動幅が増幅されてしまう、いわゆるボラティリティーが高まるという危険性が生じます。それを合理的に阻止する手段を人類は見い出せていません。理想的には各国・各地域の景気循環の周波数が異なり、波を打ち消し合ってくれるといいのですが、そうはいきません。
つづく