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アメリカ国債と日本国債、どちらが安全か、3.金利上昇インパクトの検証

2014年10月04日 | 2014年の資産運用

 ここまでアメリカ国債と日本国債のどちらが安全かを見てきました。いままでにお示しした数字をまとめておさらいしますと、

まず政府の債務残高の対GDP比率は、
 アメリカ= 106%
 日本  = 232%


日本の債務比率はアメリカの2倍を超えています。

 そして債務を返済する原動力が経済の成長力です。どちらが成長力をもっているか、まずこの7年の実績値を見てみますと、
    
        07年末    14年第2四半期
日本     515兆円     487兆円          ▲5.4%
アメリカ  14,480十億ドル 17,326十億ドル      +20%

 日本は7年前に515兆円だった名目GDPが、直近(4‐6月期の年率換算)で487兆円。意外にも5.4%も減少しています。一方アメリカの名目GDPはリーマンショックをはさみながら07年の14,480十億ドルから17,326十億ドルへなんと20%も成長しているのです。現状の数値をだけ円で比較しますと1ドル100円換算で日本の487兆円対アメリカの1,732兆円、3.6倍のひらきがあります。

 そして一番問題なのは、今後両国の経済がどうなっていくかですが、それには潜在成長力を見る必要があります。推定を含めた両国の見通しは以下のとおりかなり決定的なのです。

潜在成長力比較
 アメリカ
  IMF見通し2.5%+シェール革命0.3%+イノベーション?=3%程度
 日本
  IMF見通し0.7%+アベノミクス?+イノベーション??=0.7%±?


 もっともこの数値は実質成長率のため、インフレ率が今までのようにアメリカが高いと差はさらに大きくなることに注意しましょう。

 先日の記事で、原稿を出版社に持っていったところ一発で出版が決まり、編集局の全員が「米国債を買いたい」と言っていた、というエピソードを紹介しました。もう一つエピソードを紹介します。それがこの日米の国債安全度比較です。編集者から「もしアメリカが先に破綻したらどうするのか、書いておいてほしい」と言われました。そこで私は債務比率や潜在成長力の比較などの数値を示し、「絶対にそれはありえない」と主張したのですが、「どうしても書け」とのこと。

 著書にはいやいや書いた「アメリカの破綻が早いケースへの対処」という項目が「R氏・B君の運用方法」のところにちらっと載せてあります。その時に私の心に浮かんだ言葉はある有名な経済学者が言っていた「人は理論や数字では決して動かない」という言葉です。数字を重んじるはずの経済誌の編集者でもそうなんですから、ましてや最近このブログで活発に議論されていたような方に数字は通用しないのでしょう。

 それでも私は「経済・金融は数字がすべてだ」と思っていますし、みなさんにはそれが通用すると信じています。
 
 さて今回の本題です。日銀のクロちゃんはやみくもに国債を買いまくり、今や日本国債1千兆円のうちの2割、200兆円を買っています。そのお蔭で日本はアベクロコンビの政策が大成功に終わると、実は破綻します。それを「す・う・じ」で示しておきます(笑)。国債の残高の内容は、14年3月末の財務省発表数値を使用します。日銀の保有も平均値に沿っていて、現状でもさほど変化なしと仮定します。

国債平均残存年数;7.7年
残存国債平均利率;1.15%・・・クーポンのことです


 アベノミクスの目標通りインフレ率2%、実質成長率1%で、3%の名目成長率が達成できたとすると長期金利は3%程度に上昇するとされていますので、それを適用して価格変動を計算します。

 上記が1銘柄の国債だと仮定します。すると年限7.7年、ク-ポン1.15%、市場金利が0.27%なので、上記国債の現在の価格は106.67と計算できます。

 市場金利が10年物長期金利で3%まで上昇したとすると、残存7.7年の金利は2.8%程度へ上昇するでしょう。すると価格は88.69に下落します。約17%の下落です。

 日本国債の全投資家が平均年限並みにポートフォリオを作っていたと仮定すると、1,000兆円程度の国債の価値は170兆円減り、その損失をみんなで被ることになります。そのうち日銀は2割を保有していますので、34兆円の損失です。

 日銀の14年3月末の貸借対照表上の自己資本は3.4兆円とありますから、自己資本の10倍が計算上吹き飛ぶことになります。その時、クロちゃんはどういう顔をして記者会見に臨むのか、見ものです。同様な事態は日本中の金融機関や年金運用のGPIFなどを襲います。

 数字ばかり羅列して申し訳ないのですが、アベノミクスの成功により長期金利がたった3%に上昇しただけで、これほど壊滅的になるという帰結は、すくなくとも債券イールド計算ができないとシミュレーションすらできません。ましてや計算結果を受け入れることなど、絶対にしたくないでしょう。

 何度か申し上げましたが、全世界の債券の残存額は株の時価総額の3倍もある巨大な世界ですが、自国の国債価格が激震を起こすまで、誰もが決して見ようとはしない世界なのです。


コメント (20)
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