ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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円高トラップに嵌まり込む日本  25.じゃ、どうしたらいいの? その⑧

2012年03月19日 | 資産運用 


  一週間あまりの海外出張の間に相場はずいぶん動いていますね。特に米国経済の順調さを裏付けに世界の株が買われ、米国債の金利も順調に上昇してきています。それに連れ円レートは、居心地の良さそうなレベルに下がってきつつあります。

  ななしさんからは、

「ところで円安スイッチもう入っちゃったのかな?」

とのコメントをいただいていますので、私なりの返答をさせていただきます。

 質問への直接の回答は、

「本格的円安スイッチはまだだと思います」


  本格的円安は経常赤字と財政の破綻による大転換ですが、今回はそこまでに至っているわけではありません。円高修正の原因は、以下のとおりだと思います。

・経常黒字幅の鈍化
・日銀の追加緩和発表
・米国景気回復と米国金利上昇


  前も申しあげましたが、米国債の金利上昇と円高が、両方タイミング良くくるのを捉えるのは、とても難しいとおもいます。両者は基本的には反比例するからです。投資タイミングを探るには、どちらかを優先して考えざるをえません。どちらを優先するかと言えば、私のおすすめは米国金利優先の判断です。理由は、両者の変動要因の差にあります。

  米国金利の変動はせいぜい2・3年の景気循環のサイクルで、そのまま金利が高止まりしたままになることはありません。一方、本格的円安の要因である日本の財政破綻や経常収支赤字化は構造転換で、ずっと長期的な要因です。そして、変動幅は構造転換の場合は非常に大きいものです。
  ですので今回の局面では米国債金利を優先して見ておき、投資タイミングを判断する。

米国金利が高くなった時に
1. まだ円が高ければラッキー
2. 多少の円安レベルなら将来の超円安を期待して、投資に踏み切る
3. うーんと円安に振れていたら、投資を見送りにしましょう

  その点、U3さんが取っている戦略、円レートが高いと見たときに米ドル建てMMFに投資して資金を待機させ米国金利上昇を待つ、これが今回は功を奏するかもしれません。

  米国金利上昇と円安スピードのどちらが早いかを的確に予測するのは無理です。私がみなさんにアドバイスできるのは、両者にはサイクル要因と構造要因という違いがある、というところまでです。

  回答になりましたでしょうか?
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タイへの出張から戻りました

2012年03月19日 | 日記
  今回の目的はタイの若手経営者との会合と、バンコク在住の日本人ビジネスマン向け講演会です。洪水問題はすっかり片づいて、次の発展の妨げにはならない様子でした。タイは親日的だという話は聞いていましたが、25年ぶりに訪れると街中を走っている車がほとんど日本製だということから改めてそれを実感させられました。

  タイの若手経営者たちとの会合は新鮮でおどろきに満ちたものでした。日本やアメリカ経済の話しを30分くらいで終えるやいなや熱心な質疑応答がはじまり、それが食事時間にも食込みながら3時間半におよびました。

  彼らの興味はまず日本の長期停滞と政府の負債の肥大化が今後自分たちのビジネスにどんな影響をもたらすのかです。なぜそれを聞きたがるかといいますと、彼らの企業グループが日本の企業とも非常に密接に繋がっていて、日本の存亡は彼らにも大きな影響を与えるからです。日本企業の進出は大企業による単独進出だけではなく、中小企業がタイの企業と合弁会社を作る形態が多く、今回の経営者たちも合弁のタイ側のパートナーです。

  彼らの心配に対する私の回答は、

1.日本の財政破綻はもちろん世界を震撼させるし大いに悪影響をもたらす

2.日本企業はそうした災害を想定しながらすでに海外への分散投資を進めている

3.むしろ海外投資が日本を救う道になるため、財政破綻があってもなくても、日本企業の海外進出は加速する。タイ企業との繋がりは強くなる一方なので安心してほしい

  というものです。

  それに続き私が10年あまりM&Aの仕事を行っていたことを知り、自分たちもM&Aに積極的に挑戦をしたいということから、さまざまなチャンスのつかみ方について教えてくれ、とリクエストされました。円が今後安くなったら日本企業の買収も考えてみたいし、日本での合弁事業も追及したいとのことです。彼らの事業意欲は、日本人が30年くらい前に抱いていた意欲に似ています。新興国の若手経営者のエネルギーを目の当たりにして、目を覚まされた思いです。


  タイ在住日本人向け講演会でも私の日本国債を巡る話しはとても新鮮だったようで、熱心な質疑応答がありました。講演内容はみなさんに紹介した日本経営合理化協会の講演内容のサマリーに近いものです。そして私の本をすでに読んだ方が何人かいらして、債券投資の具体的やりかたにまで質問が及びました。
その中で面白かった議論を一つ紹介します。それは、

「日本が将来財政問題で混乱したら、我々はどうしたらいいんだ?何か明るい展望はないのか?」

というものです。私の回答は、

「大丈夫、展望のヒントはみなさんのいるタイにあります。政府がだめでも日本企業は非常にたくましく、タイでこれだけ大きくビジネスを展開しています。こうした海外への展開が経営リスクを分散し、母国に頼らないモデルを築きつつあります。タイへの進出は、将来の日本の生き方モデルです。きっと将来の日本はみなさんが背負って行くことになると思いますよ」と回答しました。

  私は老大国イギリスがたどった道、つまりマネーゲームに近い金融投資に頼る生き方より、日本に向いているのは実物投資に頼る生き方だと思っています。

  タイの洪水は、日本企業のサプライチェーンの浸透ぶりを我々に気付かせてくれました。現地に行ってさらに気づかされたのは、進出は大企業ばかりでなく、中小企業も非常に多いことです。そしてタイの企業経営者も、そうした日本との繋がりをさらに進めて行こうという意欲に燃えていました。日本への期待はとても大きく、それに応えることが日本の新たな展開につながることを確信しました。
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