「オナラブル・カンパニー・オブ・エディンバラ・ゴルファーズ」
ゴルフの総本山は、ロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフクラブ・オブ・セントアンドリュースだと言われます。今年の全英オープンの開催地、オールドコースのスターティングホールと最終ホールのところにある歴史的建造物の中にロイヤル・アンド・エンシェントはあります。
ゴルフの歴史にあまり興味のない方に、ここからのお話は全くもってどうでもいい話なのですが、少しでも興味のある方には是非知ったかぶりのよいネタになりますので、覚えておいて損はないお話を差し上げたいと思います。
私が今回のツアーでプレーをしたコースで、ゴルフの歴史上とても大事なコースがいくつかあり、そのゴルフ場にまつわるお話です。
比較的よく知られているのは、オールドコースはパブリックコースで、あのとても偉そうで長ったらしい名前のロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフクラブ・オブ・セントアンドリュースの立派な建物はコースのクラブハウスではなく、地元のジェントルマンズクラブの建物だということでしょう。ですのでオールドコースでプレーをする普通のプレーヤーは、コースでプレーはできてもクラブの建物の中には入れません。
つまり総本山はあくまで厳しいメンバー制のプライベートクラブで、たまたまオールドコースをプレーに使っているのです。その会員制クラブが総本山と呼ばれる理由は、ゴルフの世界統一ルールを決める権威を持っているからです。
ではここからが知ったかぶりネタの一つ目です。世界初のゴルフのルールは誰が作ったか?それは実はオナラブル・カンパニー・オブ・エディンバラ・ゴルファーズという会員制クラブが作りました。ロイヤル・アンド・エンシェントではないのです。初のルールは13箇条の御誓文として、1744年にオナラブル・カンパニーが作りました。そのオナラブル・カンパニーは自分達の地元であるエジンバラ郊外にプレーをするためのプライベート・コースを持っています。それが今回私達4人がプレーをしたミュアフィールド・ゴルフクラブです。セントアンドリュースから海を越えて直線で数十キロ南のリンクスコースで、やはり全英オープンを開催する権威あるコースです。
しかしオナラブル・カンパニーはミュアフィールドに来る前は、すぐそばにあるマッセルバラというゴルフ場を本拠地としていました。そこはかつて6回の全英オープンを開催し、現在も9ホールのゴルフ場として残っています。このゴルフ場はギネスから「証拠となる書類上プレーをしたと確認ができる世界最古のゴルフ場」と言う名誉ある認定を受けています。それは1672年3月2日のことでした。それ以前の1572年には、スコットランドのクイーンメリーが、何度となくプレーを楽しんでいたとも書いてあります。ついでに認定書の横にある記念プレートには、ここで全英オープンが開催されたことも記載されています。
私達はこのマッセルバラ・リンクス・ゴルフ・コースでもプレーを楽しみました。コースのロケーションはビックリですが競馬場のトラックの内側にあります。競馬場はかなり本格的な競馬場で、非常に大きなレース・トラックを持っています。9ホールのゴルフ場が入っているほどですから。9ホールといってもいわゆるショート・コースなどではなく、400ヤードを超えるパー4もあるコースです。それを見て私はインディ500の自動車レースを見に行った時、コースの内側にやはりゴルフコースがあったことを思い出しました。
スタートホールのティーはレース・トラックの外側のクラブハウス横に設定されているため、第一打は50ヤード程の芝のトラックを越えて打っていきます。しかもなんと240ヤードもあるパー3です。2番からしばらくはトラックの内側ですが、430ヤードパー4の4番ホールのティーショットでまたトラック越えのショットになり、次ぎのホールでまた内側に戻るという、結構スリルに富んだレイアウトです。我々はこのコースをウッドクラブ1本、アイアン1本にウエッジとパターの4本クラブで挑んだのですが、けっこう楽しむことができました。
先ほど申し上げたお通り、ゴルフルール13条の御誓文を作ったオナラブル・カンパニー・オブ・エディンバラ・ゴルファーズは、ミュアフィールドに本拠地を移す前は、この由緒正しき古きマッセルバラを本拠地にしていて、そこで世界初のルールを作ったのです。
次のお話は、全英オープンにまつわるお話です。今年の全英オープンは天候に翻弄されて決勝戦が月曜日にずれ込みました。我々はオープンの開催されているセントアンドリュースからわずか数十キロ南のミュアフィールド近辺で毎日ゴルフをしていたのですが、ほとんどが晴れたり曇ったりで、雨に降られたのはわずか3ホールだけというラッキーさで、今回も私の晴れ男は健在ぶりを発揮しました。
セントアンドリュースのオールドコースは、古くからオープンを何度も開催していて、あたかもオープン発祥の地と思われているのですが、じつは違います。発祥の地は我々4人組がツアーの初めにラウンドしたプレストウイック・ゴルフ・クラブです。これが知ったかぶりネタの二つ目です。
オープンは1860年10月にプレストウイックで始められ、最初の12回までは全てプレストウイックでした。その後各地でも行なわれるようになったのですが、プレストウイックではなんと24回も開催されているのです。ところが1920年を最後に開催されなくなりました。理由は単純で、観客席を作る場所的余裕がないのです。なにせ1番ホールのティーグラウンドの横は電車の駅で、ホームで待っている人たちはティーショットを見物しながら電車を待つというのどかさです。しかしプレーヤーにとってこのホールは極めて難物で、線路に沿った狭いフェアウェーにボールを打ち出さなくてはいけません。友人のティーショットは見事に線路に打ち込まれましたが、そのボールがどうなったかは知る由もありません(笑)。
と言うことで、ゴルフの知ったかぶりネタをまとめますと、
〇ゴルフの最初のルールはロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフクラブが作ったのではなく、オナラブル・カンパニー・オブ・エディンバラ・ゴルファーズが作った
〇現在のオナラブル・カンパニー・オブ・エディンバラ・ゴルファーズは今はミュアフィールドを使っているが、かつてはマッセルバラが本拠地であった
〇証拠書類が残っている世界最古のプレーは、マッセルバラでプレーされた
〇全英オープン発祥の地はプレストウイックで、そこでは24回も開催されている
ついでにゴルフの世界ルールに関して付け加えますと、ロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフ・クラブ・オブ・セントアンドリュースはすでにその役目を終えて、同じ様な名前ですが2004年からThe R&Aという組織にルール作りの役目を譲っています。そこはアメリカを除く世界のルールの総本山で、アメリカはUSGAが決めています。もちろんそれだとダブル・スタンダードになりかねないので、両者が話し合って統一ルールを決めるそうです。
以上がゴルフ好きでないみなさんには実にどうでもいい、我々ゴルフ・ヲタクのリンクス物語でした。