世界の金融界・経済界が注目していた日銀の「総括検証」に基づく新政策と、FRBの現状維持が表明されました。さすがに総括検証前にはブログを書きづらくなり6日間のブランクとなりましたので、早速総括検証を総括検証しましょう。
まず市場の反応ですが、債券10年物は変化なしで若干のマイナス圏維持、株が300円以上上げ、円が101円台から102円台後半になり、「めでたしめでたし」。というのは勇み足の見方です。
本当は、「非常にわかりづらい検証結果を消化しきれずに、株式もドル円相場も日本時間では方向を間違えた」。なぜなら株式の先物も円ドル相場も東京の引け後すぐに逆転しはじめ、効果を帳消しにした以上に下げてしまったからです。特に株式市場は3時までですから、ヘッドライン・ニュースだけで反応しています。3時半からの黒田総裁の記者会見を見ていません。それを見ていたら、違う反応になったでしょう。記者会見は質疑応答を含め1時間もあったのですが、それを見ていた私が中身を検証します。
みなさんも総括検証の要約は見ていらっしゃるでしょうが、日経新聞をもとに簡単にレビューします。大きくは3つ、
1.物価目標は達成できなかった。その理由は、
・原油価格の下落
・消費増税による消費の落ち込み
・新興国経済の落ち込みと、国際金融市場の不安定化
2. 過度な金利低下が金融機関の収益を圧迫し、保険や年金の運用利回りが低下
3. 予想物価上昇率は直近の物価に影響されてしまうので、上げるには時間がかかる
1の外的要因はまだしも、2の過度の金利低下は自分がやったことだし、3も20年来同じことで、いずれも検証というよりも「反省なき言い訳」に聞こえます。
そして今回新たに決定した内容は、
1.これまでの「マイナス金利付き量的・質的緩和」に、「長短金利操作」を加えた
2.長期金利がゼロ%程度で推移するように国債を買い入れる
3.物価上昇が安定的に2%を超えるまで緩和を継続する
以上です。
この要約説明に対して、記者たちは鋭く切り込みましたので、その中で最も重要な一問一答を振り返ります。
記者会見での黒田総裁の回答の歯切れの悪さは、彼の咳払いの数に比例します。今回は10秒から20秒に1回程度エヘン虫が出てきていたので、自分のウソに苦しみながらの会見だったことがよくわかります(笑)。みなさんも咳払いには注意しましょう(笑)。
では私が常に指摘し続け、記者たちも一番知りたい部分を、まとめて皆さんにお示しします。
Q: 物価の2%上昇は、外的要因がなければ、達成できたのか?
A: エヘン。石油下落と新興国経済の低迷がなければ、できたはずだ。その検証は、モデルを使ってしているので検証を見てくれ。足もとの物価上昇率に引きずられるという傾向を払拭はできなかった。
Q: 総裁は「物価2%は2年で達成する」と言っていたができていない。その後は「できるだけ早期に」と言っているが、いつになったらできるのか?
A: エヘン、エヘン。できるだけ早期に達成するが、今の目標は日銀の展望レポートに示すとおり17年度中だ。(林の注:当初目標の2年後がすでに4年後になっていて、目標はいつもこれから2年先だ(笑))
Q: 総裁は「政策の逐次投入はしない」と言っていたが、最初の量的・質的緩和策に、その後マイナス金利を導入し、今回長短金利操作を導入するのはどういうことか?「マイナス金利は最強の政策だ」とも言っていた。
A: エヘン、エヘン、エヘン(爆笑)。(ここからは、えへんの連発で、しどろもどろでした。) 今回も思い切った政策の導入に変わりはなく、逐次投入ではない。なぜなら、80兆円の買い取り策などを含め、「日銀の政策というのは次回の決定会合間までの政策」であって、見直すものだから逐次ではない。
この辺まで来ると、あまりの苦しい言い訳に彼が脳卒中を起こすのではないかと心配になりました。
もうお気の毒にとしか言いようがありませんので、これ以上の一問一答はやめておきます。
かわいそうなので、彼が成果だという部分も載せてあげましょう。成果とは、
1.13年4月のバズーカ1号発射以降、いったんはデフレマインドが払しょくされ、物価も1.5%くらいまでは行った
2.GDPギャップもこの3年半で縮小している
3.それが景気回復につながり、賃金上昇にもつながった
4.企業や個人の資金調達金利は下がった
それは確かなのですが、我々が忘れてはいけないのは、日本経済全体は成長していないし、資産運用は困難を極め、国債を350兆円も買ってしまっていて、それが将来の爆発のマグニチュードを高めてしまっていることです。
しかし彼は、「欧米は国債をGDPの20%程度まで買ったが、日本は80%に達した」とまるで自慢するように言っていました。そして「市中には国債が発行残高の3分の2も残っているので、余地はまだいくらでもある」とウソぶいています。
以上でおわかりのように、完全に記者たちの勝ちで、「日銀による総括検証とは、言い訳になっていない言い訳を苦し紛れにしただけだ」と言えます。日本の市場時間後の動きが、それを如実に示しています。
では今回導入された新政策を次に検証します。
名前は長たらしいですが、「マイナス金利付き長短金利操作付き量的・質的緩和」です。新たな追加部分はイールドカーブまでコントロールしようという長短金利操作の部分です。
9月13日の私のブログのタイトルは「イールドカーブが立った」でした。その時の解説を引用しますと、
『ここにきてイールドカーブが立ってきた理由は、日銀の行き過ぎた国債爆食で金融機関が疲弊するのを、さすがに日銀も見て見ぬふりはできないだろうとの、市場の思惑によります。私の言う「日銀包囲網」の一角である金融機関の離反に、日銀もこたえる必要があると考え、市場もそれに同調したのでしょう。』
この解説どおりのことを、新政策として発表したのです。それが長短金利操作の導入です。英語で言いますと、「イールドカーブ・コントロール」。
私に言わせれば、「クロちゃんは遂に債券市場を完全支配するオールマイティ・ゴッドになった」つもりなのです。
本当は国債購入が限界に達したので政策を変更したいが、変更したと言いたくないがために、追加だの強化だのと言っているのです。
80兆円を買い続ければ、長短ともに金利低下はまぬがれません。それでは金融機関を殺してしまう。そこで長短金利差を付け続ける。そうすれば短期調達・長期運用で利ザヤを確保できる。その微妙なさじ加減を「神の手」で行うのが今度の政策です。
単刀直入に言えば、マイナス金利という間違った政策をしてしまった後始末を必死に行うことにしたのです。
つづく