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ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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もしトランプが大統領になったら

2016年05月11日 | アメリカアップデート

   私はトランプは大統領にならないと断言していますが、「もしなったらどういう世界が来るのか示唆してほしい」というリクエストが友人から来ました。それを以下にお示ししますが、最初に私はヒラリーの支持者でもないことを言っておきます。

  経済政策・金融政策はどうだとか、外交政策はどうだとかの詳しい項目ごとのヒラリーとトランプの主張分析はその道のアナリストがすでに数多く示していますので、そちらにお任せします。そうした観点とは全く違う観点を私からはお示ししたいと思います。

  トランプがアメリカ大統領になるなど、想像するだに恐ろしい世界ですが、ついでに私が今の世界の政治の趨勢をどう見ているかをお示しするよい機会だと思い、それを披露させていただきます。

  まず名前を羅列しますので、そこからみなさんも私の観点をご想像ください。

  プーチン、習近平、金正恩、エルドアン(トルコ大統領)

これにすでに死亡した

  ベネズエラのチャベス、リビアのカダフィ、イラクのフセイン、死んでいませんがカストロ

  きのう選挙に勝ったフィリピンのトランプと言われるドゥテルテも参加の可能性ありでしょう。

  そうです自己中心の独裁的政権です。私にはそこにアベチャンも参加したがっているように思えるのです。

  プーチン、習近平、金正恩、エルドアン、この4人くらいであれば世界は対処可能ですが、そうした独裁政権の片棒をアメリカ大統領トランプが担ぐという恐ろしい世界がやってきそうだというのが私の見立てです。

  しかも彼は片棒を担ぐどころか、先頭に立ってリードしかねない。プーチンからは早々にトランプに対する期待と支持の言葉が発せられています。

  似た者同士が同盟を結ぶと言えばそうかという程度です。独裁者は簡単には並び立たちませんが、今でも時々この連中が集まっていることがあります。ブッシュが「悪の枢軸」と呼んだ同盟が、より大きく強固に「巨悪の枢軸」となって現れるのでしょう。

  そして私の見通しでは、「アベチャンが加わるかもしれない」。アメリカがあれだけ「やめろ」と言っていたロシア訪問をG7の前に堂々と行い、プーチンに会ってしまうのがアベチャンです。

  ロシアのプーチンは憲法で禁止されている3選を、自分の3度目の就任の間にメドベージェフを差し挟んで実現。しかもその前には4年の任期を6年に変更もしています。憲法の精神は「独裁者を作らないために3連続を禁止している」のに、姑息な手段でかわしてしまったのです。

  トルコのエルドアン大統領は憲法を改悪して大統領権限を強めようとし、首相のダウトオールと衝突。首相は先週遂に辞任を表明。しかも独裁者の典型である言論の自由を強権で弾圧し、ツイッターやフェースブックの停止までも画策しています。

  言論の自由への制限は北朝鮮や中国の専売特許ではありません。ロシアやトルコでも正々堂々弾圧は行われていますし、日本でもNHK会長にアベチャンの息のかかった人間を置き、先日も会長のトンデモ発言に社内は猛反発。加えて高市総務相が放送法での規制を言明して、言論界から猛反発が出ている状況もあります。

  「ホントはひどい日本の言論弾圧」、の客観的証拠を見てみます。1985年にパリで設立された世界のジャーナリストによるNGOである「国境なき記者団」が毎年発表している「世界報道の自由度ランキング」です。いい加減なものではありません。

上位にはまず北欧諸国が並びます。そして一気に下位にいくと、

香港 69位、日本72、ロシア148、トルコ151、中国176、北朝鮮179

最下位はエルトリア 180位

  日本は民主党政権下の2010年では11位にいましたが、アベチャンになって16年にはなんと72位まで下がりました。中国の支配下になって強権による弾圧を受けている香港より下位であるとは、嘆かわしい事態です。

  日本の現状を見ると、別の深刻な問題があります。憲法問題です。憲法はそもそも政権が独裁に走らないために存在するにもかかわらず、アベチャンはまず内閣が憲法解釈を変更するという三権分立の否定というありえない暴挙を実行。その次にはどこから見ても違憲である安保法制を強行採決して施行。立憲民主制を日本から葬っています。このままだと「この選挙は消費税先延ばしを問う選挙だ」と掲げて支持を得、勝てば憲法改正に走るという前回の解散選挙と同じ手口で2匹目のドジョウを狙う可能性があり要注意です。

  繰り返しますが、私は民主党支持者でもなければ、ナイーブな非武装中立論者でもありません。

  独裁政権枢軸だけでなく、ヨーロッパ各国の地方選挙では極右の台頭が著しく、こうした動きが世界の地政学的リスクを増幅させるのは間違いなさそうです。

  日本を含めこうした独裁政権の色彩を帯びた想像するだに恐ろしい世界が来かねない。それが私のトランプ当選後の恐怖のシナリオです。トランプはヒラリーとの1対1の対決では少し角を削ってみせるでしょうが、ひとたび大統領になったら、本性をむき出しにします。

  報道などではもしトランプが大統領になったら、ということで彼の「反グローバリズム、保護主義、金利下げ、低所得層の減税」などがキーワードとして並んでいますが、経済問題などしょせん小さな問題で、独裁政権諸国が自国優先の勝手な政策に走り始め、戦後に営々と築いてきた先進国間での平和と秩序など一夜にして吹っ飛びかねません。そうなると自由主義をベースにした金融市場は大混乱をきたすのは間違いないでしょう。

  とまあ、大げさな言葉を並べたてて恐ろしさを誇張した感はありますが、全く荒唐無稽とは言えない可能性があるのです。

  しかしトランプは勝てないので、アメリカは火種にはならないし、むしろ火消しの側に立つでしょう。

  むしろBREXITのほうが大ごとで、英国が難民問題などを争点にEUから離脱すればEU崩壊の導火線となり瓦解しかねません。そうすると中国のスローダウンとEU崩壊の2本立てとなり、世界の経済や金融市場には大きな脅威になると思われます。

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アメリカ大統領選挙の行方

2016年05月08日 | アメリカアップデート

  みなさん、連休はいかがでしたか。今年私は珍しく自宅にいて、旅行はなしでした。家内が昨年末から始めたキャットシッターの仕事は連休が忙しいため、お留守番です。その間、ちょうど1か月後にある講演会の準備と、読書に時間を使うことができました。

  もっとも連休寸前に家内と1泊ですが「ひたちなか」に旅行をしました。常陸と那珂の合併でできた市の名前です。快晴の天気に恵まれ、青い花、ネモフィラの花畑で有名になったいるひたち海浜公園を見て、那珂湊のおいしい海の幸をいただき、翌日は近くの笠間で陶芸の作陶体験をしてきました。

  陶芸体験は3度目で、いずれもロクロ回しに挑戦しました。最初が沖縄のカヌチャ・リゾートで沖縄の陶器、ヤチムンをまねたのですが、ロクロ回しは失敗の連続。ほとんど先生に手伝ってもらいました。2度目は山口の萩で、萩焼に挑戦。これも先生の指導を受けて、大事な部分は補正してもらいながらでしたが出来上がりは上々で、作品は家で普段よく使っています。萩ではちょうど萩市美術館で私の大好きな陶芸家、ルーシー・リーの展覧会が開催されていて見ることができました。彼女の繊細極まりない、透けるような薄さの作品に感動の嵐でした。

  3度目の今回は笠間芸術の森の中にある陶芸の丘の教室です。私も家内もある程度ロクロに慣れてきたので、指導されるままにほとんど自分の手で作り上げ、1時間程度で私は大小4つの作品、家内は5つも作り上げることができました。彩色、釉薬などは多くの色から選択可能で、2か月後にできてくるのがとても楽しみです。

 

   さて、アメリカの大統領選挙は遂に一騎打ちとなりました。政治問題は扱わないのがこのブログの方針ではありますが、アメリカの大きなリスクにちがいないため、私がこの大統領選の行方をどう見ているかを、しっかりとお伝えするべきだと思い、今回はこれについて書きます。

  「トランプさん、ありがとう」、昨年8月15日の私の記事のタイトルでした。スコットランドの聖地巡礼ゴルフツアーでトランプ氏が作ったゴルフ場の素晴らしさに感動して書いた記事です。覚えている方もいらっしゃると思います。その時の書き出しは「何かとお騒がせな大統領候補トランプ氏ですが・・・」というものでした。

   その時点ではもちろん、彼が最後まで残っているとは思ってもいませんでした。それがお騒がせどころか、なんと共和党の大統領候補に決定です。私は3月のスーパーチューズデーの結果を見て、「戦いはヒラリーとトランプの一騎打ちで決まりだ。ヒラリーはトランプ勝利の結果にほくそ笑んでいるにちがいない」と書きました。じゃ、本当にヒラリーはほくそ笑んでいられるのか、あるいはこの先もトランプは予想を裏切り続け、11月の本選で大統領になるか?

   私の予想はもちろん「なれっこない」です。

  共和党としては不本意ながらもこの事実を受け入れて、党を挙げて彼を支持しようとするのでしょうが、全員が本気で支持するところまで行くとは思えません。本選では共和党員でもヒラリーに密かに投票する反トランプ派も数多く現れるでしょう。すでに共和党元大統領ズであるブッシュ親子と撤退候補のジェブ・ブッシュがトランプ不支持を正式に表明し、有力議員も支持しないとの発言が続いています。

  ただし逆に共和党と限らず「隠れトランプ」もかなりの数存在し、その人たちは密かに彼に投票するかもしれません。密かにというのは、彼への支持は恥だと思われるからです。

  ですのでヒラリーが簡単に勝てるかというと、簡単とは言えません。

  じゃ、何故最終的にヒラリーが勝つと確信的に言うのか。

  アメリカ人も良識派が大多数だからです。この戦いはどんな層の人がどちらを支持するなどという一般論での戦いではなく、「良識が勝つか非良識が勝つかの戦い」で、初めから勝負はついているのです。それが私の見方です。

  トランプを支持する人たちは、いままで言いたくても言えなかった人種差別的感情や安保ただ乗り論などをおおっぴらに言うトランプを代弁者として支持し、自らもカミングアウトしてしまいました。しかしそうした非良識派、あるいは非常識派はあくまで少数です。多くのアメリカ人は真剣に人種差別の解消に努力し、外交安保問題をまじめに考えています。また心には思っていても、決して出してはいけないと抑制するのが大多数の良識ある人間です。

  そして、少なくともほとんどの有力なクオリティーペーパーと言われる新聞社・雑誌社の多くは社説などで反トランプを表明。学会、法曹界、良識あるセレブリティも反トランプを表明。国際社会からも投票権はないももの、メキシコはもちろん、例えばローリングストーンズのようにキャンペーンに自分の曲を使わないでくれと宣言するアーティストまで何人も出てきて、反トランプは圧倒的多数です。私の周りのアメリカ人の友人も、「トランプはアメリカの恥さらしでしかない」と切って捨てる人が圧倒的です。

  ということで、私の予想はヒラリーの勝です。別にヒラリーが好きだというわけではぜんぜんないことは申し添えておきます。もし彼女に死角があるとすれば、相手はトランプではなくFBIでしょう。しかしFBIもこの期に及んでトランプ支持に回るようなヘマはしない、それが私の見通しです。

  今後日本でも株や為替のアナリスト連中は政治的リスクとしてトランプ大統領誕生のリスクで騒ぎ立てるでしょう。しかしそれはタメにする議論でしかなく、時間の無駄使いです。

  政府の中枢からもヘッジの意味でトランプを無視しない発言が出るでしょうし、トランプが日本を非難するトンデモ発言に反応するでしょう。しかしそれも時間とエネルギーの無駄使いです。というよりもそれこそがトランプの思うつぼ。いままで彼はそれをテコにここまで勝ち進んだのです。「政府関係者が彼の言葉にまじめに対応することこそ、彼をサポートすることになるのだ」ということ、忘れないでほしいと思います。


    以上、「トランプはジョーカーであって切り札ではなく、リスクなどでは全くない」。それが私の結論です。

 

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アメリカは大丈夫か?  その4 まとめ

2016年03月26日 | アメリカアップデート

  アメリカでは今週3人の地区連銀総裁が、早期利上げを示唆しています。今年に入って、利上げはないかもとか、年1回、あっても2回というような予想に後退したのを真っ向から否定し、次の利上げの布石と思われる見解を述べています。理由はコアインフレ率の上昇です。

   先ごろ発表された2月のアメリカのコア物価指数は前年比で2.3%の上昇。1月の2.2%を若干上回りました。雇用が堅調なのは言うまでもないことですが、それが賃金上昇につながりはじめ、いよいよ本丸の物価にジワリと来ている。

  地区連銀総裁連中は、それが本格的インフレにつながらないよう、あらかじめ金利を正常化しておく必要がありそうだ。3月のFOMCでいったん見送った利上げを次の機会でいきなり行うと、また市場が荒れる可能性があるので、牽制球を投げておこう。そう考えて利上げ示唆発言につながっているのだと私は思っています。

  昨年末私は今年のアメリカについて比較的楽観的な見通しを述べました。ところが年初以来、雇用を除くとあまり芳しくない指標が発表されたことを受け、2月には世界の株式市場も暴落し、あたかも世界はアメリカの利上げにより大不況を迎える恐れが出てきたという見通しが横行しました。

   しかしアメリカの実体経済は強さを維持し、そうした大不況論はたった1か月で大きくトーンダウンしています。私はいつも長い目で経済を見ていますので、そうした目で見ると現在の様子はどのように見えるかを以下にお示しし、それをもって「アメリカは大丈夫か?」のまとめにしたいと思います。

   話は7-8年前にさかのぼります。08年のリーマンショック後に世界経済は奈落の底に落ち、「アメリカにも失われた10年が来る」、ということを世界のエコノミストのほとんどが唱えていました。

  私は一貫して「アメリカに失われた10年など来ない」と言い続けました。11年に書いた著書の137ページにはそのことが記されています。そのころはたとえ回復してもそれは一時的で、これからリーマンショックの後遺症が延々と続くといわれていました。しかし09年に大底を打ったアメリカ経済はその後順調に回復し、ここまで5年以上もの間成長が維持されてきました。2四半期連続でGDPが前年を下回るとリセッション入りという定義にあてはめると、そうしたことはありませんでした。

   好調さの象徴である失業率も最悪の10%から、自然失業率だと言われる6%を突き破り、まさかの5%割れを達成。普通なら景気をちょっと冷やす必要があるというところに至っています。

   一方、物価だけは世界的に上昇機運がありませんでした。中国経済をはじめアメリカ以外のスローダウンから国際商品相場が低迷を続け、力強さに欠けていたからです。それでも景気全体を見ればアメリカ1国は堅調だったため、一昨年10月に量的緩和を終了。昨年末には最初の利上げに至りました。

  利上げしたとたんに世界の株式相場が暴落したため、「利上げは間違いだった」とか、「おかげで世界は不況に突入する」というような悲観的トーン一色になりました。

   かつてBRIC’sと言われ、もてはやされたブラジル、ロシア、インド、中国がものの見事に失速し、世界経済の足を引っ張る側に回っています。そこに日本の不調や欧州の政治的不安、その他新興国全般のスローダウンにより、世界不況論が力を得たのでしょう。

   このような長期視点から見ると、私には「アメリカはたった1国で、よくぞけなげに世界を支えているな」と見えるのです(笑)。

   とは言え、景気とは循環するものです。5年も回復が続けば当然疲れが出てきて一休みするくらいは当たり前です。アメリカに限ってみればそれは単なる景気循環です。アメリカの利上げ発、世界的大不況の始まり、なんかではありません。大不況論者もここにきてだいぶ論拠を失いつつあるようです。

  それでも世間がアメリカの大きな不安な要素として挙げているシェール関連産業について、2回にわたり解説をしました。

 「アメリカは大丈夫か?」シリーズ、

 その2.シェール関連企業のジャンクボンドは、規模から言っても投資家から言ってもサブプライムのような大問題には至らない

 その3.シェール関連企業が続々と破たんしてもチャプター・イレブンに入ってリハビリの上復活してくるので、インダストリーとしてはしっかり生き残る

   一番心配されたことも、実はたいしたことはないのです。皆さんからのコメントはOwlsさんの納得できたというコメント一つでしたが、他のみなさんもこの解説についてはある程度納得されたのではないかと勝手に解釈しています。

   アメリカに大きな不安材料などありません。その中で3月のFOMCは、利上げを見送りました。その議事録に書かれていた主な見送り理由は、アメリカ経済に内在するリスクではなく、世界経済の停滞リスクでした。トランプ氏が大統領になるというリスクを指摘する人もいますが、私は彼が大統領になることはないと思っています。

   ということで、「アメリカは大丈夫か?」

   はい、大丈夫です!

   次回からは、「大丈夫か日本財政」にやっと復帰します(笑)

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アメリカは大丈夫か?  その3 シェール関連企業の行く末

2016年03月23日 | アメリカアップデート

  ゲーリーも帰ったようですので、アメリカの話に戻ります。

   その1では、短期の株式や為替相場の上下動ばかりに気を取られると、先行きを見誤る可能性があるということを指摘しました。

   その2では、原油価格の下落がアメリカ経済にマイナスの影響を及ぼすという、これまた相場の反応でしかないことに気を取られると、本来のメリット・デメリットの計算を間違えるという指摘をしました。そして様々な憶測が流れているシェール関連企業のジャンクボンド市場の崩壊が、まるでリーマンショックの再来だという意見を、数値でそんな大きなものではないと示しました。さらに、そもそもジャンクボンドとは、デフォルトする可能性が高いからジャンクだ。投資家はそれを知っていて、あえて買っているジャンク投資家だから、政府は救済などしないし、経済全体がおかしくなるほどのことはないと申し上げています。


   今回は、それでもシェール産業はアメリカにおける有望な新産業で、それもエネルギーという極めて重要な分野のため、もしシェール関連企業が続々と倒産を始めたらいったどうなるか、私なりの分析をしてみます。

   アメリカ企業の破たんの処理方法として、ご存知のかたもいらっしゃると思いますが、「チャプター・イレブン」という法律があります。倒産企業の多くは、典型的にはそこに入りこむことになります。

  チャプター・イレブンは日本語訳では会社更生法となっていますが、むしろ企業再生法というべき色彩の強い法律です。それが適用されると言うことは、逃げ込む場所ができたということなのです。

   例えば世界的大航空会社であるノースウェストなどは、私が覚えているだけで3回はチャプター・イレブンに入っています。それにより債権者からの追及を免れ、再生が果たせそうだというところまで債務を削減してもらい、見事カムバックというパターンを繰り返しています。ノースは今ではデルタ航空と合併し、新デルタ航空になっていますが、そのデルタでさえ08年にはチャプター・イレブンのお世話になり、その後再生しました。

  アメリカと日本の破たん処理の決定的差は、再生可能であれば救いの手が伸びてくるかこないかです。日本でもやっと再生法でその芽がでてきましたが、それまではとにかく完膚なきまでに倒産企業からみんながむしり取るというやり方が横行していました。

   シェール関連企業は、原油価格が上昇してくれば簡単に再生が見込めます。そこまでチャプター・イレブン入りして時間的猶予をもらう。その間、新技術を導入し採算分岐点、ブレーク・イーブンを下げ、ちょっと価格が上昇すれば利益を出せる体質の企業にしておく。こういう経路を経るのが一つ。

   あるいはシェール企業同志がデルタ・ノースのように合併しコストを下げ、ファンドの支援などで再生するという経路もあります。

   今一つは、企業としては解体するが、採掘権や設備を大手の石油企業などが二束三文で買い取って事業だけ引き継ぎ、安いコストで生産を始める。その二束三文だけは債権者に配分されます。かなり手荒いやりかたです。

  要するに、シェール関連企業が破たんしまくったとしても産業全体として見ればしたたかに生き残り、サウジが目指すインダストリーの壊滅などには至らないのです。再生までには時間がかかり、その間は従来からの中東産油国などが一息つけるかもしれません。しかし一息ついた結果価格が上昇したとなればすぐまた生産を再開、シェール産業はインダストリーとしての消滅などないのです。

   こうした石油供給の調節弁の役割を果たす生産者をスイング・プロデューサーと呼びます。かつてOPECの全盛時代、最大の生産国であるサウジがその役割を自らの意志で果たしていたことがあります。サウジは生産量がダントツに大きかったため余裕があり、価格が低下すると他国が追随しなくとも自ら供給を絞り、供給を調節する弁になっていました。今後はシェール産業全体が、自身が望まなくとも破たんによりその役割を果たす可能性があると私は見ています。

   ということで、アメリカのシェール関連企業は、サウジなどがいくら価格を低下をさせて倒産させたとしても、そんなものは仮の倒産でしかなく、価格が上昇すればすぐに戻って生産を始める。そしてそれが繰り返されるたびにテクノロジーの進化により、強靭になって帰って来る可能性が強いと私は見ています。

   そうこうしているうちに原油価格は最低レベルよりすでに5割近く値を戻しています。その上、強硬姿勢を取り続けていたサウジなどのOPEC諸国に加え、ロシアまでが増産停止に向け協議をするという新たなステージを迎えました。ミイラ取りがミイラになる前に、自ら痛手を負った傷の手当を始めたのです。

   だからといって原油価格はOPECやロシアが我が世の春を謳歌した100ドル前後のレベルなどには戻りようもありません。今後はお互いに青息吐息ながらも生き延びる程度の生産量をキープし、価格の大きな上昇のない、つまり消費国側有利な状況が続くと私は見ています。

   最後にもう一度申し上げますが、最近の株式相場は原油価格の下落とともに下落しますが、そんなものは過剰反応で、消費国にとって原油価格は安いほどいいのです。OPECやロシアからエネルギー供給の主導権を奪ってくれたシェール産業に、みんなで感謝しましょう。

   次回はすでに私が解説するまでもなく、なんとなく影の薄くなった「アメリカは大丈夫か?」のまとめです。

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アメリカは大丈夫か?  その2 シェール関連企業のハイイールド債

2016年03月18日 | アメリカアップデート

  アメリカの2回目です。

   1回目に私が申し上げたのは、目まぐるしく上下する相場に目を奪われると、見通しを誤りやすいということでした。そして現在のアメリカには、リーマンショックの時のように世界を震撼させるようなバブルの芽はない、とも申し上げています。

   このところ発表されているアメリカの指標は、8割がたが予想を上回る数字で、だいぶ安心感が増してきています。でもそうした指標はまた来月になったら悪くなるかもしれませんし、逆にさらに良くなるかもしれない。大事なのは、アメリカ経済を大きく揺るがすような芽があるか否かの見極めです。私はないと思っています。

   原油価格も一時の20ドル台から40ドル台になってきているので、切迫感は薄れたと思うのですが、シェール・オイル・ガスを巡っては心配されている方も多くいらっしゃると思いますので、今回はそれを取り上げます。

   まず、何度も申し上げますが、アメリカ経済全体にとって原油価格下落の影響はプラスであってマイナスではありません。ガソリンはアメリカの家計消費では必需品かつ価格変動が大きいため、消費者行動とマインドには結構影響を及ぼします。日本と違いガソリン税率などが低いので、原油価格がガソリン価格に直接大きく影響します。それだけでなく、その他のエネルギーや化学工業製品の原料としても大変重要です。重要であればあるほど、価格の低下は大きなメリットです。デメリットになるのは、石油採掘産業の従事者や投資家で、人数は非常に限定的です。

   ですが、シェールオイル企業のジャンクボンドには破たんの懸念が出ています。いやすでに破たんも始まっていますので、まずそれについて説明します。

   ここで問題です、「ジャンクボンドがジャンクなのはなぜか。」

   破たんするからですよ。破たんしない、危険でないボンドはジャンクではありませんよ、みなさん(笑)。それをハイイールド債だなんてオブラートに包んだ呼び方をするから、破たんが始まるとショックのように思われるのです。

   まずエネルギー関連企業の発行しているジャンクボンドの規模ですが、最大に見て3千億ドル30数兆円と言われています。その中にはシェールと関係のない企業の発行するボンドもありますので、サブプライムローンの証券化商品と比べ一けた小さい規模の話です。

  しかも投資家のほとんどはジャンクとわかっていながら、それでもイールドを欲しい貪欲なファンドなどです。どんどんデフォルトしたところで、政府が救済に乗り出すことなどありません。他への波及が小さいと見ているからです。

  シェール企業に限らない一般的に見たハイイールド市場は、かなり怪しいと見られていました。すでにサードポイントという有力な運用会社の運用するハイイールド投信は停止され、残余財産を投資家に戻しています。もっともiSharesのハイイールドETFは、2月中旬に9,300ドルのボトムを付け、現在は11,000ドルと急激に反転をしていて、ハイイールド債も一応ボトムは打ったと言われています。

   今回のハイイールド債とサブプライムのケースの中身を比較します。サブプライムの場合は、信用の低い個人の住宅ローンを束ねて証券化しています。同じ束の中にストラクチャー上トリプルAのティアもあったため、格付けに目がくらんで手を出したリスク志向のあまりない有力銀行などの投資家も多かったのです。同じ束の中にはトリプルAもあれば、シングルAもBBBもそしてジャンクもあり、それがリスクの階層を作っていました。破たんはイールドの高い下の階層から始まるのです。同じ束の債券を買っていても、イールドの低い上の階層を買っていれば、破たんは免れる可能性があるのが証券化商品です。

   シェール企業のボンドはそうではありません。最初からジャンクはジャンクで、ダブルB以下です。ハイイールド投信もそれをわかりきって買っています。もちろんそうしたジャンクボンドを束ねてそれに階層を付けるCBOという商品もありますが、サブプライムの経験を経ているため、資産のクレジットをしっかりと評価するようになった大手銀行などが積極的に買うことはありません。

   ついでながら、最近不安視されている個人の自動車ローン債権の証券化商品のほうが、よほどサブプライムに近いものがあります。しかもクレジットの低い個人へのローンだけをまとめている商品まであります。しかしこちらもサブプライムの経験が十分に効いているため、破たんが始まっても大きな問題にはなりません。

   みなさんのように債券の専門家でなくとも、そうした商品の危うさを感じているくらいですから、ましてやサブプライムを経験した投資家はさらに慎重に投資をしています。ジャンクを買っているのは、ジャンクボンドファンドやジャンクも含め投資するぞとあらかじめ表明しているファンドが大半です。

   ここまでをまとめますと、エネルギー関連企業の発行したハイイールド債は、規模からいっても投資家層からいっても、破たんしたところで大きな心配はいらないということです。

   こうした杞憂も先に私が指摘した、「報道に振り回されなさんな」なのです。リスクを煽る報道は、必ずしも商品やリスクの本当の中身を知って書いているとは限りません。むしろ私から見ると知らずに報道しているな、と思われるものが多いのです。

   ではシェールオイル企業がどんどん破たんしてしまったらせっかくアメリカに勃興したインダストリーとしての将来はどうなるのでしょうか。次回はインダストリーとしての将来を見ておきましょう。実はこれも心配には及びませんが。

つづく

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