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ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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アメリカ経済と世界的金利低下 その4

2016年07月22日 | アメリカアップデート

    アメリカ大統領の共和党候補がトランプに正式に決まりました。応援演説ではファースト・レディー候補の演説の大事な文言が、8年前のミッシェル・オバマの演説のパクリだったと判明してミソを付けています。しかもCNNは彼女に対して演説以前にインタビューし、そこで「スピーチ・ライターは誰か」と聞いたのに対し、「私が書いた」と言わせていました。なんともバツの悪い、言い訳のしようもない大失態です。

  他にも共和党の全国大会は異例づくめで、会場には反トランプ党員が押しかけて「Dump Trump!」とトランプ排除のシュプレヒコールをあげ、党の重鎮はだれも出席をせずに暗黙の抗議をし、彼らに代わる応援演説はトランプファミリーばかり。最後には候補を降りたテッド・クルーズが、一切トランプ応援の言葉のない応援スピーチ?をして、「本選挙ではみなさんが自らの信条に従い、憲法を守る候補に投票しよう」と、あからさまに反トランプののろしを上げるというお粗末な大会でした。

  私はこの戦いは「良識派対非良識派の戦いだ」と申し上げてきましたが、共和党員にも良識派は多数いることがわかり、やはりいつもの共和党対民主党の戦いではないことが明らかになったと思っています。

  実は先ほどまでCNNで彼の受諾演説を1時間15分、ライブで聞いていました。演説の中身は選挙スペシャリストの予想した、「これまでの主張をマイルドに修正した内容」などではなく、これまで彼の言っていたこととなんら変わりのない、ポピュリストによるアジ演説でした。移民に対しては壁を作るぞ、貿易協定は全部見直しだ、イスラム国をやっつける、軍事同盟国にはコストを払わせる。  

  演説中に何度も何度も言った言葉は、「Make America Great Again.  America First.  そしてBelieve Me!」。コミットメントの具体策などなく、俺を選べば明日からすぐにすべてを実現してみせる。「俺を信じろ」の一点張りでした。彼を選んだ共和党さん、党の結束をみじんも示すことができず、誠にお気の毒様でした(笑)。

  そしてこの演説を聞いたあとの単純な感想としては、ポピュリストとしての彼の恐さを見たということ。ヒトラーやパナマのノリエガ、ベネズエラのチャベス、金正恩、さらにトルコのエルドアンなどに見られる大衆を掌握する力を大いに感じました。

  念のため再度申し上げますが、私は民主党を支持しているわけでも、ヒラリーが好きでもありません。ただただアメリカ、日本、そして世界のためには、Anyone, but Trump. トランプでなきゃ誰でもいい、ということです。

 

  さて、シリーズの続きです。世界的な金利低下と株高が同時に起こっていることについて、前回の記事で私は以下のように書いています。

「株価と債券価格の同時上昇の大きな原因は、Genrechtさんも書いていらしたように、世界の余剰マネーがアメリカに引き寄せられているということだと思われます。」

  世界的なカネ余りが続くと、株高・債券高の状態はずっとこのまま続くのでしょうか。

   今一度、この数年の成長率、金利、そして株価上昇率を加えて並べてみます。

            12年 13年 14年 15年 16年(推定)

実質GDP           2.2    1.5    2.4    2.4    2.4  

名目GDP            4.1    3.1    4.1    3.5    3.4

米国債10年物6月末    1.67   2.52   2.53   2.35   1.49

各年最高値       2.30   3.01   2.86   2.48   2.13

S&P500(株式)      16.0  32.4  13.7    1.4   7.5

 

  インフレを加味したアメリカの名目成長率が3-4%で堅調に推移しているのに対して、株価の成長率はそれを大きく上回り、非常に高い伸び率を示しています。これは投資家がかなりリスクを取っているという事を示していますが、そのリスクの取り方をPER(株価収益率)でみてみます。

  このところ数年間は伝統的な15~20倍未満からかなり上方にはずれていて、20~25倍程度を示しています。ちなみに日経225の倍率は戻っても14・5倍にすぎません。

  株式がそこまで買われていることを近頃のアナリスト風の言い方で言えば、リスクオンの状態が続いているにもかかわらず、本当の意味の安全資産である米国債も同様に買われ、債券側から見ると正反対のリスクオフの状況にあります。


  今回はさらにリスクマネーがどう動いているのかを見極めるために、いつもあまりみなさんが見ることが少ないと思われる高リスク資産の価格動向を見てみます。

  みなさんには以前、「たまには商品相場も見ておきましょう」とお伝えしました。実行されていますか?

  まず商品相場の主要指標であるトムソン・ロイターCRBインデックスの2・3年間の動きを追います。14年の前半まではおよそ300前後で推移していたものが14年後半から下落し始め、15年は年間を通して下落。年初の220台から170台まで約2割下落しました。そして今年の2月19日に160と最安値を記録。その後現在は184と5か月で15%も一気に戻しています。その動きの主役は原油です。2月に26ドル台だった原油(WTI)が現在45ドル付近まで約7割も上昇したことが大きく貢献しています。

  次にこれも代表的リスク商品である新興国の株式相場を見ましょう。代表的インデックスであるMSCI 新興国株価指数を見ますと、先進国の株価より1か月くらい早い1月に約700でボトムを付け、現在は868と25%も上昇しています。

  さらに、これぞ私が忌み嫌う代表的リスク商品のジャンクボンドです。こちらはイールドからみるのではなく、価格をiシェアーズ・ドル建て社債ETFの価格が把握しやすいのでそれを見ますと、2月初旬に8,928でボトムを付け、現在は10,491と17%もの上昇です。

  以上を見ることで、世界の代表的リスク商品のほとんどをカバーできたと思います。これらのほとんどが年初にボトムを付け、そこからから2割程度の回復を示しました。

  世界の余剰資金は必ず大きく動き回ります。いまいちどレビューしますと、今年は年初の1月2月くらいにアメリカのスローダウンや中国をはじめとする新興国の景気低迷の懸念から、株式も商品相場もずいぶん下げていました。ところがアメリカをはじめとして実体経済は、相場の動きに反して意外と堅調でした。ところがそれに6月のBREXITが冷や水を浴びせ、一時的にかなりの程度あらゆる相場が下落したのですが、ここにきてBREXITショックは、現物経済や金融市場自体のショックではなく、地政学上のショック、それも将来がどうなるかわからないことに対する不安が大きかったとわかり、相場を回復させました。

  しかもNY株式などが史上最高値を更新するに至っては、単なるBREXITの反動以上の期待感を抱かせます。

  それにもかかわらず、米国債の金利だけはBREXIT後のボトムの1.37%からわずか0.2%程度しか戻していません。それを価格に換算すると計算上はたった2%程度の動きです。そして今年の年初のイールド、2.25%に比較しても、あまりにも低いレベルでしかありません。

  次回はその低金利の意味するところを私なりに読み解き、将来の予測のヒントにしたいと思います。

コメント (7)
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アメリカ経済と世界的金利低下 その3

2016年07月15日 | アメリカアップデート

  イギリスではあっという間に首相が交代してしまいましたね。もともと勝ち目のないもう一人の首相候補、離脱派のレッドソム氏は「英国は大変な時期にあり、可能な限り早く新首相を選ぶことが国益だ」と語り、実に見事な引き際を見せました。その後新首相のメイ氏が官邸前で行った就任演説も、難しい局面での引き継にもかかわらず堂々としていて、簡潔かつ要領を得た内容だと感じました。

  さらに新首相を印象付けたポイントは新閣僚指名の中で、逃亡中のジョンソン氏をひっ捕らえて、「EUとの離脱交渉は言い出しっぺのお前がやれ」ということで外相に任命したことです。もちろん新首相自身も前面に立ち交渉を行うと宣言し、最重要課題にかかげました。

   こうした一連の動きは、市場にはポジティブに捉えられたようです。

   今後のイギリスのEU離脱問題で特に金融にかかわる部分で重要な、「ロンドンのシティの地位」が果たしてどうなるかについては、近々別途書くつもりです。

   一方、市場はアメリカ株の驚くほどの好調さを受け、だいぶ戻していますね。特にドルをお持ちのみなさんが心配されていた為替市場では、15日正午現在106円台と、「相対的に危険だとみなされている円が大いに売られている」ようです(笑)。

 

   では本題に戻りますが、今回はちょっと長いです。いや、いつもか(笑)。

   まず各国金利の状況をアップデートします。シリーズの最初にBREXIT以前と以降の各国金利レベルを示しましたが、それに昨日のレベルを追加します。

各国10年物指標金利%   6月13日  7月1日  7月14日

アメリカ          1.62       1.44    1.54

英国           1.23         0.87         0.79

ドイツ           0.02       ▲0.11       ▲0.04

フランス          0.39          0.18         0.18

日本           ▲0.17%     ▲0.26      ▲0.23

  アメリカとドイツはある程度上昇、日本は若干の上昇、フランスは変わらず、英国はさらに低下とマチマチの動きになってきています。第1波が去った証拠が見て取れます。なかでもアメリカではこのところ発表された経済指標が比較的かんばしいものが多く、株価は史上最高値を連日更新しています。

  シリーズ2回目ではアメリカFRBの利上げ先送りに関して、アメリカの実質GDP成長率が四半期ごとに低下していることが重要な要因の一つだろうと申し上げました。ここ1年の実質成長率は以下の通りでした。(前期比年率)

15年第2四半期  第3四半期 第4四半期   16年第1四半期

  3.9%             2.0%       1.4%    0.8%

  そして「実にコンスタントに低下しつつあります。この状況ではFRBも利上げには踏み切れず、長期金利も簡単には上昇しないでしょう。つまり正常化への復帰であっても、やはり成長率鈍化には勝てない」と申し上げました。もちろん世界経済の動向も影響を与えたとは思われますが、なんといっても自国の経済状況が最重要と思われます。

  今回はGDP成長率をすこし長い系列で見てみましょう。5年間の数字を示します。16年は推定値です。実質GDPも名目GDPも年間の伸び率は実にコンスタントな数字であることがわかります。そこに10年物国債金利の6月末と各年の最高値を追加してみます。

        12年 13年 14年 15年 16年(推定)

実質GDP         2.2    1.5    2.4    2.4    2.4  

名目GDP         4.1    3.1    4.1    3.5    3.4

10年物6月末    1.67   2.52   2.53   2.35   1.49

各年最高値    2.30   3.01   2.86   2.48   2.13

    金利は各年の6月末も最高値も瞬間風速ではありますが、実はけっこう狭い範囲で推移していることがわかります。6月末を指標の一つに上げたのは、直近16年の実績がすでに出ていることと、各年のいつを見るのが適当かを考えたとき、年央がよいと思っただけで、恣意的な意味合いはありません。

  米国債投資のタイミングを計っている方にとっては各年の最高値もきっと気になるところでしょう。こちらは13年末をピークにして年々低下しています。インフレ指標も実質的に含む名目成長率がさほど低下しているわけでもないのにです。

  5年間の成長率推移にNY株式価格の伸び率の欄を加えますと、NY株式が実にコンスタントにしかも大きく上昇していることがわかります。12年から株価の年間上昇率を並べますと、


        12年 13年 14年 15年 16年(現時点まで)%

        16.0  32.4 13.7   1.4    7.5

   15年を除くとほとんどの年で株価の成長は2桁の伸び率を記録し、5年平均でも2桁の伸びになっています。

   コメント欄でGenrechtさんは前回の記事にあった「相関関係」という言葉に反応され、各国の株式相場が相関関係にあるということを指摘されました。またこの金利問題では『株式価格の上昇と債券価格の上昇という本来であれば逆相関になってもよいはずの両者が同じ動きになってしまっている』という主旨のご指摘がありました。

   この部分については、必ずしも教科書的にも「逆相関だ」と言えない悩ましさがあります。例えていえば、

「金利が低いということは景気刺激的となり、将来の収益向上が見込める。従って株価にもよい刺激となり上昇する。逆に金利が高いと景気抑制的になり、将来の収益低下見通しから株価は低下する。」という事も言えるからです。株価も金利も現在だけでなく将来も見据えて値付けされるため、時差のとらえ方次第で、その時々で因果関係に違いが出ます。

  この伝でいくと、金利の低位安定が株価上昇の原因の一つだ、とも言えます。

  しかし株価と債券価格の同時上昇の大きな原因は、Genrechtさんも書いていらしたように、世界の余剰マネーがアメリカに引き寄せられているということだと思われます。


  それと各国の株式相場の連動性については、もちろんグローバリゼーションの進展の結果だと思われます。各国・各地域とも貿易や資本移動、そして人的移動の活発化で相互依存関係を強めています。

  最近は「反グローバリズム」という言葉を使ってそれに対して批判的な意見が多くなっています。BREXITの主張の中にもありましたし、アメリカ大統領選挙の焦点の一つでもあり、果てはイスラム過激派の主張にも反グローバリズムの考えが入り込んでいます。

   私は以前も申し上げましたが、世界各国・各地域に見られるのは自然発生的な「グローバリゼーション」であって、グローバリズムという思想や意思の元に進展しているわけではないと思っています。

   交通・運輸・通信手段が発展すれば、人・物・カネが活発に動き、交流するのは当然だと思います。それをイズム、つまり主義だととらえ、政治や宗教の勝手な「反グローバリズム」という考え方で阻止することなどできないでしょう。

   あの鎖国状態の北朝鮮でさえ国内で稼働している生産手段や通信手段、武器、エネルギーなどの重要部分のほとんどは海外から技術を得て初めて稼働したものです。もちろん日本の今日の発展も明治に開国したことがスタートになりました。

   そうした世界の相互連関は今後も進展するのは間違いありません。それでこそ世界は発展します。よく言われる「行き過ぎたグローバリゼーションが格差を生み、反グローバリズムを生んでいる」というのはある程度は事実でしょう。しかしそれに乗って行かなければ世界のどの国も発展からは取り残されます。それでも構わないという過激な思想は、不幸な結果しかもたらしていないと私には見えます。

   相互依存度が高まることにより世界の景気循環や株価まで連動性が高くなり、変動幅が増幅されてしまう、いわゆるボラティリティーが高まるという危険性が生じます。それを合理的に阻止する手段を人類は見い出せていません。理想的には各国・各地域の景気循環の周波数が異なり、波を打ち消し合ってくれるといいのですが、そうはいきません。

  つづく

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アメリカ経済と世界的金利低下

2016年07月05日 | アメリカアップデート

  イギリスではBREXITの余波が依然つづいていますね。旗手ジョンソン氏の敵前逃亡に続いて、お先棒を担いだイギリス独立党のファラージ党首も逃亡してしまいました。世界はあきれはて、英国民は離脱派まで無力感にとらわれているという報道がありました。愚かさのツケはIMFのラガルド氏の宣告、イギリスの成長率は3年後の「19年までに最大4.5ポイント下押す」ということで支払うことになりそうです。

 

  では「アメリカ経済と世界的金利低下」のシリーズに戻ります。6月14日に開始しましたが、途中でBREXITという一大イベントが入り長く中断したため、今回はその3回目です。

  1回目は、アメリカ経済の悲観的見通しの検証でした。4月の雇用統計の結果をもってだいぶ悲観的な見通しが多くなりました。それに対して私は雇用以外の統計数値を示して、以下のように述べました。

  「雇用統計の衝撃的数字も、そのものだけでなく周辺の数字やアメリカ経済の重要な指標を織り交ぜて考えると、ここから奈落の底へ向かうとは全く思えません。」

  そして世界的なカネ余りが続く中で、主要国の金利が押しなべて低下している様子を数字で示しました。レベル感としては「これはもう質への逃避が起こっていると言ってもいいくらいです」と述べました。その低金利はBREXITでさらに拍車が掛けられ、本格的に「質への逃避」となっています。現状は若干戻してはいますが、今後BREXIT以前に復帰するには時間がかかりそうです。6月13日の数字と現状を比較しましょう。アメリカ市場がお休みのため、先週末の数字です。

各国の10年物指標金利   6月13日  7月1日

アメリカ          1.62%   1.44

英国           1.23         0.87

ドイツ           0.02       ▲0.11

フランス          0.39        0.18

日本           ▲0.17%      ▲0.26

  各国とも0.2%程度低下しています。最低水準は0.3%くらいの低下でした。

  シリーズ2回目は、昨年末の金利見通しにおける重要な要素が変化していないかの検証でしたが、レビューしてみると見通しとさほどのかい離はありませんでした。それがないのに、金利だけが見通しよりも下方に行ってしまっています。しかも私はBREXITはないだろうとの見通しの下、さわぎがおさまれば相場は落ち着くだろうとも書いていました。

  ところが現実にはBREXITという世界が震撼するほどの衝撃が起こってしまい、各国の金利も上に示した通り、さらに下向いてしましました。

  一方為替は円からドルに転換しようと目論んでいた方には絶好のチャンス到来だったと思いますが、逆にあまりの円高に委縮してしまい、ドル転をためらう方も多くいらしたのではないかと想像しています。

  私は為替の専門家ではないので的確な予想などできないと再三申し上げています。そして昨年末の「今年の予想」では130円方向への円安を予想していました。ここまでは全く逆で、今年前半の結果は為替のプロのうち珍しく3分の1程度いた円高予想派が当てています。私の12月17日の記事を引用します。

引用

エコノミストや為替アナリストの見通しは、利上げがありそうだというあたりから、めずらしく大きく割れています。来年には130円に向かうという見通しと、いや110円に向かうという見通しです。比率としては円安組3分の2、円高組3分の1程度です。

  昨年末の今年の予想は穏やかな円安でほぼ一致していたのが、この2・3か月余りで見方が割れてきました。これまでのように120円付近で変わらずという人はほとんどいません。

引用終わり

  では私の金利見通しの見込み違いを検証してみます。

  私はまず昨年12月の私の金利に影響を及ぼすであろう6つの要因分析をレビューしましたが、決定的に違う方向にいっているものは見当たらないと申し上げました。そしてみなさんにも、「何かあったらご指摘ください」とお願いしました。それに対して特に反応はいただけませんでした。

  私なりに振り返りますと、見込み違いの一番の原因は、利上げと景気循環の連動性を軽視したことだと思います。アメリカの量的緩和策がゆっくりと終了に向かったいわゆる「テーパリング」が一昨年秋に終り利上げが始まったころ、私はこれは「正常化への過程だ」と説明しました。それは景気の行き過ぎを抑えるため、というこれまでの利上げとは違い、まずは異常なゼロ金利を正常なレベルまで戻すという意味です。従って、今年のように成長率見通しが昨年より多少低くとも、利上げは何回かは行われ、長期金利もある程度上昇すると見ていたのです。

  アメリカの実質GDP成長率を四半期ごとに簡単に追ってみますと、

15年第2四半期   3.9%

  第3四半期  2.0%

  第4四半期  1.4%

16年第1四半期  0.8%

  実にコンスタントに低下しつつあります。この状況ではFRBも利上げには踏み切れず、長期金利も簡単には上昇しないでしょう。つまり正常化への復帰であっても、やはり成長率鈍化には勝てない。

  そこにもってきてBREXITまでが金利を大きく抑制する要因として出現してしまいました。これも私の予想外のできごとです。世界経済の連携が強まるとアメリカのような大国は、自国のみの都合だけではすべてを決断できなくなっています。

つづく

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アメリカ経済と世界的金利低下 その2

2016年06月21日 | アメリカアップデート

   2回ほど横道に逸れましたが、本題の「アメリカ経済と世界的金利低下」に戻ります。

  アメリカは5月の雇用統計の新規雇用者数が衝撃的に少ない数字だったため、先行きに暗雲が漂い始めているというムードが広がりました。

  しかし私はGDPの構成比が高い小売や、住宅建設の数字が依然として悪くないため、深刻に考える必要はない、と楽観的見通しを示しました。

  1回目のいま一つの指摘は、日本のマイナス金利だけでなく、世界的な低金利でした。各国の長期金利の数字を並べましたが、その後ドイツの10年物国債も一時マイナスの域に達しましたので、日本に次いで主要国では2か国目のマイナス到達です。こうした低金利が続くと、この先何が起こる危険性があるのか。まずそれを指摘しておきます。

1.   債券バブルとその崩壊

低金利とは債券価格の高騰です。金利がマイナスにまで至っているということは、尋常ではないほど価格が高騰しているということで、実感はしづらいのですが、バブル症状を示しています。特にアメリカ国債やドイツ国債に買いが集まっていることに注目する必要があります。日本国債はクロちゃんによる爆買いが続いていて体温計の機能が失われてしまったため、最悪のバブルにもかかわらず症状が外に出なくなってしまいました。

2. 低金利に乗じた財政出動による信用力低下

そしてマイナス金利の陰に隠れて目立たなくなっていますが、主に日本を巡り取りざたされているのが、財政出動を巡る動きです。最近フィッチレーティングスが日本国債の見通しを下向きに改定しました。フィッチはS&P、ムーディーズに次ぎ第3番目の格付け会社で、今回の改定はシングルAのレーティングそのものを下げたのではなく、今後の見通しを下げたものです。見通しは①強含み、②安定的、③弱含みと3種類あり、今回は安定的から弱含みへの改定でした。6月13日の声明文をロイターから引用します。

「フィッチは声明で、見通しの変更について、安倍晋三首相が消費税増税の2年半の再延期を表明する一方、財政健全化目標達成のためのさらなる具体的措置を示しておらず、『当局の財政健全化の取り組みに対する信認が低下した』と指摘した。フィッチは声明で、消費増税の実現性を疑問視。アベノミクスついては、経済の潜在成長率の引き上げにはつながっていないとした上で、日本の成長停滞もまた、格付けにはマイナスとの見方を示した。」

  現状の日本では財政再建どころか、またぞろ財政出動が正々堂々と議論されています。

3. 日銀保有国債の償却処分、あるいは永久債への切り替え

最近、こんなことがよく取りざたされるようになりました。しかし今回は深入りせず、日本については機会を別に設けます。

 

  では焦点をアメリカに絞り直し、アメリカの長期金利についてどう見るかです。

   昨年12月に私は今年のアメリカの長期金利について、見通しはその前年つまり14年末の見通しとあまり変化はないと以下のように書いています。

「来年も際立った上昇は見込みづらく、せいぜい年の後半に3%前後だろうと見ています。来年中に政策金利が2~3回上げられても変わらないと思われます。」

  そして金利の上昇に関してプラスの要素とマイナスの要素について6つのポイントを上げ、それぞれにコメントを付けました。

①   FRBの政策金利上げ第2弾以降が見込まれる(金利には大きなプラス)

②   米国債の海外投資家のうち産油国からの買いがさらに減少、新たに売りに回る組も出る。9月までの1年でロシア保有分▲25%、OPEC保有分+5%(金利には大きな影響なし)。ちなみに巨額保有国である中国±ゼロ、日本▲4%。

③   連邦予算の赤字削減継続で国債供給は減少継続(金利にはマイナス)

④   雇用の順調な増加(金利には大きなプラス)

⑤   物価の落ち着き(金利には大きなマイナス)

⑥   世界の中央銀行の政策、FRBは正常化に向けさらに利上げ(金利には大きなプラス)。日本・中国・欧州は緩和継続あるいは増強(金利にはマイナス)

  まとめとしては「FRBの引き締が実行されても雇用に不安はなく、残るは物価のみとなった」

  以上の見通しを書いてから半年が経過しましたので、まずはそれを冷静にレビューしましょう。このシリーズの第1回目にはアメリカの経済指標をレビューしました。それと上記の6点を比較して、変化があって即刻訂正を要するものは実は見当たりません。せいぜい、

①  のFRBによる利上げが見込まれるものの、2~3回の想定よりも回数が減少している程度でしょうか。読者の方で、いやこれはだいぶ違ったよ、ということがあればどうぞご指摘ください。私の見方は手前ミソですから(笑)。

  ところが米国債10年物金利は私が見込んでいたよりもはるかに低下しています。年末の予測時点で2.2%程度だった10年物金利が、年央の今では1.6%台です。私の中では途中でせいぜい落ち込んでも1.8%くらいと思っていました。

  もちろんこの裏にはBREXITが現実味を帯びてしまったということがあります。私は昨年末の時点では、国民投票がここまで拮抗するとは思っていませんでした。金融市場へのインパクトは私の予想以上に大きくなっています。

  しかしこの問題は日本時間の金曜日には決着が着き、あっという間に落ち着くと思われます。

  つづく

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アメリカ経済と世界的金利低下

2016年06月13日 | アメリカアップデート

  米国を始め世界の主要国の金利低下は、驚くほどですね。いわゆる「質への逃避」が起こっているといってもいいくらいの激しい債券買いです。

  質への逃避とは、世界の金融市場に激震が走ると、必ず本当に高品質の米国債だけが買われる様子を指した金融用語です。

  各国の10年物指標金利を並べてみますと、

アメリカ  1.62%

英国   1.23%

ドイツ   0.02%

フランス  0.39%

日本   ▲0.17%

   マイナスは日本だけ。しかしドイツとフランスが次に控えている。アメリカと英国の金利が低いのに際立って高いように思えてしまう。

   一方で為替と株価も大きく動いています。円高と日本株安のパラレルな動きが下げ相場の時はさらに目立ちます。これらの動きの背景には経済指標だけではなく、英国のEU離脱=BREXITのリスクも取りざたされているからだと解説がありました。

  BREXITは本当に起これば大きな政治的・経済的リスクですので、近々また別に取り上げます。

  アメリカ経済に入る前にひとつ先に言っておきます。FRBの利上げのあるなしと長期金利の上げ下げは連動しません。それは常にそうだというのではなく、今の世界的な低金利の時、つまり世界のお金が債券に集まりやすい時は特に、という注釈がつきます。

  では、アメリカの経済の現状をどう見るかです。どう見るかが話題になるということは、もちろんアメリカ経済は大丈夫なの?という疑問が出ていて、FRBの決断にも影響がありそうだからです。

  いつも言うように私の見通しは、ぜーんぜん大丈夫です(笑)

  あんなに低い新規雇用者数の数字が出ているのに?

  はい。新規雇用者数は大事な指標ですが、雇用統計の数字の中の一つに過ぎないからです。ただあまりにも少ない数字だったので、市場は大きく反応しました。そして6月の利上げの可能性もそれに影響を受け、遠のいたことは確かでしょう。

  じゃ、何故アメリカ経済は大丈夫だと言えるのでしょうか。

  まず雇用統計では賃金指数が上昇していて、失業率もさらに低下しているからです。雇用以外では、住宅市場は春先のスローダウンよりも回復しているし、なにより大事な小売りつまり消費が伸びているからです。数字を見てみましょう。一部は5月の発表がまだのため、4月の数字です。

       新規雇用者数 失業率 コアインフレ率 新設住宅着工 小売り売上

1月     168千人    4.9%    2.2%   526千戸    2.8%

5月      38千人    47%    2.1%   619千戸    3.0%

  こうして年初との数字を比較すると、際立って低下しているのは新規雇用者数だけだということがわかります。あとは増えていたり減っていたり、それでも全体は成長が続いていて、決して不況入りするような数字ではないことがわかると思います。


 2月頃には世界がこれから大不況に突入するのではないかという観測が流れましたが、私の「そんなこた-ないよ」の声がよく響いたのか、どうということはなく平静に戻っています。今回も同じような感じで、雇用統計にびっくりして市場が大きく反応し、きっと6月の利上げはないという観測が優勢になったことに過剰反応しているのでしょう。

  そこに来てさらにBREXITが地政学的リスクまで呼び覚まし、悪材料に拍車をかけたのでしょう。

  ではみなさん、1年前を思い出してください。原油価格が暴落しはじめ、アメリカのシェール産業は壊滅し、シェール企業のジャンクボンドの崩壊が世界を奈落の底に陥れるハズでした。

  その時もシェール企業の倒産など大した大ごとにはならない。どうせちょっとチャプター・イレブンに入って身ぎれいにして、平気な顔して出てきて、またしっかり生産を始めるよ、という天の声が聞こえませんでしたか(笑)。

 天の声はさらに、

1. 原油価格の低下は、世界へのボーナスだ、悪いことなど一つもない

2. 中東やロシアの相対的な力の低下は、世界の不安定要因を除去する

とも繰り返し言っていました。覚えていらっしゃいますか。

  そして中国株が暴落した時も、私は「たいしたこたーないよ」と言っていました。時間が経てば、ケロリとしています。

  こうした大ごとが起こり市場が荒れるたびに、市場の参加者や株屋さんちのエコノミス達は、何度だって同じような間違いを繰り返します。今回もきっとそうなります。いったい何故でしょう。

  「私だけがいつでも正しい」、なんておこがましいことは決して申しません。多くの方々が間違い、私が比較的正しいのはもちろんちょっとした理由があるからです。

  その理由とは、ことの大きさ、マグニチュードの認識の差です。なんだかわかったようなわからないような感じですよね。私は繰り返し述べますが、「数字ヲタク」です。大ごとが起こると、ことの大きさをフィーリングではなく数字で、しかも論理的に把握しようとします。

  原油価格の下落によるメリットとデメリットはどちらが大きいのか。シェール産業の倒産はどのような過程を経て、どういう帰結になりそうなのか。それらを数字と破たんプロセスで把握すれば、かなり将来が見えてきます。

  その結論が、「たいしたこたーないよ。原油価格の下落はみんなのボーナスさ」なのです。

  今回の雇用統計の衝撃的数字も、同じようにそのものだけでなく周辺の数字やアメリカ経済の重要な指標を織り交ぜて考えると、ここから奈落の底へ向かうとは全く思えません。

つづく

コメント (3)
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