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アメリカ経済と世界的金利低下 その2

2016年06月21日 | アメリカアップデート

   2回ほど横道に逸れましたが、本題の「アメリカ経済と世界的金利低下」に戻ります。

  アメリカは5月の雇用統計の新規雇用者数が衝撃的に少ない数字だったため、先行きに暗雲が漂い始めているというムードが広がりました。

  しかし私はGDPの構成比が高い小売や、住宅建設の数字が依然として悪くないため、深刻に考える必要はない、と楽観的見通しを示しました。

  1回目のいま一つの指摘は、日本のマイナス金利だけでなく、世界的な低金利でした。各国の長期金利の数字を並べましたが、その後ドイツの10年物国債も一時マイナスの域に達しましたので、日本に次いで主要国では2か国目のマイナス到達です。こうした低金利が続くと、この先何が起こる危険性があるのか。まずそれを指摘しておきます。

1.   債券バブルとその崩壊

低金利とは債券価格の高騰です。金利がマイナスにまで至っているということは、尋常ではないほど価格が高騰しているということで、実感はしづらいのですが、バブル症状を示しています。特にアメリカ国債やドイツ国債に買いが集まっていることに注目する必要があります。日本国債はクロちゃんによる爆買いが続いていて体温計の機能が失われてしまったため、最悪のバブルにもかかわらず症状が外に出なくなってしまいました。

2. 低金利に乗じた財政出動による信用力低下

そしてマイナス金利の陰に隠れて目立たなくなっていますが、主に日本を巡り取りざたされているのが、財政出動を巡る動きです。最近フィッチレーティングスが日本国債の見通しを下向きに改定しました。フィッチはS&P、ムーディーズに次ぎ第3番目の格付け会社で、今回の改定はシングルAのレーティングそのものを下げたのではなく、今後の見通しを下げたものです。見通しは①強含み、②安定的、③弱含みと3種類あり、今回は安定的から弱含みへの改定でした。6月13日の声明文をロイターから引用します。

「フィッチは声明で、見通しの変更について、安倍晋三首相が消費税増税の2年半の再延期を表明する一方、財政健全化目標達成のためのさらなる具体的措置を示しておらず、『当局の財政健全化の取り組みに対する信認が低下した』と指摘した。フィッチは声明で、消費増税の実現性を疑問視。アベノミクスついては、経済の潜在成長率の引き上げにはつながっていないとした上で、日本の成長停滞もまた、格付けにはマイナスとの見方を示した。」

  現状の日本では財政再建どころか、またぞろ財政出動が正々堂々と議論されています。

3. 日銀保有国債の償却処分、あるいは永久債への切り替え

最近、こんなことがよく取りざたされるようになりました。しかし今回は深入りせず、日本については機会を別に設けます。

 

  では焦点をアメリカに絞り直し、アメリカの長期金利についてどう見るかです。

   昨年12月に私は今年のアメリカの長期金利について、見通しはその前年つまり14年末の見通しとあまり変化はないと以下のように書いています。

「来年も際立った上昇は見込みづらく、せいぜい年の後半に3%前後だろうと見ています。来年中に政策金利が2~3回上げられても変わらないと思われます。」

  そして金利の上昇に関してプラスの要素とマイナスの要素について6つのポイントを上げ、それぞれにコメントを付けました。

①   FRBの政策金利上げ第2弾以降が見込まれる(金利には大きなプラス)

②   米国債の海外投資家のうち産油国からの買いがさらに減少、新たに売りに回る組も出る。9月までの1年でロシア保有分▲25%、OPEC保有分+5%(金利には大きな影響なし)。ちなみに巨額保有国である中国±ゼロ、日本▲4%。

③   連邦予算の赤字削減継続で国債供給は減少継続(金利にはマイナス)

④   雇用の順調な増加(金利には大きなプラス)

⑤   物価の落ち着き(金利には大きなマイナス)

⑥   世界の中央銀行の政策、FRBは正常化に向けさらに利上げ(金利には大きなプラス)。日本・中国・欧州は緩和継続あるいは増強(金利にはマイナス)

  まとめとしては「FRBの引き締が実行されても雇用に不安はなく、残るは物価のみとなった」

  以上の見通しを書いてから半年が経過しましたので、まずはそれを冷静にレビューしましょう。このシリーズの第1回目にはアメリカの経済指標をレビューしました。それと上記の6点を比較して、変化があって即刻訂正を要するものは実は見当たりません。せいぜい、

①  のFRBによる利上げが見込まれるものの、2~3回の想定よりも回数が減少している程度でしょうか。読者の方で、いやこれはだいぶ違ったよ、ということがあればどうぞご指摘ください。私の見方は手前ミソですから(笑)。

  ところが米国債10年物金利は私が見込んでいたよりもはるかに低下しています。年末の予測時点で2.2%程度だった10年物金利が、年央の今では1.6%台です。私の中では途中でせいぜい落ち込んでも1.8%くらいと思っていました。

  もちろんこの裏にはBREXITが現実味を帯びてしまったということがあります。私は昨年末の時点では、国民投票がここまで拮抗するとは思っていませんでした。金融市場へのインパクトは私の予想以上に大きくなっています。

  しかしこの問題は日本時間の金曜日には決着が着き、あっという間に落ち着くと思われます。

  つづく

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11 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Owls)
2016-06-21 19:00:57
こんにちは。

林先生をはじめ皆さんに債券バブルについて
御意見を頂きありがとうございました。

私の個人的な意見を申しますと
あまりゴールドは言われているほど安全だとは思っていません。
安全と言われる割には結構凄い値動きだと思います。

ドルは買い時という御意見には全く同感です。
為替変動が怖いなら購入予算を小分けして
時期をずらせばそれほど怖くないと思います。
アメリカ国債への最適なタイミングは私にはわかりません
だけどドルを購入しとくことは大いに危機への備えと思っています。

日本国債は10年債までマイナス利回り化して
マイナス利回り国債を日銀が大量購入している
債券バブル崩壊の損失は日銀が引き受けることになる
こんな金融政策は歴史上初めてでは?

日本に関しては異常な話が出すぎで怖いです
三菱UFJ銀行がああいう行動に出るのも納得です。
返信する
Unknown (Jake Jack)
2016-06-21 20:59:29
こんにちは。

Puffinさん、林先生、Owlsさん。
ゴールドについてのご意見、ありがとうございました。

確かに、ゴールドは言われているほどの安全資産ではなさそうです。いい加減な思い付きで書き込みをして、申し訳ありませんでした。

ドル安についても神経質になりすぎていました。よく考えれば、本格的なドル安よりも日本の破たんのほうが先でしょうから。(日本の突然死が間近なんて言い出したのは、私自身でしたね・・・。本当にすいません。)

これからも、市場は大きな動きを見せてくることでしょう。また、おバカな書き込みをすることもあるかと思いますが、よろしくお願い致します。
返信する
正貨 (米国在住債券初心者)
2016-06-22 01:14:30
私もゴールドは投資先として向かないに賛成ですが、一方で金本位的な視点では、ゴールドの値動きが激しいのではなく、正貨たる金の価値は変わらず、むしろその金価格を表すドルの価値変化が激しいためにゴールドの値動きが激しいように見えているだけだと思います。

日経新聞では、ジョージ・ソロスについて「自身の運用会社では株式を減らし金の保有割合を増やすなど、市場の混乱に備えた資産配分を進めている」と報道していますが、これも「金に投資している」のではなく、大量に膨張している各国通貨への投資を解消して正貨に戻しているだけという見方もあるのかと思っています。その視点では、我々の資産はたとえ投資に回していない預金であっても円なりドルといった価値が変動するペーパーマネーに常に投資されている状況といえるのだと思います。

と、理論的に見るとそういえるのかもしれませんが、いくら正貨といわれても日常生活で金で買い物できるわけではないので実際には金を買うことはあくまで投資でしかなく、投資対象として見た場合は金は金の卵を産みませんし投資には向かないと思ってます。
返信する
金について (NH)
2016-06-22 21:05:15
みなさんの意見を聞いて納得したところもあり、投稿します。
金本位と今のペーパーマネーの対比で言えばどちらに置いておきますか?と言うことでしょうか。
レイダリオの長期周期論と、ソロスの相場観と、サマーズの長期停滞論とを掛け合わせると、各国で創出された信用ークレジットとそれに影響を受けない ものはあるか?という中で資金をどこに置くのかということではないかと感じました。
ありがとうございます。
返信する
みなさんへ (林 敬一)
2016-06-23 22:08:55
ゴールドに関するみなさんの議論、興味を持って拝見しています。

米国在住債券初心者さんの正貨の考え方、ゴールドの価格が変動するのではなく、貨幣価値が変動していて、ゴールドの価格が動いているように見えるという考え方も、一理あると思います。

しかし必ずしも金の価値は不変で、貨幣の価値が勝手に変動するとまでは言えないと思います。

例えば円の通貨供給はクロちゃんが爆発的に増加させていますが、円建てのゴールド価格はさほど動いているわけではありません。

12年末のマネタリーベースは130兆円、円建てゴールドの1gは4,300円台。16年5月のマネタリーベースは380兆円と3倍。しかし、ゴールドの円建て価格は4,600円程度とほとんど変りありません。

米ドル建てでも、アメリカのマネタリーベースが大増加し始める09年初は850ドル、マネタリーベースが5倍にも増加した現時点は1,200ドル台と50%しか値上がりしていません。

日米がお互いに貨幣供給を増加させていますが、ゴールドの価格はそれに比例していません。そして円建てとドル建ての価格の動きは大きく異なっています。

為替変動を加味しますと、ドル円レートで、円がドルに対して5割安くなっていますが、円建てゴールド価格は変化していません。

説明はとても難しいですね。
返信する
ありがとうございます。 (米国在住債券初心者)
2016-06-24 00:16:45
林先生、具体的な為替レートからの説明ありがとうございます。

仰る通り金投資として投資の性格を帯びている以上価格は変動するもので、皆が買えば上がり、売れば下がるという市場の原理に従っているのだと思います。

そういえば最近回復を見せている原油価格も、原油先物のほとんどは受渡日前に反対決済される投機的なもので現渡しされるものは数%以下しかなく、実際の原油の価値を離れた価格が形成されているという記事をどこかで読んだ記憶があります。

>例えば円の通貨供給はクロちゃんが爆発的に増加させていますが、円建てのゴールド価格はさほど動いているわけではありません。

マネタリーベースと金価格への影響はまるでアベノミクスと物価への影響のようだと思いました。ペーパーマネーを増やせば物価も上がる(はずだ)という机上の空論と実際との違いをまさにアベノミクスの失敗が証明してくれておりました。

価値繋がりで言えば、新たな気付きを提供していただける本ブログ及びコメント欄はどの経済新聞やコラムよりも価値があると思っております。

引き続きよろしくお願いいたします。
返信する
Unknown (雄鳥)
2016-06-24 13:01:20
こんにちは

大変なことになりました、
英国EU離脱しそうです
そして強いのは円だった
どうらや円預金で持つのが最も危機に強く
価値が下がらない行動のようす
というか価値が上がってますね
現実がこうなんだから仕方ないです
安易にドルは買い時と考えないほうがよいのでは?


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大バーゲンセール (チョコグラ)
2016-06-24 13:21:30
離脱になりそうですね・・・

ショックで米株が下がったらリートやバフェット銘柄を買おうかな。どこまで下がるかわからないけど。

林先生の知性派対反知性派っていうのを読んで、あ~世の中は反のほうが多いかもな・・・と少し思ってました。
返信する
びっくりですね。 (目白のおっちょこちょい)
2016-06-24 13:37:56
離脱とはびっくり。
もう出会えないかと思っていた100円台。
世の中何があるかわかりませんね。
いい機会だったので追加でドルを購入しておきました。
返信する
Unknown (陽子)
2016-06-24 16:07:22
林様、皆さま、こんにちは。

安倍首相が言ってたリスクはこれだったのかしら?

結果は、離脱でしたね!
私も、100円、101円台でしっかり仕込みました^^
平均取得為替が下がって、ホッとしています。
ゼロクーポン債も前と同じ2043年のを2万米ドル買ってみました。単価51.45(利回り2.52%)参考まで。

もっと円高が来るのでしょうか。。。
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