裏手にある古い井戸は大きな石を巧みに積んで作られ、おそらくは明治時代から水が湧き出ているから、もう100年以上もの長い間現役で活躍していることになる。
市水道が入った今でも大量の水を必要とするハウス野菜や水稲苗の潅水に使っている。
その井戸の辺りや土蔵の軒下には冬になっても枯れることなく「井戸草」が生え、目立たないが夏ごろにはひっそり、小さな花をつける。
昔、その葉を祖母が天ぷらにした記憶がある。
12月、緑の葉はどこにもないが「井戸草」だけは元気、枯れることはないがさすがに葉っぱが小さくなっている。
先日診療を待つ間の雑誌で「井戸草」は我が家だけの呼び名で本当は「ユキノシタ」と知った。
食用はもちろん、薬草としての価値があるらしい。開花期の葉を乾燥したものは虎耳草(こじそう)という生薬になり、または煎じて飲めば利尿、消炎に効果がある。
葉のしぼり汁は耳だれ、かぶれ、湿疹などに効く。
そういえば幼い頃、おでこにできた腫れ物に祖母が「井戸草」を手で揉んで貼り付けてもらったことがある。
今のように手軽に薬が買えない昔、冬でも育つ「井戸草」(ユキノシタ)を常備薬として井戸端や土蔵の辺りに植えつけた先祖の知恵に感謝する。