恐山あれこれ日記

院代(住職代理)が書いてます。

安らぎと災いのドア

2018年12月10日 | 日記
 先日都内で、たまたまラッシュ時の電車に乗りました。まさにすし詰めで、一度体を動かしたら、そのまま体が固定されて、身動きできなくなるような大混雑でした。

 その混雑の中、とある駅で、40歳くらいのサラリーマン氏が、乗り降りの人の流れを巧みにすり抜けて、反対側の閉じているドアの合わせ目あたり、つまり真ん中に身を挿し込んできました。そのちょうど右隣りに私がいたのです。

 電車が走り出すとすぐ、そのサラリーマン氏は、左脇に挟み込んでいた通勤カバンから、右手で器用に大きめのタオル地のハンカチを取り出し、ドアの合わせ目あたり、ほぼ目の高さに置いて、いきなりそこに額を着けました。そして軽く左右に体を振り、両足を肩幅に開いて(多分、そうしたんだと思います)、カバンを左脇に挟んだまま、デパートの店員のように両手を下腹部の前で組むと、なんと、そのまま眠り出したのです。

 彼の横顔と私の顔は50cmも離れていません。寝息が聞こえるのです。ビックリしました。次の駅で急にドアが開いたら大変だ・・・・と思った私は、すぐに気がつきました。

 違う!彼はプロだ! 彼は、毎日の通勤で、当然こちら側のドアがしばらく開かないことを熟知しているのだ。

 案の上、サラリーマン氏は、数駅過ぎた後、次の駅に電車が滑り込む直前、やおら額を離すとハンカチをカバンのサイドポケットに納め、ドアが開いた瞬間に、誰より早く最寄りの階段に足をかけていました。

 鮮やか! 実に名人芸でした。そして、この練達の技が、私に40年近く前の記憶を呼び起こしました。

 当時学生だった私は、ある日、深夜の山手線に乗りました。もう乗客は多くなく、私はドア近くの席に腰を下ろしました。

 もう駅を覚えていませんが、その電車はすぐに出発せず、2、3分は停止していたでしょう。そこへ、同じ学生風カップルがあわただしく階段を駆け下りてきて、男だけが乗り込みました。視界に入って来たので、何気なく見ると、その男は実に見事なリーゼント頭をしていました。

 当時リーゼントが流行っていたのかどうか記憶にありませんが、とにかくその男は、額から10cmは突き出して固められた、コテコテのリーゼントでした。

 乗り遅れると思って急いできたのでしょうが、拍子抜けというか幸運というか、しばしの時間がある、とわかったリーゼント男は、ドアの真ん中に仁王立ちして、彼女と別れを惜しみ始めました。

 出発のアナウンスが聞こえ、ベルが鳴り始めても、彼はドアのギリギリの所に立ち、「またあしたねェ」という甘ったれた鼻声に、「おう、気をつけて帰るんだぞ」みたいな声をかけていました。そこへ、ドアが閉まります!

 おそらく、男の予定では、ドアが閉まる直前まで互いに見つめあい、閉まる刹那に身と頭を引くはずだったのでしょう。

 ですが! 彼はまさに自分のリーゼントの10cmを忘れていたのです!! 彼が頭を引いたその時、ばっちり、ドアは彼のリーゼントを挟み込みました!!!

「憎むべきカップル」の「情愛ある別れ」を目の当たりにしていた私(当時、ほぼ引きこもり状態)は、想定外の展開に一挙にテンションが高まり、実に快哉を叫びたい気分でした。

 リーゼント男は動転します。頭がドアに張り付き、首から下しか動きません。なんとか前髪を抜こうとしますが、固めたリーゼントはそれなりに太く、ドアに完全に挟まれては、とても抜けるものではありません。

 男は、立ったま腕立て伏せをするように両手をドアにツッパリ、なんとか引き抜こうとするのですが、とても無理です。それよりも、頭を中心にTシャツ・ジーパンの後ろ姿全体がフラダンスのごとくくねるので、私は噴き出しそうで困りました。

 そのうち、他の乗客も気がつきだして、ひそひそ話と小声の笑いが漏れ始めました。いよいよ焦るリーゼント男!

 と、突然、男の動作が止まり、手が下がりました。要は、無駄な抵抗は止めて、次の駅に着くまで待つことにしたのです。

 ところが! なんと!! 次の駅は降り口が逆側だったのです!!!

 再び焦りまくるリーゼント男! 噴き出しそうながら同情の気分も沸いてきた私! もう笑うに笑えず、それでも笑いを漏らす乗客!

 ついに男はすべての抵抗を諦めて、だらりと両手を下げ、頭でドアに寄り掛かるようにして、万事休す!! 寝たふりを始めました!!!

 いやあ、実に久しぶりに思い出しました。

 こういう記憶がいくつかあると、しばし辛いことが続いたとき、少しラクになるものです。 ありがとう! リーゼント男!!

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112 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
( *´艸`) (Unknown)
2018-12-10 00:30:46
うふふ。

南さんもリーゼント頭
だったのでしょうか。

今ちょうど
ツッパリ番組がうけてますね。
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かなり面白い (Unknown)
2018-12-10 00:34:42
めちゃくちゃ面白い話ですね。
いやー、笑った。

リーゼントの焦る気持ちもわかるし、吹き出すのを我慢している南さんの気持ちもわかる
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Unknown (Unknown)
2018-12-10 00:39:06
おそらく原宿駅ではないでしょうか。
80年代初頭、竹の子族やらローラ族がわんさか
いましたから。
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彼女は? (Unknown)
2018-12-10 00:43:09
挟まれた毛を見届けた・・😲
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Unknown (金髪)
2018-12-10 00:48:24
そこはトウキヨウですか?

そんな昔から、反対側のドアが開いていたなんて‼ 
さすがトウキヨウ。垢抜けてますね。
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Unknown (おいら)
2018-12-10 00:51:39
おいらの町には、1両しかねえべ。

車掌はダチさ。
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Unknown (パンチぱーま)
2018-12-10 01:00:27
そのサラリーマン氏は恐らく若い頃に、毛を挟まれた経験があるのでしょうね。

リーゼント頭の未來予想図。
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Unknown (Unknown)
2018-12-10 01:06:46
代々木駅は原宿駅とは反対のドアが開く
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そうそう (Unknown)
2018-12-10 01:52:44
親がエリートで、中高生の頃は真面目で大人しく、さほど目立たない子が優秀な大学に入るも、恋人ができた途端に「豹変する」というパターンもあるようですが、たまたまそんなカップルと電車内で鉢合わせする、という事態が起こったことがあります。

ベタベタいちゃいちゃを見せつけたいのか、ま~あベッタリくっつきまわり、思わず「ダサッ」と言いたくなりましたが、止めときました。(笑)

西洋人なら「絵」にもなるのでしょうが、ま~あ男側のモヤシみたいなナヨナヨ性に対して、女側はドヤ顔ときたら、この田舎もんカップルに、手の打ちようはありません。(笑)

これまた後でたまたま、同じ大学の友人に女側の話を聞くことがありましたが、「かなり」評判が悪いということで、まんざら自分の私見が「検討外れ」ではなかったんだな、とホッとしたものです。

中学の先生からも、地味~な女ほど後で変わり方が「激しい」と聞かされていたので、ああ「この事」かと実感した出来事でっしたとさ。
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 (Unknown)
2018-12-10 02:05:55
あそこまでベタベタ感はありませんが、眞子さんと婚約者が大学生の時に、電車内で撮られた写真の構図に、少し似ているかな~?、と。
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