恐山あれこれ日記

院代(住職代理)が書いてます。

手ごわい聴衆

2007年11月22日 | インポート

 先日、ある小学校のPTA会長さんから依頼されて、講演をしてきました。

「ちょっとウチの子供たちと父兄に話をしてもらえませんか」

 という感じの頼まれ方だったので、ちょっとした集まりがあるので話をしてくれということだろうと思って、気楽に出かけていくと、「創立60周年式典記念講演」などと、体育館に大きな垂れ幕があり、ビックリ仰天。5年生と6年生の児童とその父兄、さらに来賓の方々など、ざっと300人くらいが待っていました。

 当惑したまま、教頭先生に導かれて入っていくと、目ざとくを私の姿を見つけた男の子たちから、「おい、アレ!」「ワーオ!」「でけー」などなどの声が・・・。

 いったいどうなることかと思いましたが、自分がその年頃の記憶をたどりつつ話をしてみたら、案外静かに聴いてくれました。自分自身、あの頃は、大人の退屈な長話につくづく辟易していたので、同じことを子供たちに感じさせたのではないかと心配しましたが、終了後、父兄の代表の方から、

「ほとんど私語もなく、最後にあんなに子供から拍手されるなんて、そうあることではないですよ」

 と言われたので、坐っているのが苦痛なほどの退屈は、なんとか与えずにすんだようです。

 しかし、子供に話をするのはむずかしい。実は、私も依頼された当初は、全校児童を対象にと言われ、即座に「それはムリです」とお断りしたのです。10歳以下の子供を飽きさせることなく30分話を聞かせることができたら、それこそ名人です。とても私ごときが及ぶ域ではありません。私はかろうじて、11、12歳くらいの子供の気持ちは、想像がつくような気がしますから、何とかなるかとは思ったのですが、それ以下になると、心情の機微は察するのがむずかしい。

 しかし、名人はいます。私が驚いたのは、当時80歳を超えていた老僧です。そのとき、ちょうど東南アジアの某国に小学校建設資金を寄付していた老僧は、開校式に招かれて、私をお供にはるばる彼の地に出かけていきました。

 到着すると、村中の人々が歓迎に集まり、仮説のステージの上にはその地方のお偉方がズラリ。ステージ前には年齢がバラバラの大勢の子供たちが地面に直接坐っていました。

 その壇上に主賓として招かれ、お偉方の演説のごとき挨拶を延々と聞かされた果てに、司会者が老僧を指差して、「それでは、我々の恩人、日本のお坊さま○○様のご挨拶です!」というような紹介をしました。

 するとそのとたん、老僧ははじかれたように椅子から立ち上がり、司会者に近づくとそのマイクをひったくるようにして、周囲を完全に無視し、目の前の子供たちに通訳抜きに日本語でこう言いました。

「お友達のみなさーん! こんにちはー! 私は日本から来ました。皆さんの言葉がわからなくて、ごめんなさい。そこで和尚さんは皆さんに歌をうたいます!」

 そして間髪をいれず、お経で鍛えた咽喉で音吐朗々、日本の童謡のメロディに自分で作った歌詞を付けた歌を、手拍子しながら次から次へと歌いだしました。

 最初はあっけにとられていた子供たちは、しばらくして拍手をはじめ、しだいにハミングでついてくるようになり、最後にはやんやの大喝采になりました。

 息も乱さず歌い切った老僧が最後に、

「みんなどうもありがとう!どうかいつまでも仲良く元気に、この学校で勉強して下さい!!」

 と大きな声で言いました。ようやくそこだけ通訳が訳すと、会場は割れんばかりの大拍手と歓声に包まれ、長く長くそれが続きました。

 帰りの車の中で老僧は言いました。

「わしはな、仲良く元気で、と子供に言いたかっただけだ」

 私は僧侶の説教の凄みをこのときほど感じたことは後にも先にもありません。説教に名人がいるとするなら、まさにこれが名人芸だと思っています。


参禅研修終わりました

2007年11月10日 | インポート

Photo  ご報告が遅れましたが、閉山さる先月23・24日、恐山初の参禅研修会が無事終了しました。

 参加者は15名。遠くは中部地方の方もおられ、ほとんどこのブログでしか告知していなかったのに、有難い限りです(申し込みは20名。5名の方が残念ながらキャンセルでした)。

 スケジュールは、初日午後4時入山。引き続き日程説明、禅道場における身体作法の実習、開講式、薬石(夕食のこと)、夜から坐禅指導および実践、写経、入浴、就寝。Photo_2

 翌朝4時50分起床。以後暁天坐禅(きょうてんざぜん・早朝坐禅のこと)、朝課(朝のお勤め)、小食(しょうじき・朝食のこと)、作務(さむ・清掃を中心とする作業)、講話、修了式。修了式では今回特に製作したお経本を兼ねた終了証をお渡ししました。

Photo_3     Photo_4       皆さん、従業員が近寄りがたかったというほど熱心に修行  していただきました。私たちとしては本当にありがたく、今後も続けてみようという気持ちになれました。

 書いていただいた感想文でも、ずいぶん好意的なご意見を頂き、嬉しく思っています。またご意見の数々は今後の改善のヒントとさせていただきます。ただ、一番多かったご不満が、交通の便、アクセスが悪いということで、これは恐山としてはいかんともしがたく、各方面による今後の下北半島地域の振興策に期待せざるを得ません。

  Photo_11 げます。 Photo_10 

 お知らせ。次回「仏教・私流」は来年1月18日(金)午後6時半より、豊川稲荷東京別院にて行います。