彼は暗闇が怖い。でも、ときどき夜道を歩いて、月を見上げる。
背中と顎を伸ばして、目を見開き、少し口元が緩んで、
体いっぱいに光をあびるように、
そのまま飛び立っていくかのような姿で、
彼は月を見上げる。
歩き出す。10歩、20歩。
立ち止まり、足をそろえ、両手を左右のポケットの位置に定めて、
また月を見上げる。
そして、多くの言葉を知らない彼は、
「月、きれいだねえ」
と言う。
彼は争いを知らない。だから、争いになると、その場を離れる。
それが欲しいから、手を伸ばす。
そこに別の誰かが手を伸ばす。
彼は睨まれる。「これ僕の!」と大きな声で言われる。
驚いて、手を引っ込め、視線をあちこちに向けながら、
彼はそこから離れていく。
そして、次の居場所を決め、どうしたものかというように、
胸の前で両手を握りしめて、立っている。
好きな歌を小さな声で歌いながら。
彼は勉強も仕事も嫌いである。させようとすると、逃げる。
ただ、しなければならないと覚悟を決めると、耐える。
彼は理解が遅い。
彼はとても不器用だ。
でも、3時間、4時間、
叱られながら、呆れられながら、時々涙ぐみながら、
彼はそれを止めない。
そしてついに、教える人が、「もう、いいや! 今日はこれまで!」と言うと、
「今日はこれまで!」と大声でまぜっかえして、
信じがたいほど素早い身のこなしで逃げていく。
彼はひとから「かわいそう」と言われることもある。
誰も彼のようになりたくはないだろう。
しかし、彼は不幸ではない。
少なくとも、幸せと不幸せの区別が、彼にはない。
今年も当ブログをお読みいただき、ありがとうございました。
皆様の新年のご多幸を祈念申し上げます。
背中と顎を伸ばして、目を見開き、少し口元が緩んで、
体いっぱいに光をあびるように、
そのまま飛び立っていくかのような姿で、
彼は月を見上げる。
歩き出す。10歩、20歩。
立ち止まり、足をそろえ、両手を左右のポケットの位置に定めて、
また月を見上げる。
そして、多くの言葉を知らない彼は、
「月、きれいだねえ」
と言う。
彼は争いを知らない。だから、争いになると、その場を離れる。
それが欲しいから、手を伸ばす。
そこに別の誰かが手を伸ばす。
彼は睨まれる。「これ僕の!」と大きな声で言われる。
驚いて、手を引っ込め、視線をあちこちに向けながら、
彼はそこから離れていく。
そして、次の居場所を決め、どうしたものかというように、
胸の前で両手を握りしめて、立っている。
好きな歌を小さな声で歌いながら。
彼は勉強も仕事も嫌いである。させようとすると、逃げる。
ただ、しなければならないと覚悟を決めると、耐える。
彼は理解が遅い。
彼はとても不器用だ。
でも、3時間、4時間、
叱られながら、呆れられながら、時々涙ぐみながら、
彼はそれを止めない。
そしてついに、教える人が、「もう、いいや! 今日はこれまで!」と言うと、
「今日はこれまで!」と大声でまぜっかえして、
信じがたいほど素早い身のこなしで逃げていく。
彼はひとから「かわいそう」と言われることもある。
誰も彼のようになりたくはないだろう。
しかし、彼は不幸ではない。
少なくとも、幸せと不幸せの区別が、彼にはない。
今年も当ブログをお読みいただき、ありがとうございました。
皆様の新年のご多幸を祈念申し上げます。