以前、当ブログで、私が某道場での修行僧時代に仕出かした失言の話を書きました。
修行強化期間中の「絶対権力者」(としか、後輩には見えなかったでしょう)としてテンションが絶頂に達していた私は、強化期間初日に、期間中は肺炎になるか骨折をしない限り、誰も外には出さないと豪語した直後、あろうことか自分が足の指を骨折したという、御粗末な一席でした。
この骨折事件から2か月後、暑い盛りの7月末、全山の草取り作務(さむ:修行として行う労働)がありました。
例によって修行僧は山門前に集合。私は、暑さで気が緩むとまずいと思い、一発気合を入れてやろうと、皆を睥睨して開口一番、
「いいかァ!!」
「ハイ!!」(一挙に高まる緊張)
「お山の草取り作務は世間の草取りとはちがーう!」
「ハイ!」
「お山の草取りとはァ・・・」
(3秒くらいの間)
「砂漠にすることだ!!!」
(全員、無言)
「草一本残すな! 容赦なく根絶やしにしろ!!!」
(「サバク・・・」のつぶやき少々)
「わかったかあ!!」
「ハイ!!」(全員、大声)
「声が小さい! わかったかああ!!!」
「ハイ!!!」(全員、絶叫)
「始めーっ!」
修行僧がいっせいに走り出し、散って行きました。と、そこに伝令が来て、某老師が急用だと言いました。本当に急ぎの要件だというので、私はしばらく持ち場を離れ、用事を片づけに行きました。
30分ほどして用が済み、作務に戻ろうと階段を小走りに降りていくと、何やら修行僧がひとり、駆け上がってきます。
「書記おっさん!」(「書記」は当時の役職名)
「どうした?」
「植木も切るんですよね!?」(明るく澄んだ修行僧の眼)
「何のことだ?」
「ハイ、サバクにするわけですから、切らないと。でも、一応訊いて来いと・・・」
「ちょっと待てえ!」
私は走り出しました。山門に駆けつけると、びっくり仰天、唖然、呆然。
杉の巨木がそびえたつ山門前を覆う瑞々しい苔が、ほとんど剥ぎ取られています。さらに、時代を感じさせるあちこちの植木の周りに、ノコギリを片手にした修行僧が数人立っていて、
「あ、書記おっさん、もうすぐサバクにできますから」
「ちがーう!! ダメだダメ!! 中止ーーーーっ!!!」
私の必死の叫びに驚いて、全員が作業を止めて立ち上がりました。
「何してるんだよお・・・・!」
「は? サバクにするんで・・・」
「コケはどうした? コケは!?!」
「捨てました」(当たり前だろう、という表情)
「取ってこーい! もどせーーっ!!」
突然風向きが変わって、今度は修行僧がびっくり。私も廃棄場所にとんでいって、一緒に苔を拾い集めて持ち帰り、剥ぎ取った苔を総がかりで、まるでパズルのように組み合わせ、剥き出しの地面を覆いました。
それから営繕を担当する部署のリーダーになっていた同期の友人のところに駆け込み、文字通り拝み倒しました。
「たのむ!! コケ、全部剥がしちゃったんだ。いま戻したから、明日から水遣りと手入れをして、なんとか根付かせてくれ!!」
「直哉、お前なあ・・・」
「だって、喩えだよお、喩え! ほんとにサバクにするなんて思わないじゃん。冗談が通じなかったんだよお!」
すると友人は冷たくひと言。
「あのなあ、それが冗談かどうかを決めるのは、言ったお前じゃなくて、言われた方!」
特定のイデオロギー(「書記おっさんの命令は絶対」)が、生活まるごとの中に叩き込まれるとどうなるかという、身に染みた教訓でした。
修行強化期間中の「絶対権力者」(としか、後輩には見えなかったでしょう)としてテンションが絶頂に達していた私は、強化期間初日に、期間中は肺炎になるか骨折をしない限り、誰も外には出さないと豪語した直後、あろうことか自分が足の指を骨折したという、御粗末な一席でした。
この骨折事件から2か月後、暑い盛りの7月末、全山の草取り作務(さむ:修行として行う労働)がありました。
例によって修行僧は山門前に集合。私は、暑さで気が緩むとまずいと思い、一発気合を入れてやろうと、皆を睥睨して開口一番、
「いいかァ!!」
「ハイ!!」(一挙に高まる緊張)
「お山の草取り作務は世間の草取りとはちがーう!」
「ハイ!」
「お山の草取りとはァ・・・」
(3秒くらいの間)
「砂漠にすることだ!!!」
(全員、無言)
「草一本残すな! 容赦なく根絶やしにしろ!!!」
(「サバク・・・」のつぶやき少々)
「わかったかあ!!」
「ハイ!!」(全員、大声)
「声が小さい! わかったかああ!!!」
「ハイ!!!」(全員、絶叫)
「始めーっ!」
修行僧がいっせいに走り出し、散って行きました。と、そこに伝令が来て、某老師が急用だと言いました。本当に急ぎの要件だというので、私はしばらく持ち場を離れ、用事を片づけに行きました。
30分ほどして用が済み、作務に戻ろうと階段を小走りに降りていくと、何やら修行僧がひとり、駆け上がってきます。
「書記おっさん!」(「書記」は当時の役職名)
「どうした?」
「植木も切るんですよね!?」(明るく澄んだ修行僧の眼)
「何のことだ?」
「ハイ、サバクにするわけですから、切らないと。でも、一応訊いて来いと・・・」
「ちょっと待てえ!」
私は走り出しました。山門に駆けつけると、びっくり仰天、唖然、呆然。
杉の巨木がそびえたつ山門前を覆う瑞々しい苔が、ほとんど剥ぎ取られています。さらに、時代を感じさせるあちこちの植木の周りに、ノコギリを片手にした修行僧が数人立っていて、
「あ、書記おっさん、もうすぐサバクにできますから」
「ちがーう!! ダメだダメ!! 中止ーーーーっ!!!」
私の必死の叫びに驚いて、全員が作業を止めて立ち上がりました。
「何してるんだよお・・・・!」
「は? サバクにするんで・・・」
「コケはどうした? コケは!?!」
「捨てました」(当たり前だろう、という表情)
「取ってこーい! もどせーーっ!!」
突然風向きが変わって、今度は修行僧がびっくり。私も廃棄場所にとんでいって、一緒に苔を拾い集めて持ち帰り、剥ぎ取った苔を総がかりで、まるでパズルのように組み合わせ、剥き出しの地面を覆いました。
それから営繕を担当する部署のリーダーになっていた同期の友人のところに駆け込み、文字通り拝み倒しました。
「たのむ!! コケ、全部剥がしちゃったんだ。いま戻したから、明日から水遣りと手入れをして、なんとか根付かせてくれ!!」
「直哉、お前なあ・・・」
「だって、喩えだよお、喩え! ほんとにサバクにするなんて思わないじゃん。冗談が通じなかったんだよお!」
すると友人は冷たくひと言。
「あのなあ、それが冗談かどうかを決めるのは、言ったお前じゃなくて、言われた方!」
特定のイデオロギー(「書記おっさんの命令は絶対」)が、生活まるごとの中に叩き込まれるとどうなるかという、身に染みた教訓でした。