街には、夜から急に雨が降り出した。
女たちは頭と足元を気にし、男は前かがみに足早に歩きだす。誰もが誰かと交錯して、私はその狭間を縫った。
「だから!ダメだって言ってるの!!」
突然、甲高い声が路上の雑多な音を割ると、私の体の右側に塊りが衝突して跳ね返った。
目の前に転がったのは、子どもである。降り出した雨と涙と鼻水に濡れた、拳くらいに小さい顔が、目を見開いたまま口を穴にしている。
私は、ひっくり返った子どもの両脇に腕を入れて、そのまま引き上げた。
「だいじょうぶ、ね?」
目の隅に、先の尖ったオレンジ色の靴が見える。顔を上げると、立ち竦んだ若い女の眼が、当惑したように、切なそうに、光を失って固まっていた。彼女は今まで生きてきて、こういう格好をした僧侶を間近で見たことがあっただろうか。
いきなり、子どもの泣き声が弾けた。喉を焼くような、悲鳴が連続するような、通り過ぎていく者がチラッと視線を投げるような、口から沸き出る、誰も聞きたくない騒音。
私は、泣き続ける子どもの両肩を回して、若い女に向かって軽く押した。即座に、若い女は固まった視線を断ち切った。そして、棒でも持つように子どもの左手を掴むと、そのまま振り返りざまに引き摺っていく。
女と子どもと泣き声は、たちまち雑踏の中に飲み込まれた。
駅に行く私は、逆方向に歩き出した。おそらく、何かに腹を立てて。彼女にではなく、自分にでもなく、何かに。
女たちは頭と足元を気にし、男は前かがみに足早に歩きだす。誰もが誰かと交錯して、私はその狭間を縫った。
「だから!ダメだって言ってるの!!」
突然、甲高い声が路上の雑多な音を割ると、私の体の右側に塊りが衝突して跳ね返った。
目の前に転がったのは、子どもである。降り出した雨と涙と鼻水に濡れた、拳くらいに小さい顔が、目を見開いたまま口を穴にしている。
私は、ひっくり返った子どもの両脇に腕を入れて、そのまま引き上げた。
「だいじょうぶ、ね?」
目の隅に、先の尖ったオレンジ色の靴が見える。顔を上げると、立ち竦んだ若い女の眼が、当惑したように、切なそうに、光を失って固まっていた。彼女は今まで生きてきて、こういう格好をした僧侶を間近で見たことがあっただろうか。
いきなり、子どもの泣き声が弾けた。喉を焼くような、悲鳴が連続するような、通り過ぎていく者がチラッと視線を投げるような、口から沸き出る、誰も聞きたくない騒音。
私は、泣き続ける子どもの両肩を回して、若い女に向かって軽く押した。即座に、若い女は固まった視線を断ち切った。そして、棒でも持つように子どもの左手を掴むと、そのまま振り返りざまに引き摺っていく。
女と子どもと泣き声は、たちまち雑踏の中に飲み込まれた。
駅に行く私は、逆方向に歩き出した。おそらく、何かに腹を立てて。彼女にではなく、自分にでもなく、何かに。