恐山あれこれ日記

院代(住職代理)が書いてます。

「現実」の解毒

2019年12月20日 | 日記
 最近の報道で、私が強い印象を受けた発言と言えば、一つは、スウェーデンの高校生であり環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんの国連でのスピーチであり、もう一つは、ローマカトリックのフランシスコ教皇が広島・長崎で行った演説で、これは私ばかりではなく、多くの人々の記憶に残るものとなったでしょう。

 気候危機への早急な対策を激越な口調で促す、10代のグレタさんのスピーチと、核兵器の使用も保有も倫理的に許されないという、80歳を超える教皇の穏やかながら断固たる主張も、一見対照的でありながら、これら二つの発言には共通するものがあります。それは「現実を知らない」「ただの理想論」と批判されやすいだろうということです。

 グレタさんの発言は、実際に各国の「現実」的な為政者や中高年層から繰り返し批判されていますし(あの言い方のせいもあるでしょう。しかし、怒りの唯一の効能は、問題の所在を一挙に劇的に露わにすることです)、教皇の演説も彼らに敬して遠ざけられ、静かに黙殺されていきそうな雲行きです。

 しかし、このような「現実」の立場から「理想」を批判する物言いや態度は、私が思うに、非常に浅はかで非生産的でしょう。というのは、批判する側は、「現実」と「理想」を二項対立的に設定した上で、前者を「重く」「強固で」で「動かしがたい」ものと考え、後者を「軽く」「空想的で」「夢のような」ものだと思い込んでいるらしいからです。

「現実」と称されるものは、それ自体で存在する実体でも何でもありません。それは一定の条件下で構成され、ある程度の規模で共有されている認識の体系に他なりません。いわば、「現実」とは「皆で見ている夢」であり、「夢」とは「破れてしまった現実」のことです。とすると、現実と夢の区別は、所詮「覚めるかどうか」、その一点にかかります(したがって、夢から覚める夢を見ている場合もある)。

 あるいは、バーチャルとリアルの違いにしても、それぞれに実体的な区別があるわけではなく、私に言わせれば、「思ったようにスイッチをON・OFFできる」ものが、「バーチャル」なのであり、どうしようもなく「思った通りにONもOFFもできない」し、結果的に否応もなく我々の考え方や行動を変えてしまうようなものが、「リアル」なのです。

 となると、グレタさんや教皇に批判的な人々が考えている「現実」も、これまで一定の条件下、で有効だった構成物にすぎず、条件が変われば「夢」どころか「錯覚」になりかねません。

 そして、このとき、「単なる理想論」「空論」のように扱われてきた主張が、実はすでに有効性を失いつつある「現実」に替わって、我々が次に制作すべき「現実」の先取りなのだとも言えるでしょう。

 ならば、むしろ「理想」論の持つ非現実性に視点をとり、「現実」の在り様を再検討するほうが、より「現実的」な展望を我々にもたらすのではないでしょうか。

「現実的になれよ」としたり顔で言う者は、えてして「現実の囚人」です。牢獄は堅牢に見えても、建っている地盤は案外に脆いのです。「そんな理想論を言ってもねえ」と蔑む人は、「現実の中毒患者」でしょう。重症かもしれませんが、飲む気になれば、効く薬もあるものです。

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135 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
質問です。 (カトレア)
2019-12-20 00:18:28

夢と理想の違いは、何でしょうか?


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Unknown (Unknown)
2019-12-20 00:21:46
私的には、2者発言は「理想」などと掲げるものではなく、「問題提起」として捉えています。

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Unknown (Unknown)
2019-12-20 00:30:30
東京オリンピックも、「現実的」か?と、問いたい。

要は、金儲け主義者達に騙されていることに、気づいていない。

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Unknown (いったんもめん)
2019-12-20 00:33:47
リアル→よく解らない

バーチャル→理解したふりをしてコメントする
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毛沢東の文化大革命の紅衛兵 (イエスちゃん)
2019-12-20 00:54:32
既視感です。
毛沢東の文化大革命の紅衛兵を思い出します。

操り人形だった。
現に操る人がいます。
子供は、純粋にそれを信じています。
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「CO2] (イエスちゃん)
2019-12-20 01:07:07
まず「地球温暖化の原因が、CO2の増加である」はウソである。

「地球」と「太陽」とは「生きている」、勝手に変化している。

「温暖化している」と仮定しても「原因は別にある」。

「CO2の増加からの影響は、少ない」。



「CO2が温暖化の原因である」は、科学ではなく、政治の問題である!
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地球の寒冷化よりも温暖化の方が良い (イエスちゃん)
2019-12-20 01:36:34
地球は「生きている」から、何度も「全球凍結」を繰り返している。
その度に、90%も95%も「種の種類数」が、絶滅してきた。

「長い周期の地球の変動の研究」が必要である。
その場合、CO2でなく、太陽活動の影響が大きい。

「CO2が犯人」は、現代版の「魔女狩り」である。
人々が狂っている。

要は、彼の少女は「CO2は犯人ではない」という本は読んでいないだろう。

他方、
ローマ法王の方は、本物だ。
「両方を知って」いて、「自分の頭」で、判断しているから。
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Unknown (Unknown)
2019-12-20 03:58:18
理想と現実の狭間にて・・・
なんて話が出てくるようだ。

仏教に於ける
理想と現実の狭間にて、
と話をふれば、

誰でも悟れるは理想の語りで、
(誰にも)『悟りは開けない!!』が現実暴露の本か??
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Unknown (Unknown)
2019-12-20 04:10:10
女子高生のも教皇のも聞いてないんだけど。

温暖化危機も核廃絶も、その主張自体に特別なことはあったの?
ここは他の論と違うってことってあったの?
私思うに、あれが取り上げられたのは「発言者が『その人』だったから」じゃないのかと。
そうじゃなくて、特別なことが言われていたのなら、よかったら教えて。
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Unknown (Unknown)
2019-12-20 04:55:58
今回の記事
「理想と現実」ってところに話を持っていく
1 導入として、女子高生と教皇のスピーチの話題を使う
2 2人の主張は、時代錯誤の現実中毒患者によってスルーの方向に流れている
3 しかしながら「理想」と「現実」とはうんぬん

1は、発言者の特殊性(による話題性)に頼っているだけのことでしょ。
そういうのは時間とともに流されるよ、話題性の問題だもん。
2についてなら、それは2人の発言についてに限らず、日々起こっていることでしょ。そして時代錯誤の現実中毒患者だけが起こしていることじゃない。わたしも(もしかしたら南さんも)その当事者だったりするんじゃん?

もし、意識的に話をスルーしたい、というか、地球温暖化が・環境保護が・核廃絶がどうのこうのっていう主張を「そこそこのところで黙らせないとマズイ」と明確に思っている人がいるなら、その人たちにとっては「現実とはこういうものだ」の「現実」の意味が違うんじゃない?明確に「お金儲けのため」とかさ。
そんな「現実とはこういうもの」なんていう薄らぼんやりしたこと考えてないんじゃないかな。たぶん、かなりいろんなものをつっこんででも推し進めたい方向性を持ってるんじゃない?
そこには彼らなりの「生産性」があるってことじゃん?

なんか、たしか、南さん、どこかで「『出家』の理想と現実(私解釈によるヘッドライン)」みたいな話してたと思うんだよ。
「山ん中にこもって瞑想的な生活する、いわゆる出家僧らしい出家僧の存在って大切だと思う」みたいな。
たしか対談形式で、対談相手に「でも南さんは結婚してる」って言われて、「自分がやってて「大切なことだ」って言うといやらしいでしょ、だから」みたいなことを返してたんだよね。
わたしね、そこにあるのが「理想と現実」だと思う。
今回の記事じゃ他人事みたいに書いてるけど。
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