メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

チェーホフ「かもめ」

2023-10-07 15:32:14 | 本と雑誌
チェーホフ:かもめ(喜劇 四幕)
          神西 清 訳  新潮文庫
チェーホフ(1860-1904)の小説(主に短編であるが)は若いころからそれなりに読んできた。しかし四つの名高いタイトルに代表される戯曲は全く読まないできた。演劇をそれほど見に行かなかったせいもあるし、演じる劇団、俳優など、日本の時代背景もあるが、どうもあまり気が向かないということもあったように思う。それでも三島由紀夫の作品などはそれなりに見てきた。
 
さて「かもめ」は1895年の作品、四大作品の最初である。ロシアの田舎、大地主の家族と、つながりのある女優、文士、医師、教員、それらの家族たち、この地ではどちらかというと上の階級であり、一部はインテリでもある。ロシアの小説にはよくあるように、なやめる若者、ふさぎの虫というか、時代状況も反映してか何かたまっているというか鬱屈したところがある。
 
女優とその息子で文学志望の若者、文士、それに若い娘二人、ここらが主たる構図だが、第一幕はその人たちが次々に登城、関係性がなかなかわかりにくい。もっとも舞台をみていればもとへ戻ったり、書き物を繰ったりることもできないのであって、それは進行に身を任せながらということになる。
 
それでも第二幕の後半あたりから個々の台詞が長くなるからか(説明としてたっぷりにもなるからか)話の進展にのりやすくなり、第三幕から二年たった第四幕で、中心人物たちの思いのたけが一挙にこちらに向かってくる。このあたりはやはり読ませる。
 
娘の一人ニーナ、文士と一緒になるがわかれ、なんとか忍耐しながら女優として生き抜くという意外な歩み、最初から一目ぼれしてしまった女優の息子トレープレフ、終盤になってのこの組み合わせは、チェーホフなかなかだなと思わせる。

最後に出てくる自殺の報は、人間関係の構図の変遷で少しはやっぱりとはいえ、唐突と思ったが、これは演劇だからかもしれない。小説であればそこに至る思い、想念をいくらでも書けるけれど、演劇であればそうはいかない。見ているものに投げかけるということでいいのだろう。
でもテキスト全体はそう長くはないから、また読み返してもいい。劇なら何度でも見られるし。
 
ところで私の世代であれば「かもめ」で思い浮かぶのは世界で最初の女性宇宙飛行士テレシコワ(ソ連)のコールサインが「かもめ(チャイカ)」だったことで、、わたしはかもめ(ヤー チャイカ)は当時よく飛び交っていた。当時あの体制の国でもこれはなじみやすいものだったのだろう。




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