「陽だまりの樹」を極楽息子(大)と楽しんでいます。漫画は漫画ですが、間違いなく大人の鑑賞に堪えるもので、息子にもありきたりな小説を読ませるよりずっといいと思います。
読み切り、毎回解決型の展開が多い手塚作品では異例な長編であり、朽ちるに任された「陽だまりの樹」である徳川幕府の最後の支えとして激動の時代を駆け抜け、役目を終えて去って行った武士と医師を主人公に擁し、そして時代の波に飲み込まれた人、あるいは乗り越えた人たちを劇的に描いています。
主人公の手塚良庵(後に良仙を継ぐ)や緒方洪庵、山岡鉄舟、西郷隆盛といった実在の人物に加えて、伊武谷万二郎などの想像上の人物が大きな役割を果たしていますが、これは例えば吉川英治さんが言われるところの、「小説家としてのアプローチにより、単なる歴史学以上の真実に迫る」手法と同様のものと思われ、資料として残っていないだけで万二郎のような幕臣は間違いなくいたものと信じさせるだけのリアリティがあります。
もちろん漫画として読んで面白いことが前提ですから、海音寺潮五郎さんのような厳密な事実描写ではありえませんが、歴史小説の王道に沿った創作であり、手塚治虫さん自身のルーツを解き明かす意欲も感じられて、興味深く読ませて頂きました。