いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

日本共産党は著作権において消費者と対立する

2009年05月11日 | たまには意見表明
 家電大手のパナソニックと東芝が、新型DVDレコーダーにおいて著作権団体への補償金上納を拒否したとして話題になっています。文化庁の指導に表立って反対して見せたからですね。

 補償金は(決定的な技術的制約なしに)コピーができたアナログ放送を視聴者がコピーすることで発生する著作権者の損失を視聴者が補償するものです。視聴者が個別に著作権者に支払うのは煩雑なので、機器メーカーが代行して製品価格に上乗せしていたもので、著作権管理機能のあるデジタル放送しか受信できない製品なら、支払う筋合いはありません。視聴者としては、メーカーの言い分がごく当然だと思います。

 話を混乱させたのは文化庁です。アナログであれデジタルであれ、DVDレコーダーなら補償金を支払う義務がある、と辻褄の合わないことを言い出したからです。補償金の受益者である著作権団体が、いわば法廷戦術の一環として過剰な要求を出すのには慣れてしまいましたが、監督官庁までが「損失」とか「受益」をいい加減に解釈していいはずがありません。企業が監督官庁の指導を無視することは一般に歓迎されないでしょうが、掲示板やブログなどを見る限り今度ばかりはパナソニックと東芝に支持が集まっています。

 両社が著作権団体に通告したのは先月らしいので、しばらく話題になっていなかったのですが、5月8日の衆議院文部科学省委員会において日本共産党の副委員長、石井郁子議員が質問し、それに文化庁が答弁したことから広く知られるようになったものです。共産党はこれを「業績」として宣伝したいように見えますが、意図に反してこれは同党の失点になると予想されます。一般視聴者の意見を無視し、著作物の流通を通した経済活動を麻痺させる「関所ビジネス」を維持する文化庁の「業者行政」にまともに加担した質問であるからです。文化庁の役人は共産党に足を向けて寝られませんね。

 石井郁子議員は教育畑の出身であり、それも現場を知る教員ではなく、教育史の研究者であったようです。比例代表区で当選するまでは大阪教育大学の職員だったので、ずっと上級の公務員として生活してきたわけですね。こんなノーメンクラツーラみたいな人が、庶民や企業がどのように苦労して収入を得ているのか、考えたことがなくても無理はありません。5月8日の質問を見ても、この人の頭の中には「大儲けしている大企業とその犠牲になる芸術家」という構図しかないようです。庶民に喜ばれる製品を少しでも安く提供することで成り立っているメーカーと、既得権を振りかざして「関所ビジネス」を拡大させ経済を閉塞に追いやっている著作権団体のどちらが国民の幸福に役立っているのでしょう?

 2008年度の東芝は売上高こそ6兆6,545億円と大きいものの、前年比13%もの減少。3436億円の巨額損失を計上しました。生活者としてのまともな実感があれば、世界同時不況が進行する中、同社が市況の悪化のみならず文化庁の業者行政や近視眼的な規制にも妨げられて売り上げの回復がならず、閉塞した状況の中で喘いでいるのが容易に推察できるでしょうに。同期に著作権団体の代表格であるJASRACが得た著作権使用料は過去最大の1156億円。企業である東芝と社団法人であるJASRACの規模を比較することは難しいですが、雇用している人数が何桁も違うことぐらいはわかるでしょう。東芝のような大企業が収益を上げられなくなれば、取引先も含めて何十万という雇用が失われるのです。

 これでも「大儲けしている大企業とその犠牲になる芸術家」ですか?そもそも石井議員が恩恵を与えようとしている著作権団体の主体は著作物を流通させる企業であり、著作者とは区別されるべきです。著作権団体が潤っても著作者には正当な還元がなされにくいことは、テレビ局の下請でも調べてみればすぐにわかることです。

 石井議員が著作権法を専門に研究した形跡はもちろんありません。それどころか著作権の延長に加担した過去があるようです。著作権の極端な延長が創作意欲を刺激することはほとんどなく、アメリカでの著作権延長も失敗だったというポール・ヒールド(ジョージア大学)教授の実証があり、日本においても著作権延長にはマイナス面の方が大きいと予想されるのです。このような実証研究にきちんと反論できない限り、感情論で著作権を弄ぶべきではありません。

 石井議員が業績としているこれまでの著作権に関する活動は、少なくとも建前として日本共産党が守るべき大衆の利益を損なってきた可能性が高いのです。共産党の議員が特定の企業集団のロビーストを勤めているとは考えにくいので、一応は善意から出た行動なのでしょうね。しかしこれ以上素人考えで文化庁の片棒を担ぎ、消費者の利益を毀損することは許されません。

 異論が認められない共産党の性格を考慮し、また党副委員長という立場も考えると、今のところは石井議員の見解が共産党の公式見解であると解釈せざるを得ませんね。「日本共産党は著作権において専門家の実証研究を無視し、経済にも法律にも無知な副委員長の活動により消費者と対立する」と結論します。「蟹工船」がよく売れたなどと喜んでいる日本共産党のお偉方は、今度のパナソニックと東芝の意思表明について「造反有理」というキャッチフレーズを思い出してみたらどうでしょうか。
コメント (2)
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