いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

迅速ベーコン(野宿ツーリングと病理学の接点)

2009年01月23日 | 極楽日記

 白川郷で頂いたベーコンが淡白で物足りない思いが残りましたので、久々に自分で作ってみました。本来は豚肉を塩漬けにする下ごしらえに時間が掛かるのですが、食欲が先行して週末まで待てなかったため、野外料理で有名な太田潤さんのレシピを参考にして、ウーロン茶(実際はプーアール茶でした)で煮たものを醤油と味醂に漬け、次の夜にスモーカーに入れました。太田さんはバイクツーリングの月刊誌「アウトライダー」で長らく連載をしていたカメラマンで、野宿ツーリングの料理を実践するうちにアウトドアクッキングの紹介者として評価を得た人です。当時の読者には「イタチョー太田さん」で通じると思います。

 だからアウトドアクッキングとは言っても、アメリカのバーベキュー王として有名なSteve Raichlenみたいなフル装備のアウトドアではなく、もっと手軽な料理が主体です。今回は太田さんの本に、ウーロン茶で煮た豚肉を醤油と味醂で味付けして網焼きするレシピがあったので、網焼きの代わりにリンゴのチップで燻製にしたものです。

 ある種の肉類の料理では塩漬けの過程がとても重要です。ベーコンやハムでは塩漬けあるいはピクリング液に漬ける工程でスモークとの相性がずっと良くなりますし、日本料理でも酢と塩で「しめる」技法は欠かせません。

 これらと共通するのが、生体の組織を採取して顕微鏡標本を作る際の「固定」です。普通はホルマリン液に組織を漬け込み、組織を構成するタンパク質や脂肪に一種の変性を起こさせて、その先の染色との馴染みを良くする作業をさします。固定がまともにできていない標本では、組織に過度の収縮や構造破壊が生じ、染色状態も悪くなるので診断精度が著しく低くなってしまうのです。この辺の「適度にタンパク質を変性させて料理しやすくする」原理は料理も標本作りも共通するものがあり面白いです。

 ホルマリン液は少しずつ組織に浸透しますので、普通に標本作りをすると数日は掛かってしまいます。どうしても急ぎの標本が欲しい時は、組織を特殊な樹脂に詰めて、ドライアイスや液体窒素で急速固定してしまうのですね。ホルマリンのゆっくり固定に比べると品質が落ちることは多いですが、手術中の迅速検査などでは欠かせない技法です。今回のベーコンもどきは、この迅速検査のようなものでしょうか。

 味は元の肉質でかなり決まってしまうので、今回は近くのディスカウントスーパーで買ったため評価保留とします。ただ塩をほとんど使っていないので塩分を気にする人にはいいでしょうね。塩が旨味を引き出すという点からは、味に物足りなさがあるのは仕方ないと思いますが。また、最初に煮てしまうためスモークできれいに発色しません。それでも本物のスモークですから(肉の味はともかく)風味は感じられ、手軽に焼いたりシチューに放り込んだりして食べるのにはこれでもかなり使えます。
コメント
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