いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

冬休みの読書

2009年01月08日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 長久手町中央図書館で借りて極楽息子(大)に読んでやった本です。図書館に連れて行っても、好きにさせておくと図鑑ばかり借りるので、少しは物語も読ませないと。動物の話なら聞いてくれるかと思ったので、どちらも動物が登場します。

 「カブトエビの寒い夏」は読んでいると平成5年の米騒動が思い出されます。そうそう、国産の米が不足して、タイの米を緊急輸入したものの食味に不満が集まり、ゴミ捨て場にせっかく輸入した米が捨ててあった、というニュースを覚えています。

 そんな年には誰でも少しは米作りのことを考えますよね。この騒動を通じて、家業の米作りを見直していく主人公と兄の話に、子供が興味を持ちそうなカブトエビの話題を絡めてあります。ストーリーはありきたり、と言うか作為的(出版社が農文協です)なのですが、このようなスパイスの利かせ方が上手で文章も練れているため、子供に読んでやっても退屈しません。2回読むとプロパガンダの臭いが気になるでしょうから、図書館で借りて読むのがいいと思います。

 「ぼくのそり犬ブエノ」は有名なムツゴロウこと畑正憲さん。この人は小説家と言うよりは多数のエッセイと対談、バラエティーなどが仕事の中心ですね。題材は面白いと思うんですが、朗読していると継ぎ合わせて作ったような繋がりの悪さを感じて、物語の魅力をうまく息子に伝えられないんです。かと思うと、文章に抑揚のないまま場面が変わっていたりして、とにかく朗読向きじゃない。

 低学年向きのやたら簡単な文章と、子供にはわかりにくいエピソードが入り混じっていて、息子がなかなか没入できませんでした。例えば、暴力団がなぜライ君を誘拐しようとするのかは(インプラントが何か、も含めて)もうちょっと説明が必要だと思うし、リュウおじさんを罵倒して馬を「くれてやる」のが何で結婚の後押しをすることになるのかは大人でも理解困難です。

 こんな閉鎖的な田舎町で、突然別世界から来たようなリュウおじさんやマリアンナと町の人が簡単に折り合うはずもなく、その困難の末の融和を描くことも重要でリアリティーがあると思うのですが、なぜかそこはあっさり。それに、大人の背中がよく見えるはずの大自然の中で、登場する大人がさっぱり魅力的に見えないのは意図したことでしょうか?ネットで検索してみると、畑さんは戦争体験による少年時代からの抜きがたい人間不信を引きずっている人だそうですが、そうした人格の「冷え」が、小説でも動物に対するほどの愛情を人物に注げない原因かもしれません。

 この本は違う日に作った段落を集めただけみたいな印象があり、あまり全体を通した推敲がなされていないように思います。エッセイ集ならこれでもいいのでしょうが、小説としての完成度には疑問を持ちました。ムツゴロウ先生、少し楽をしすぎでは?
コメント (2)
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