いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

男の鍋(あるいは海軍魂)

2007年04月27日 | 比べてみよう

 アウトドア料理も日本に根付いたのか、暖かくなってくると新聞や一般雑誌にもバーベキューなどの特集が見られます。でも、気軽に庭でバーベキューやオーブン料理が楽しめる田舎と違い、都会に住む人の多くはまず場所から探さないといけませんので、十分な経験を積むことは難しいでしょうね。

 日頃バーベキューをやらないから、ぶっつけ本番で川原に出掛けて丸焦げや生焼けのバーベキューを作り、まあこんなものかと思う。そんな例をしばしば見るのは残念です。経験が積めないものだから、本当にいい道具もわからず、スーパーやホームセンターにはただ安いだけで使いにくい簡易グリルが毎年並ぶのです。

 道具選びにはベテランの意見を参考にしましょう。日本バーベキュー協会でも、アメリカ製の蓋付きグリルを推奨していますし、ウェーバーのグリルも全部蓋付きです。スーパーさんも、もっといい道具を入れましょう。「アウトドア料理はおいしい」ことが認知されないと、道具も食材も売れませんよ。

 さて、アウトドア料理を楽しむ人の中で、上級者用の道具として認知されているものがあります。ダッチオーブンですね。これが使えればアウトドアの達人!などと扇動調の記事も見ます。ダッチオーブンは基本的には鋳鉄製の厚い鍋で、非常に重いので、クルマが使えないとまず運搬できません。だからアウトドアの達人とは言っても、登山家や探検家のことじゃなくてアウトドア料理の達人ということでしょう。

 確かに、あの重い鍋は男性向きですから、パパが使いこなせれば家族から一目置かれるでしょうね。お洒落な外観で人気のあるル・クルーゼのココットも、実は非常に重いのでパパが扱った方が無理がありません。週末の「男の料理」にはお薦めです。これも応用範囲が広いので、使いこなせれば拍手喝采が期待できます。でも、今日は「ダッチオーブンやル・クルーゼのココット並みに自慢できる日本の鍋」のことを書こうと思います。

 極楽妻の実家である豊川のカーマホームセンターに行くと、大きな古ぼけた鍋の看板が目に付きます。古臭い形の鍋だなあ、ふーん。と通り過ぎるだけだったのですが、ネットでル・クルーゼを探していると、鍋専門店のサイトにどこかで見たような鍋が。あれ、中尾工業って、聞き覚えがあるぞ。もしかして豊川の会社かな。

 まさしくその豊川の中尾工業でした。そのサイトの鍋を見てみると、ずいぶん値段が高い。何だこれはと思ったら、金色に輝く砲金(ほうきん)の鍋でした。砲金!戦時中に大砲の鋳造に使った合金で、精密な鋳造が必要な製品にだけ使われる、高価なものです。主成分は銅。世界的に銅の相場が上がっているので、砲金もずいぶん値上がりしているでしょうね。そんな贅沢な鍋があったとは。

 「天ぷら専門店、一流料亭などで使用される」と書いてありますから、なるほど私が見たことはなかったはずです。元々、この会社がある辺りは室町時代、江戸時代から鋳物を作る職人が多く住んでおり、金物を作る町だから「金屋」と名付けられたようです。その後、ここに海軍の兵器を製造する海軍工廠が建設され、「東洋一の海軍工廠」と呼ばれるようにまでなったのは、室町時代からの伝統と無縁ではないでしょう。

 当然、海軍工廠で作られたのは砲金製の大砲です。殺人兵器と言われればそれまでですが、豊川の鋳造技術が世界でも有数の実力を誇った帝国海軍の火力を支えていたのです。大砲を鋳造した技術者が、戦後何をしたかと言うと…!

 ここで世界でも稀な砲金製の鍋と、戦艦の大砲がぴったり繋がるじゃありませんか!中尾工業の砲金鍋には、大砲の鋳造技術が生きているに違いありません。恐らくは、そのスピリットも。あの戦争を遂行したことに合理的な判断がなかったことは措くとして、製品には最高の物を作ってやろうという職人魂(海軍魂か?)が込められているような気がします。これは天ぷら屋や一流料亭に独占させておくのは惜しいぞ。

 アウトドアや週末料理で家族を喜ばせてやろうと思案中のご同輩、この砲金鍋こそ男の業物(わざもの)だと思いませんか?その歴史の重みを背負って愛用するなら、特徴ある金色の光に加えて、職人の魂が後光を放つに違いありません。少なくとも、「親の代から使い込んだダッチオーブン」や「日本刀の刀匠が鍛えたアウトドアナイフ」と同じ位は自慢できそうです。
コメント
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