
極楽息子(大)を本の好きな子に、ということで目標となったのがこの「100冊読書日記」です。私はこんな本の存在を知りませんでしたし、この手の「100大XX」なるリストの信憑性も問題だと思っているのですが、極楽妻の教育熱にはアピールしたようです。
この本で取り上げられている100冊はどれも代表的な児童書であり、リストがまるで駄目だというわけではありません。ただし、一人の作者からは原則として一冊しか取り上げていないとか、民話などのように作者がはっきりしないものの多くが除外されていること、比較的新しい出版のものが多いことなど、所詮は販売促進のためのリストか、と思わせるところもあります。また、児童書で存在感の大きな全集物を除外してるのは無視できない欠点です。
私は児童書に詳しいわけではありませんが、恐らく専門家が見れば、出版社も大手に偏っている可能性があります。だから、「これさえ読んでおけばいい」というリストでないことは念頭に置くべきです。それに、100冊完読そのものが目的ではないのですから、1冊1冊をじっくりと味わって読むべきです。100冊全部ではなくてもいいですから、自分の気に入った作品だけでも繰り返し読んで感想を持つべきでしょう。「100冊」を消化することばかりに捕らわれると、「100名山を巡ることだけが目的のツアー客」みたいに本質を見失います。
それでもこのようなリストが便利なのは、独力で選んでいると漏れてしまうような作品が網羅できるからです。親の立場で本を選んでしまうと、ついつい自分が読んだことのあるものばかり選びがちですから。

100冊リストよりまず「こねこのピッチ」。子供にはわかりにくいでしょうが、テーマは「自我」です。他の子猫と同じように成長することに抵抗のあったピッチが、外の世界を垣間見て傷付き、みんなの愛情で自分の帰るべき場所を知るお話です。意味はわからなくても、ピッチの気持ちを想像してみることが大切です。いい本だと思います。

「こぎつねコンとこだぬきポン」。ストーリーは悪くないですが、かなり長く、台詞のやり取りが未整理のためちょっと読み辛いです。しかも途中でキャラクターの入れ替わりがあるため、読み聞かせていても、読んでいるのが誰の台詞なのかわからなくなりました。もっと主語を明示するとか、口調に変化をつけるとか、キャラクターの個性を際立たせるとかの工夫が欲しいところです。
「ともだち」をいろんな面から描いた作品なら、「きかんしゃトーマス」シリーズがあるじゃないですか。子供も喜ぶし、多くの点でこの絵本より出来がいいと思います。

「王さまと九人のきょうだい」。中国の少数民族に伝わる民話で、話によって兄弟が3人だったり10人だったり変化がありますが、つまり異能を持った兄弟が悪い王様を撃退するストーリーに変わりはありません。中国の圧制に苦しめられていた少数民族の願望がコミカルな形で表されています。
この「九人きょうだい」では情報係の千里眼や早耳がいないので、王様の繰り出す新手に次々に手を変え品を変え立ち向かう兄弟の臨機応変ぶりに説得力が乏しくなっています。10人兄弟の方が完成度が高いのでお薦め。ただし単行本にはなっていませんので、全集のコンテンツとして読む必要があります。
こうした類似の民話を集めている人もいて、このモチーフが世界中にあったことがわかります。中でも1972年に太平出版社から出された「
八兄弟」のアナーキーなまでの面白さは一読の価値ありです。紹介して下さったすわさきさん、ありがとうございます。