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いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

ナニワ金融道

2015年08月27日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 今更ですけど、初めてまとめ読みしました。やっぱり面白いです。一番の魅力は、青木さんの人間観察の鋭さでしょうね。主要キャラクターが、それぞれスピンアウトしても物語になるぐらい書き込めてます。実際に青木さん死後にキャラクターを使い回した物が出ていて、無料で読めるものもあります。成功したキャラクターは、原作者の意図を超えて生き続けるという格好の見本だと思います。
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盛りつけの教科書

2015年08月26日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 盛りつけだけの本がある、というので思わず買ってしまいました。ただし自分で盛りつけをする参考にすることはないでしょう。外食の時などに、きれいに盛りつけられていても知識不足で評価できなかったので、何も知らないのはちょっと申し訳ないかなあ、と思ったものですから。




















超一流のプロが教える盛りつけの教科書
クリエーター情報なし
東京書店

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間違いだらけのクルマ選び2013年

2015年05月11日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 古本屋でつい手に取ってしまった2013年版。20年ほど前は毎年楽しみにしていましたけど、クルマ以外に真面目に取り組むことが多くなって、あっさり手を引いてから10年以上。買って読むのは本当に久しぶりです。徳大寺さんも去年の秋に亡くなられたので、今は島下さんが継いでいます。こういう著者の交代は、長く版を重ねる医学書などではよく見られることなのですが、一般の方は慣れていないためか、Amazonで最新版の評判を見ると読者の反応は厳しいようです。読んでみた感じでは、島下さんがそう悪いとも思えませんが。

 この「間違いだらけ」シリーズは、主に国産車に対する徳大寺さんの立場をざっと概観するには便利で、今のネット環境に比べれば情報量は限られているものの、クルマ好きにとってはいい暇つぶしのネタだったんです。クルマを文化的に見るのはこの本の専売特許じゃなくて、カーグラフィックが先にやっていたこと。ただしあれを1年分通読するのは大変で、持ち歩きも難しいですから、この本で手軽に楽しんでた人が多いのだと思います。往年のみのもんたの番組がそうだったように、とりあえず各車の評点がすぐわかる、つまり次に買うクルマをどれにしようか意見をしてくれる安直さも人気が出た理由でしょうね。

 この評点はそれこそ話半分に見ておくべきもので、ある車種の評価が次の年度には大きく変わることがあります。また徳大寺さんの評価基準が自分の基準や環境と同じとは限りません。例えば徳大寺さんは子供のいない人だったのでミニバンへの評価は厳しく、近年のミニバン需要の増加を捉えていなかったように思います。小型車の基準となったのはVWゴルフで、最初の版では「日本車の10年先を行く」などと平気で書いていました。デザインや走行性ではそうかも知れませんが、反面VW車の低速燃費や製造品質管理、維持コスト、静粛性などは長らく日本車を下回っていた部分です。極楽家でもヴェントVR6(ゴルフIIIのセダン)を所有していたのでこれは確信を持っています。

 徳大寺さんのファンはけっこう多かったので、車を買う際の参考にした人は多いと思います。ただし何十年間にも渡ってこの本などで批判され続けたにも関わらず、最大手のトヨタはこういう外部の評論家の意見をほとんど採用した形跡がありません。トヨタの徹底した顧客調査からくるクルマ作りの自信は、それはそれでびくともしないもので、クルマ好きをターゲットにした本やサイトでは酷評されながらも、クルマにさして興味のない絶対多数の人に向けてクルマを作り続け、ついに生産台数世界一を勝ち取った実績は認めざるを得ません。所詮、クルマを趣味にできるほど多くの日本人が豊かでなかったということなんでしょう。

 こっちはサライの旅行特集。高級料理旅館への旅などそう簡単に行けませんが、写真がきれいなので疑似体験になっているのかも。
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連休の料理本

2015年05月08日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 今年の連休は鯉幟も出さず、旅行へも行かずでのんびりしていました。料理本をまとめて買ったので自分用の覚え書きなど。これは第1巻の「15分でつくる編」の続編で「ゆっくりつくる編」だそうです。鶏の丸煮みたいな、いかにも時間と手を掛けました、というレシピは見た目も迫力十分で、時間のある休日向きですね。

 同じ著者が別のシリーズで出しているルクルーゼ本。これは和食です。上の「天然生活ブックス」に比べると写真があまりおいしそうに見えないのが難点ですが、レシピには使えそうなのがいくつかありました。

 これは洋食編になるんでしょうか。出版社の違う2シリーズがあると、ダブっているレシピもあるのでしょうが、平野さんはルクルーゼの特性をじっくり研究した上で書いているらしく、レシピもよく考えられたものだと思います。例えば、オニオングラタンスープを作るのにネギで代用すれば、水分が少ないので時間が短縮できるとか、試してみたいノウハウがいくつもあって実用的です。

 こちらはまた、ある種の達人のレシピ集。「ためしてガッテン!」とかに出てくるような、あっと言わせる合理的な料理が満載。

 最後はちょっと地味に麹料理の本。
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日経サイエンス 破局噴火特集

2015年03月10日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 以前、同誌でスーバーボルケーノ特集というのがあったはずですが、今度は破局噴火という造語が使われています。最近は川内原発再稼動との関連で注目されているようですが、実際は破局噴火に分類される巨大噴火の場合、それだけで人類の生存が脅かされるほどの破壊や気候変動が起こりうるため、相対的に原発の問題は小さくなります。破局噴火と原発事故は、その規模も確率もまるで異なる問題なので、一緒くたにせず別の危険として対応するべきです。

 火山列島と言われる日本ですが、破局噴火レベルの噴火は北海道と九州に集中しています。こうした局在の理由は以下の通り。噴火が起き易いスポットには寿命があります。プレートテクトニクス説により地殻が大規模な移動と生成、潜り込み(消失)を継続していることが説明されています。日本列島付近では地殻が潜り込むことで、この地殻成分がマントル層から熱エネルギーを受けて溶解し、マグマの泡(と言っても火山地帯の熱源になるほど大きい)となって上昇して、表面にある地殻の下から岩盤を溶かして削り、薄くなった地殻の直下に位置している間に噴火活動が起きるみたいです。このマグマの泡が冷えてエネルギーを失えば、活動性も低下します。

 日本列島における破局噴火の確率は1万年に1回。この数千年は起きてないので、かなりエネルギーが溜まっていると予想されています。恐らく今度も北海道か九州なのでしょうが、その規模や予兆については不明。規模によっては九州どころか関西まで壊滅的なダメージを受けます。ここまで大きな災害だと、人類史上にないような広域非難が必要になり、それだけで国の機能は麻痺します。そもそも予兆があったとして、数週間で数千万人を避難させるのは物理的にまず無理だし、財政的にも不可能でしょう。次の破局噴火ができるだけ人里離れたところで起きて欲しい、規模もあまり大きくならないで欲しい、と願うしかありません。
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ドラゴンの本

2015年01月21日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 気が付いたら、親子で同じような本を読んでいました。西洋人の冒険物語では一番好まれる題材ですから。

 Temeraireシリーズ第3巻では、中国で形式上ですが皇帝の養子になってしまったLawrence一行は、皇帝の座を狙う陰謀から辛うじて逃れます。陰謀の首謀者だった王子は死に、王子に仕えていた白龍も追放となるのですが、その折にイギリスまで取って返す危急の用件が発生し、一行は困難だが日程を短縮できるシルクロード経由でヨーロッパを目指します。その困難な旅の途上、宿敵ナポレオンのドラゴン部隊にあの白龍が加わり未曾有の脅威となる可能性が浮上。最早一刻の猶予もならない事態なのに、トルコと対立することになり…。
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海の戦記 特攻 戦艦大和

2014年10月16日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 中学生の頃に愛読していた秋田書店の太平洋戦争シリーズ、「大和と武蔵」の同じ著者による「特攻 戦艦大和」です。吉田俊雄元海軍中佐は軍令部に勤務していた人なので、どちらかと言えば軍を統帥する視点から戦争を捉えていた役職だと思います。しかし作家としては現場の聞き取りなどを重視して、乗組員の多数を占め、海戦の実際の主役である下士官に注目して戦艦大和の物語を描いています。米軍の分析でも、当時の日本軍において下士官クラスは極めて優秀であり、次が兵、駄目なのは上の人だと言われていました。艦隊には本来なら下士官の下に多くの新兵もいたのですが、特攻ということで艦を降ろされていたのでした。

 連合艦隊最後の組織的な行動である沖縄特攻は、圧倒的な制空権、制海権を持つ米海軍相手に、護衛機、空母なしの艦隊を白昼堂々、直線的に突っ込ませるという無謀の極みであって、「生還を期さず」どころか「生還できるわけがない」ぐらいの愚行であったようです。吉田さんによれば、あの戦力なら少なくとも沖縄到達は不可能ではなかったとのことです。当時は軍用機でも夜間の作戦は困難です。米軍にはレーダーがあるとは言え、悪天候で敵を捕捉するのは難しく、天候の状況を見ながら、夜陰に紛れて沖縄に到達することは可能であろうと判断しています。鹿児島から沖縄までは600kmちょっとで、カモフラージュで大回りしたところで燃料の問題はなく(沖縄特攻で片道燃料しか積んでいないという俗説は、燃料補給の記録で否定されています)、沖縄で座礁させて砲台として最後の奮闘をすることができたでしょう。

 もちろん、大和が沖縄に到達したところで戦況は既に決しており、海軍が特攻による全艦隊散華の道を選択したのも当時としては理解できる話です。しかしそれで命を弄ばれる乗組員には堪ったものではありません。吉田さんも「これが特攻だということはわかっていたから、どれだけ新兵や転任者と一緒に艦を降りたい人がいただろう。」と書きます。海の藻屑と消えた方々にも大事な家族があり、故郷があったはずなのですから。せめて戦没者の無念を慮り、貴重な記録を長く留めたいものと思います。
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海の戦記2 海空戦 <空母瑞鶴>

2014年07月25日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 海の戦記シリーズの空母瑞鶴(ずいかく)。3巻の不沈<戦艦長門>では部外者のレポートみたいな戦記にずっこけましたが、今度は入念な取材による本物の戦記です。ロンドン軍縮条約により保有艦艇の総量を厳しく制限された日本海軍は、自家技術の開発による海軍力整備を望み、初期の艦艇をイギリスなどに発注した後、それをコピーすることで驚くほど短期で軍艦造船のノウハウを吸収しました。主体になったのは川崎造船などの民間企業ですが、海軍が上、民間は下という意識が強く、海軍からの指示による場当たり的な設計変更や期限短縮が頻発する中、一線の技術者たちは夜を日に継いで文字通りの滅私の精神でこれに応え、かくして最新、最強の空母である翔鶴と瑞鶴が完成したのです。

 急ぎに急いだ実戦投入は真珠湾の奇襲で大戦果を挙げることに繋がりますが、当初は分の良かった海空戦も、熟練した乗組員の損耗により次第に優位性を失い、やがてアメリカ側の技術革新と圧倒的な物量投入により形勢は逆転します。昭和19年秋にはまともな海空戦をこなすだけの飛行機もなく、待ち構えるアメリカ軍の機動部隊により度重なる攻撃を受け、歴戦の瑞鶴もついにエンガノ岬沖に没します。

 この頃にはアメリカ海軍は日本の制空権がないことを見抜いており、戦争初期のようにお互いに攻撃隊を繰り出して艦船を索敵、攻撃し合う戦法を廃していました。圧倒的に優位なレーダーによる索敵で日本の攻撃隊の接近が丸見えだったため、強力なグラマンF6F戦闘機を機動部隊上空に待機させてこれを迎撃し、何とかこれを掻い潜った少数の攻撃機は、新開発のVT信管を装備した対空火器でほぼ完全に殲滅することが可能だったからです。飛行機を失って丸裸になった日本の機動部隊はアメリカ攻撃隊の餌食であり、艦船相互の距離を取って同時に沈められないようにするぐらいしか手がなかったようです。最初から日本の敗北も兵員の戦死も見えている惨めな戦いでした。

 海空戦では艦船を攻撃する爆撃機と、より威力の大きい魚雷を搭載する雷撃機、両者を護衛する戦闘機、そして敵機の攻撃から艦船を守る対空火器が入り乱れての戦いとなります。軽快な戦闘機と違って爆撃機は動きが鈍く、重い雷撃機は更に鈍重なため、味方の戦闘機隊なしでは容易に撃墜されてしまいます。戦闘機と熟練した乗員の不足が顕在化するにつれて、日本側爆撃機と雷撃機の未帰還率(ほとんどが撃墜による戦死)は100%近くなり、空母も沈められたため、この時点で戦争の続行は事実上不可能でした。

 機動部隊を失った後の日本は最悪の手段である特攻を採用し、前途有為の若者を次々に失って得た代償と言えば、全面降伏を1年近く遅らせただけ。為政者の判断の誤りが、最も貴重な国民の生命を失わせたわけです。太平洋戦争の戦記の多くが、二度と戻らなかった多くの若者への鎮魂の意味を持つのは当然のことです。物言わずに戦場に散った人たちの声が少しでも伝わって欲しい、という作者の悲痛な思いが時を越えて伝わります。
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海の戦記3 不沈<戦艦長門>

2014年07月16日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 中学生の頃に秋田書店などから出されていた戦記を好んで読んでおりまして、最近になって極楽息子(大)が坂井三郎空戦記などを読んでいるのに触発されて、「海の戦記」シリーズ5冊をまとめ買いしました。最初は長門からです。なぜ3巻からかと言えば、1巻である吉田俊雄さんの大和は子供用の本で読んだことがあるので、馴染みのない本から始めようと思ったからです。

 作者の今官一(こんかんいち)さんはネットの情報によれば太宰治と親交の深かった東北出身の作家。1956年に「壁の花」で直木賞を受賞しています。どちらかと言えば純文学系の人なので、直木賞受賞作としてはやや異色だと評されていました。若い頃から文学活動に没頭しており、クリスチャンとして聖書に通じ、35歳になってから召集されて補充兵として戦地へ、という異色の経歴の兵で、本書も戦記らしくない戦記です。

 著者が何度も言い訳しているように、兵員としては未熟でろくに戦力にならないような老兵(他の兵と比較して)が、戦争の全体像も見えないまま右往左往して、いつの間にか死地を潜り抜けて帰還した記録と言ったらいいでしょうか。もちろん自ら記録したノートを題材にしているのですが、何せ従軍経験が1年しかない人です。1回の出撃によるノートが穴だらけだとしても、経験のある軍人なら「見てないけど左舷の敵はここから接近して、こういう戦闘だったに違いない」と埋められるものを、繕いようがないのですね。小説なら面白く書いてしまえばいいのですが、戦記ではそうはいかない。事実の圧倒的な重みこそ記録文学の魅力なのですから。

 穴だらけの記録を戦記として纏め上げるにはかなりの取材が必要なのでしょうが、官さんはこの面がかなり淡白で、悪く言えば最初から放棄しているような印象があります。肝心な部分は他の本からの丸々の抜書きが多く、しかも同じ「海の戦記」シリーズからの抜書きが多いのはちょっと問題でしょう。一緒に読んでいる読者が多いのですから。残念ながらこの引用というには丸パクリの部分がなければ、戦場の緊迫感がほとんど伝わらない気がします。こんな人に戦記書かせちゃ駄目でしょう。

 兵士としては高齢でろくに訓練も受けずに最前線に配属され、周りの古参兵は使えない補充兵など相手にせずに死力を尽くして戦い、そして次々に死んで行く。目の前で戦闘が行われているにもかかわらず本人にとっては遠い戦争だった感じがなきにしもあらずで、今さんがやり場のない疎外感を抱いて戦闘に臨んでいるのがうかがわれます。

 今さんの文章も純文学にはいいんでしょうが、戦記として歯切れが悪く、記録の不備や軍人になり切れない自分に対する言い訳ばかりが目立ち、軍人らしい一種の高揚感や戦友あるいは軍艦との連帯感がほとんどないんですね。対極的に後日談では急に文章が生き生きとしてくるのですが、今度は戦争と関係のない文化人との交流の話になって、この1冊を戦記と呼ぶにはかなり抵抗を持ちました。文字通りの戦記が読みたい人にはお薦めしません。
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手塚治虫「ブッダ」

2014年06月13日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 手塚治虫入魂の長編です。もちろん主人公はブッダである釈尊なのですが、ブッダ自身の悟りに至る道とか、悟ってからの教義とかは真面目に扱うと難しすぎるためさらりと扱って、ブッダを映し出す鏡である弟子たちの様々な苦悩や煩悩、解脱をうまく取り上げて描いています。これは映画でもオーソドックスな手法だと思います。例えばイエス・キリストが主役の映画でも、イエスその人よりも周りに光を当てることで、ドラマの中では消化しにくい教義の実例を、いわば等身大で視聴者に図示することができます。手塚さんは映画から大きな影響を受けた人なので、コミックでブッダを描くためには間接法をうまく使うのがいいと考えたのでしょう。成功していると思います。

 例えばルー・ウォレスの小説「ベン・ハー」は2回の映画化でいずれも大成功を収めましたが、副題に「キリストの物語」とあるように描きたかったのはキリストの迫害と復活です。それを直接的に描くのではなく、生身の人間であるベン・ハーを通すことで、当時の民衆の苦難や救いを求める気持ち、キリストによる救済がより実感されるわけです。手塚さんのブッダではストーリーがより複線的であり、ブッダを取り巻く人々にそれぞれ魅力的なキャラクターを持たせることで飽きさせない展開を実現しました。

 反対の例が、宗教映画では萬屋錦之介の「日蓮」かな。日蓮本人を正面から描こうとしすぎて、却って悟りに至るまでの道筋がわかりにくくなってしまった印象が強いです。日蓮宗のバックアップを受けたいわば公式映画なので、肩に力が入ってしまった感があり、例えば日蓮が両親を説得して、自分こそが国家の柱とならねばならないことを理解させるシーンがあるのですが、恐らくは最も困難で意義深かったであろうその説法を描くことが不可能だったのか、中身をほとんど省略。奇跡そのものを直に描こうとする試みは失敗するものです。これなら間接的にその教えの素晴らしさを示した方がいいでしょう。この肝心の説法がないために、錦之介の力みぶりもあって、その後の日蓮の強引な布教ぶりに納得できなくなってしまいました。一般の視聴者は教義の内容までよく知らないのですから、悟りに至る道をもう少し丁寧に描いてくれないと、あれでは日蓮がデマゴーグの怪僧に見えかねません。実際に当初は幕府からそのように受け止められたのですね。

 ブッダを巡るエピソードはたくさんあり、伝奇的なものや不確かなもの、後世の作り話もあって、その取捨選択には手塚さんも苦労したようです。連載時や初期の単行本で採用された野ブタの話などサイドストーリーのいくつかは手塚さん本人の判断でばっさり切られています。またブッダの重要な弟子(十大弟子と言われる)もほんの数人に絞られ、役柄も大胆に変えられています。ですから資料としての価値は決して高くないのですが、単行本化されてからも推敲を重ねた甲斐があって、物語としては大いに楽しめるものになりました。この文庫版では各巻末に有名人による書評があるのが特徴なのですが、第2巻の大沢在昌さんは的確な評価でさすがと思わせてくれる一方、本当に作品を読んで書いているのか、あるいは比較するべきほかの作品を見て書いているのか疑わしいものがかなりありました。特に某文豪のお孫さんのはかなり酷いですね。
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定番おかずの超基本

2014年06月04日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 NHK「ためしてガッテン」ではわかりやすい実験により、家庭でできる調理の改善が人気のあるテーマになっています。そのエッセンスがこの本。テレビのような実験部分の説明が端折られているので読み物としてはかなり物足りないですが、そこはテレビを見てくれということでしょう。本だけ見てもアンチョコとしては十分ですが、テレビを見てない人には「なぜそれでうまくいくの?」と疑問を持たれそうです。ネットの情報量が格段に増えたことで出版物が売れなくなり、ちょっとした新刊の値段がずいぶん高くなりました。この本は値段を抑えるために内容をかなり制限した結果なのでしょうね。
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鉄道員(ぽっぽや)

2014年01月27日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 今更ですが大ベストセラーの文庫版を読んでみました。しかし浅田さんは幽霊好きですね。短編集なので、続けて読むとちょっと食傷します。

 幽霊ネタで怖い話じゃなくて悲しい話を書いて泣かせた人としては「雨月物語」の上田秋成が名高いですが、浅田さんはその現代版と解釈すればいいんでしょうか。映画とかテレビドラマにはぴったりの原作という気がします。映画版はまだ見ていませんが、鉄道って、画面に出してるだけでも絵になりますし、映像ならではの特殊効果や演出は幽霊ものにぴったりですから、いい出来なんじゃないかと思います。最近、観光バスの中で見た三浦友和主演の「RAILWAYS2」も地味ながらまとまっていたので、鉄道が舞台の日本映画って定石のひとつですね。「鉄道員(ぽっぽや)」の映画版もいずれバスでお目に掛かると思います。
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CHMPIONS FOREVER

2014年01月23日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 ラテンアメリカ系中量級ボクサーの黄金時代のファイトをまとめてくれたお買い得DVD、と思って買ったのですが内容は貧弱。解説ばかり長くて肝心の記録映像の時間が短いし、代表的なファイトが収録されておらず期待外れ。デュランやチャベスなんてそんな昔の人じゃないのに、VHSからコピーしたようなぼけた画像しかないのはどうして?

 これなら動画サイトの方をお奨めします。どうしてもパッケージが欲しい人以外は手を出さないように。
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His Majesty's Dragon

2014年01月13日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 まとめ買いした洋書に入ってたCasino Royaleです。有名な007シリーズの第1作ですが、映画化は他の作品に遅れました。薄いしストーリーもギャンブル勝負とその後の誘拐ぐらいで割と単純ですが、カジノの公用語であるフランス語が多くて読むのに難儀しました。小説としてはちょっと物足りないですね。映画化が後回しになった理由もそこにあると思いますが、映像の力は大きいですから、カジノでの駆け引きとか贅を尽くした上流階級の散財振りとかを描けばそれなりの映画にはなるでしょう。

 この本の映画化は2回。ただし最初(1967年)は映画史上に残る怪作とされており、原作とほとんど関係のないストーリーで、デヴィッド・ニーブン、オーソン・ウェルズ、シャルル・ボワイエ、ウィリアム・ホールデンなどの超一流キャストをちりばめた、無駄に豪華なドタバタ。まともな映画化は2006年になってからなので、小説そのものも後期のものと思われがちですが、007の性格やアクションなども十分に描かれていない習作に近い作品です。

 ただ最初の作品ながらフレミングの嗜好であるカジノや高級車、豪華な食事、酒、タバコなどの描写は詳しくて、美食家、大酒呑みの快楽主義者だったフレミング本人が透けて見えます。作家としてのデビューが1953年、亡くなったのが1964年ですから11年間しか活動してないんですね。世界的な名声を得たことで贅沢に拍車がかかり、寿命を縮めた可能性があるのは皮肉なことです。

 こっちは大当たりのHis Majesty's Dragonであります。ドラゴン物には違いないのですが、偶然にドラゴンのパイロットになってしまった主人公ローレンスが実に好人物に描かれています。軍人として、また上流階級として自らを厳しく律する義務の念と、新たな職務に対する不安で板挟みになりながらも、固い絆で結ばれた理知的なドラゴンのテメレア、それから一癖ありながらそれぞれ仲間として尊重し合える空軍(もちろん飛行機じゃなくてドラゴンの)のメンバーと関わりながら人生を模索する若い士官の姿がとても魅力的。ドラマとして十分に読ませてくれます。英語も品があって読み甲斐がありますね。語彙が豊富なので辞書を引くのは大変ですが。

 これにナポレオン戦争当時の時代背景とか、政治の上での駆け引き、動物としてのドラゴンの生態などが絡まって、作者Naomi Novikの構成力の高さや知識、想像力が存分に発揮されています。好評で長編シリーズとなっているらしく、邦訳もされているのですが知名度は今ひとつ。ファンタジーとは言ってもハリー・ポッターなどと比べると大人の物語なので、日本では読者が限定されるのかもしれません。裏表紙の書評には「ジェイン・オースティンがパオリーニとダンジョンズ・アンド・ドラゴンズで遊んでいるような」とあるので、わかる人にはぴんと来るでしょう。オースティンはもちろん「高慢と偏見」などで名高い、ヴィクトリア朝以前で屈指の小説家。パオリーニは「エラゴン」などドラゴンライダーシリーズの作者。ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズはロールプレイングゲームの元祖で、元々はボードゲームですが、その後のPCやゲーム機におけるRPGの元祖。偉大な先達が築いてきた写実的長編小説や冒険物語の形式を受け継ぎ、違和感なく融合させた力量は賞賛されるべきものと思います。順番が逆になりますが、機会があれば「エラゴン」にも手を出してみたいです。

 年末の休みに読んでみた推理小説。情景描写が詳しくて、読んでいると京都に行ってみたくなります。作者の木谷さんは、若い頃に旅行ガイドブックの執筆や放送作家などいろいろやってた人らしいですが、55歳からの「旅情ミステリー」物が当たって人気作家に。肩の力が抜けた作風で、嫌味がなくさらっと読めるので大人の娯楽小説として上出来です。
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ニュートン7月号「生命とは何か」

2013年05月31日 | 極楽日記(読書、各種鑑賞)

 特集に惹かれて、30年ぶりぐらいにニュートンを買ってみました。教育社が出してた頃より薄くなった感じでちょっと寂しいです。創刊当時(1981年)からしばらくは科学雑誌ブームで、普通の本屋でも科学朝日とかポピュラーサイエンス、メカニックマガジン、クォークなどの学生向け科学雑誌や動物誌の「アニマ」などが売られていたものです。今残っているのはニュートンの他に、老舗の日経サイエンスや、子供向けの「子供の科学」ぐらいでしょうか。

 ニュートンは初代の編集長が、NHKのテレビでも有名な地球物理学者の竹内均先生だったこともあって、天体や地学関係に力を入れていたような気がするのですが、今は生命科学の方が注目されやすいのでしょうね。内容は理科系の人には物足りないですが、ヴィジュアルで楽しめるように編集されているので、極楽息子(大)にはちょうどいいでしょう。日経サイエンスを定期購読しているので、ニュートンは毎号というわけにはいきませんが、気になる特集があれば応援したいと思います。
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