アブソリュート・エゴ・レビュー

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Vilhelm Hammershoi 1864-1916

2006-01-19 19:57:49 | 
『Vilhelm Hammershoi 1864-1916: Danish Painter of Solitude and Light』 Vilhelm Hammershoi   ☆☆☆☆☆

 随分前にマンハッタンの画集屋さんで買った画集。ヴィルヘルム・ハメルショイと読むらしい。ずっとハマーショイかハマーショワだと思っていた。タイトルにもあるようにデンマークの画家である。

 画集をパラパラとめくった瞬間に引きつけられた。全体に灰色がかったおとなしい色調で、静謐感が漂っている。古典的なタッチで、フェルメールをちょっと現代的にしたような感じである。実際にフェルメールの影響を受けた人らしいが、しかしフェルメールほど画面に「光」を感じない。薄曇りの世界である。

 画題は基本的にリアリズムなのだが、構図が独特だ。風景にしろ室内にしろ構図が実に幾何学的で、その結果絵全体が不思議な、いわくいいがたい抽象的な雰囲気を漂わせている。禁欲的な色使いがさらに拍車をかける。現実の光景が描かれているにもかかわらず、彼の絵はどれも現実離れしている。ごちゃごちゃと細部を描きこまない。このあっけらかんとした簡素な構図がそれはそれは美しい。

 ハメルショイの絵はまたミステリアスでもある。室内を描いた絵には人物(主に女性)が描かれていることもあるが、大抵の場合彼女達は私達に背中を向けていて、顔を見ることができない。空っぽの部屋の絵もあり、そういう場合は扉が開け放たれていて無人の廊下や続き部屋が見える。室内のうつろさが強調されているようだ。霧に煙る灰色の街角の絵もあるが、そこにはきれいさっぱり人影がない。絵によっては、カフカの世界にも通じる灰色の不安が立ち込めている。

 フェルメールを思わせる部分もあるが、エドワード・ホッパーを思わせるところもある。ホッパーより色調が暗くメランコリックだが、この孤独感が似ている。こういう風に書くと陰鬱な絵かと思われそうだが、実際に見ると彼の絵はとてもエレガントだ。静謐であり不安でありしかもエレガント、典雅なリアリズムであり軽やかに抽象的であり、しかもミステリアス。

 古典的であり現代的でもある、素晴らしい画家である。あまり知られていないというのが信じられない。


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