アブソリュート・エゴ・レビュー

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殺しのリハーサル

2018-02-04 12:43:53 | テレビ番組
『殺しのリハーサル』 デヴィッド・グリーン監督   ☆☆☆★

 アマゾンPrimeで発見し、珍しいものがあるなと思って鑑賞。アメリカのテレビ映画で、画質は信じられないくらい悪い。昔のVHSビデオテープ(しかも二度ぐらいダビングしたもの)並み。結構きつかったが、頑張って最後まで観た。これは『刑事コロンボ』の生みの親の脚本家コンビ、リチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンクが手掛けたミステリ・ドラマなのである。『刑事コロンボ完全捜査記録』の中に「ミステリドラマの理想の形」「レヴィンソン&リンクの最高傑作」と絶賛されていたので、機会があれば是非観たいと思っていた。

 有名な舞台脚本家のアレックスが、ひと気のない、とある夜の劇場にやってくる。無理を言って管理人を帰し、舞台に椅子を並べる。やがて知り合いの俳優、女優、演出家、プロデューサーたちが三々五々集まってくる。彼らは皆、一年前に死んだ女優モニカの関係者たちだった。アレックスの婚約者だったモニカは一年前、アレックスが書いた芝居の主演女優としてこの劇場でオープニングナイトを務め、その夜に自殺した。夜中にアレックスを電話で呼び出し、彼がモニカの自宅に到着する直前に、高層ペントハウスの窓から飛び降りたのである。

 それ以来アレックスはショックで引きこもっていたのだが、その夜、一年前のモニカの死の関係者を呼び出した。新しい芝居を書いたので皆に読み合わせをして欲しいという。皆は戸惑いながらも読み合わせを始めるが、すぐにそれがモニカの死を題材にした脚本で、登場人物はまさにそこに集まった人々であることが分かる。アレックスはモニカの「自殺」は実は殺人であると考え、その謎解きをするために全員をその場に集めたのだった。一人が怒って帰ろうとすると、オブザーバーとして呼ばれた刑事が登場し、全員に協力を依頼する。全員は渋々と、アレックスの台本を演じ始める。台本に書かれていたのは、その場にいる全員が実はモニカを殺す動機を持っていた、という事実の暴露だった…。

 これは相当にトリッキーなミステリ・ドラマである。回想場面こそあるが、関係者を一堂に集めて事件の再現芝居をやる、というのがほぼドラマの大部分。西村京太郎のミステリで『七人の証人』というのがあるが、あれに似ている。要するに「疑似法廷もの」である。『七人の証人』では無実の罪で死んだ青年の父親が、裁判の目撃証人たちを誘拐して孤島で裁判をやり直したが、このドラマは舞台上で、脚本家の呼び出しによって疑似裁判が行われる。ただし事件当夜の模様は、最初にアレックスの回想によって詳しく見せられるので、観客も疑似裁判についていける仕掛けだ。

 「再現」芝居では、まず一人ひとりに隠された動機があったことが指摘され、時に激しい議論が交わされる。アレックスは疑似裁判の中で関係者を一人ずつ訊問し、時に自分の推理を披露し、犯人を見つけようとする。途中でアレックスが拳銃を取り出して皆を脅すなど、かなり過激な展開になる。要するにこのドラマ自体が非常に舞台演劇的である。ミステリとしてみると、まず回想によって事実が呈示され、次にアレックスの台本によって各人の秘められた動機が暴露され、その後いよいよアレックスの推理が披露される。なぜモニカは自殺したのではなく殺されたと考えられるのか、に始まって、事件の夜実際には何があったのかを、彼は推理する。推理の材料はリチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンクのコンビだけあってコロンボを思わせる部分が多く、なかなか面白い。アレックスが指摘するのはケータリング業者がパーティーの後片づけをしていないこと、モニカが自分で入れたお茶の位置、ボルトがかかっていないドア、アレックスにモニカがかけてきた電話、などである。

 そして最後には、あっと言わせるどんでん返しが待っている。ここで決め手となる証拠はいかにもコロンボ的で、犯人がその場で無意識的にとってしまうある行動である。いわばトラップだが、正直言ってかなり無理があるトラップである。これが成功する確率は天文学的に小さいだろう。まあアイデアは悪くない。その後、真犯人の口からその夜実際に起きたことが説明されるが、その真相と状況は、コロンボのある初期エピソードによく似ている。

 非常に特異な構成であり、また舞台演劇的なので、コロンボのような刑事ドラマを期待すると戸惑うことになるだろう。が、それだけに力のこもった、野心的なミステリ・ドラマということはできる。私はそれなりに愉しめた。俳優はあまり有名な人は出ていないが、まだブレークする前のジェフ・ゴールドブラムがなかなかいい味を出している。



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