しごとのあと、夕方過ぎ、汗をたっぷり吸った洗濯物を抱えて帰宅。ポストに郵便局からの不在通知。〈ゆうパックのお届けに参りましたがご不在でお渡しできず、大きなゆうパックのためポストに入らず持ち帰りました〉とのこと。時計を見たら当日再配達受付時間を過ぎていたので、郵便物受け取りのさまざまな連絡手配は後回しにして、まずは明日も使う大量の洗濯物の片付け。洗濯を終えて、郵便局へ出掛け、ゆうパックの受け取り。郵便局への往き帰りの道々、どういうわけか嚔始まってとまらず、おもわず両目に涙滲んでくる。連続嚔は家族のなかでは私だけでなく兄もしばしばやる。悲しいかな、あきらかに亡き父からの遺伝。頂き物は名古屋のKさんの第一歌集でした。ありがとうございました。嬉しくたのしみに拝見させていただきます。
昔のノートの短歌メモの推敲版です。
ブルネグロの泥濘かそかに春の匂ひ。アスフィータ王女嚔(くしゃみ)す、牛車の中で
牛車は官庁街真ん中に駐車してをり〈来来軒〉の幟を立てて
『ブドリ菌の降らせ方』とふ本ひらく潮田(うしほだ)作左衛門の机の百合挿し
大き口から麦酒の泡飛び散らかせて潮田作左衛門の哄笑
ブドリ菌が森に降る、畑に降る、屋根に降る。教室窓から歌声流れて
その朝も黒服メガネは潮田邸の書斎へとつづく階段のぼりぬ
アスフィータ王女は明色の望遠鏡をゆつくり下ろしぬ牛車の屋根の上(へ)
『妖精の踊り』をハミングする朝も雨は蕭蕭と降り続けたり
昨晩はしごとのあと洗濯。寝る前にスターク『悪党パーカー/殺人遊園地』を少しだけ読んだ。夜半にしんみり目覚めて、e歌会のコメントを少し眺め、サクラカフェのモーニング情報を調べて、アーノンクールの振ったベートーヴェン〈荘厳ミサ曲〉を聴きながら永田淳さんお書きになったご母堂さま河野裕子先生評伝『たっぷりと真水を抱きて』の永田先生河野先生の出会いの頃の辺りを読む。
閲兵式の空をやはらかに飛んでゆく 行方知れずの〈姫さま〉の傘
午前一時きつかりに息を呑む間(ま)ありて決まつて鳴り出す事務所の電話
秋原康三(あきはら)が受話器を取るとソファの上(へ)の毛布がズズズと床にこぼれる
きつと風の音に相違ないのだが向かうでは〈もしもし誰かさんですか?〉の声とも
呼吸音とも聴こゆる〈四分三十三秒〉の沈黙のあとの通話を切る音
受話器を手に秋原はソファに寝転がる 尻下には昨日の〈王党派新聞〉
〈姫さま発見〉の報(しら)せは今日も残念ながらなし カップつまんで珈琲揺らす
夜更け過ぎに飲む珈琲の苦さかな スバルはゆつくり梢を渡る
桜森の奥まつた草地にふるへつづけるあれは〈姫さま〉のケータイかもしれぬ
〈姫さま〉を行方知らずにした〈彼ら〉も、行方知れずの〈姫さま〉探す
休みの今日は、朝からネットで川崎絵都夫先生の邦楽曲『炎(ほむら)』を聴いて、現代短歌文庫の四国ご出身・坂井先生の『坂井修一歌集』をぱらぱら眺め、そのあと、洗濯をしつつ、ハルバースタムの『ザ・フィフティーズ』第一巻(ちくま文庫)を頭から読み始めるつもり。午後のラジオではマゼール指揮のオペラ『ポーギーとベス』が聴き逃せない。そして今日は、昨年が五十回忌だった母方曾祖母の命日。
今日は、二週間ぶりの久々な休日。朝、ぐだぐだと夢を見ながらずっと寝ていたかったが、地震で起こされ、そのまま起床。最近やけに地震が多い気がする。少し恐い。昨夜はしごとのあと、母と電話でいろいろな話をし、そのなかで母がしみじみと〈そういえば、あなたは羊水が破水したなかに四日間いたあとに未熟児で生まれてきて、お医者様から、医学でできることには限界があります。あとはお子さんの生命力の強いことをひたすら祈るしかありません、と言われながら助かった。あれはきっと、ご先祖さまたちが総動員で病院に駆け付けて命を助けてくれたのかもしれないねえ〉と語るのを、当然ながら私にはまったくそのときの記憶はないのだけれども、ただ、いまでも折々、ご先祖さまたちが手を差し伸べてくれている不思議な気配をつよく感じるときがあり、〈そうかもしれませんねえ〉と電話口でうんうんと頷きながら聞いた。
今朝、大橋巨泉氏逝去のニュース速報が流れた。永六輔氏に続いて巨泉氏まであちら岸に逝ってしまわれた。大好きだったラジオ番組の出演者が次々といなくなられるのは、本当に寂しい。
眼を瞑つて胸底のsymphonyに耳澄ます チェロの伴奏の上(へ)にオーボエが鳴る
一度だけだが、パウロ・コエーリョ氏にお会いしたことがある。何年も前、しごとの都合で横浜に住んでいた頃のある日曜日の昼間、何気なくぶらりと横浜駅の相鉄のビルの大きな書店で漫然と本を立ち読みしたくなり、エスカレーターでその書店フロアへ上がったのだ。別段、コエーリョ氏の本を目当てに行ったのではなかった。正直に白状すると、コエーリョ氏の名前も著作もそのとき全く知らなかった。ただ、フロアへ着くと、店員さんが声を張り上げてサイン会の案内をしていた。〈『アルケミスト』の作家パウロ・コエーリョ先生のサイン会と無料講演会の受付をこれから行います。サイン会とそのあとの講演会への参加ご希望の方は先生の新作『第五の山』をお買い求めの上、レジで整理券をお受け取りください〉というもの。コエーリョ氏を知らなかった私は、最初サイン会列に並ぶつもりはなかったものの、書店店頭に平積みされたコエーリョ氏の本を何気に手に取り中身をぱらぱら見ているうちに作家コエーリョ氏への興味がむずむずと湧いて、『第五の山』を買い求め、サイン会列に並ぶことにした。コエーリョ氏は温かな優しい深い眼差しを持った方だった。一言二言挨拶をしたあと、本の表紙を開いた余白に、サインと合わせて、参加者一人一人に宛てたメッセージをさらさらと書いてくださった。
さて、コエーリョ氏の半自伝小説『ヴァルキリーズ』(角川文庫)。ヴァルキリーズは、ワルキューレと同義らしい。
今日、しごとのあと、コメダ珈琲店でコーヒーミルク&ソフト氷を頂きながら、どういうことか、唐突に、コエーリョ氏の『ヴァルキリーズ』のことがしきりに気になりだした。無性に読みたい。虫がうずうずしている。どうしたのだろう、不思議。