カームラサンの奥之院興廃記

好きな音楽のこと、惹かれる短歌のことなどを、気の向くままに綴っていきます。

河野裕子先生(第3稿)

2016-03-30 16:04:12 | Weblog

私が初めて岩倉長谷のお宅に河野裕子先生をアポなしでお訪ねしたのは先生の御父君が急にお亡くなりになった2002年五月某日の前日お昼頃のことでした。先生はたまたまご在宅で玄関外に出て来て下さり、「昨晩徹夜でさっきまで休んでいてこんなボサボサな格好でごめんなさい。本当は家に上がってもらいたいけれども部屋も凄いことになっていて本当にごめんなさいね。よく来てくれましたね。あなたがあのカームラさんですか。」とまず仰いました。先生は、毎日新聞歌壇の選者をなさっていて、私が投稿する短歌をすべてご覧になっていました。それから、たまたま私が毎日新聞に投書した記事もご覧になっていました。あなたがあのカームラさんですか、あなたは妙な短歌ばかり作りますね、と先生は仰いました。カームラさん、あなたを2000年夏に塔にお誘いしたのは、あなたが変な短歌ばかり詠まれていたから、こういう人やったらきっと塔でやっていかれると思ったからなんです。人真似は絶対いけません。他人の歌集なんか読まんでよろし。ひとのうたを自分の短歌のバイブルにしてはいけません。自分のことばと感性をいつでも信頼して、あくまでも自分のことばで短歌は詠まれなければなりません。カームラさん、あなたはいま、人真似でない短歌のテーマを持ってはりますか?先生は私の顔をじっとご覧になりました。先生の眼力は全てをお見通しになるように強く強く私を射し、私はそれに押されるように、「〈墓石〉をテーマにいつか短歌をずらずらずらと詠んでみたいと思っています」と答えました。「先生、墓石というのは一様ではなくて、時代や土地や宗派によっていろんな形の墓石を墓地に見ることができます。そういう墓石の形は、〈ひとの思い〉を反映した形のひとつではないかなと私は思っています。墓石からひとの思いを掬い上げて短歌にすることをやってみたいです。」そう申しますと、先生は、「それは面白いアイディアですね、うちの近くの長谷八幡に私はよく散歩に行くんですが、そのそばに古いお墓があってね。墓石ですか、ユニークな作品ができそうですね」と仰有ってくださいました。

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飯島さんの孔子。

2016-03-29 21:22:51 | Weblog


飯島晴子さんの句集『朱田』より。


孔子一行(いつかう)衣服で赭い梨を拭き  飯島晴子



大洪水孔子は琴や敲(たた)きけん  飯島晴子

 

 

飯島さんの二つの孔子作品、あくまでも飯島さんの妄想によるというのが面白いです。

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鈴木六林男氏の俳句作品から。

2016-03-28 14:34:12 | Weblog

句集『桜島』昭和50年刊より。


いつまで在る機械の中のかがやく椅子  鈴木六林男


〈いつまで在る〉は〈かがやく椅子〉に掛かるのだろう。椅子製造の〈機械〉のなかに工場出荷を待つ〈かがやく椅子〉の新品があるのかもしれない。〈かがやく椅子〉の印象が鮮烈。じつは、この作品を最初みたとき、自分の好みからついつい〈いつまでも在る機械の中のかがやく椅子〉と読み違えてしまった。初句〈いつまでも在る〉だとすると、たとえば、人類が滅んでいなくなった世界に〈機械〉は存在し続け、〈機械〉のなかに〈かがやく椅子〉が在り続けるイメージで読めるかもしれない。

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ヘイグッド・ハーディ。

2016-03-28 10:03:12 | Weblog
今日はいちにち休日。今朝、腹調子がいまひとつすぐれなくてぐずぐずと寝床に丸まったまま、ヘイグッド・ハーディの残した傑作『赤毛のアン』テーマ曲を鼻唄しつつここしばらくずっと持ち歩いていたクリスティの『NかMか』を開きぐいぐいと読み進め読了。さすがにクリスティの筆だけあり面白かった。次は、やはりクリスティの『チムニーズ荘の秘密』か『茶色い服の男』かを読みたいなあなぞと思う。
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これも文体練習。

2016-03-25 22:40:58 | Weblog
近頃、自分がどこの星に居るのかをすっかり忘れてぼおっとすることが増えた。はっと気付いて周章てて辺りを見回す。空を見上げる。ああ、此処は地球だったと安堵して、またぼおっとする。この間は、カップラーメンにお湯を注いでいるときにぼおっとなり、カップラーメンのこともお湯のこともすっかり忘れて、危うくひどい火傷をするところだった。
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文体練習。

2016-03-25 22:09:30 | Weblog
文体練習のひとつ。。

大通り沿ひの古刹寺院の太鼓櫓が正午の太鼓を打ち鳴らした。夏だつた。寺田町準之助はその朝、しごとに出る前、大通り沿ひのコンビニのビルの二階にある会社本部事務所から家に電話で〈昼休みに事務所へ来て貰へないか、大事な話がある〉と言はれ、昼休み汗盛大にかきつつ職場から出掛けてみれば、不景気で仕事の案件が減つて来年の更新時期の春には新たな仕事を紹介できるかわからぬと告げられ、持ち場に戻つたがなにか気もそぞろになつてものに当たり散らす。そもそも瀬戸内の島で生まれ、島の高校を出て都会で働くことに憧れてやつて来た。都会の右も左もよくわからぬまま取り敢へず派遣会社に登録して暮らし始めた。今日の先刻を思ひ返すに、たまたま今回は自分に順番が回つてきただけで、これまでの友人たちと同様、用済みになればそのひとを平気で使ひ捨てにして何のためらひも心配もない、心の乾ききつた都会の精神をまざまざと見せつけられたのだと思つた。都会は嫌だ、ほとほと疲れ果てた、機会を掴めたら先祖の墓がある瀬戸内の島に帰つてしずかに暮らしたいとますます思ふやうになつた。

その夕方、仕事を終へて島の求人情報サイトをいつものやうに開いて、ティッシュ片手になかなか出てこない粘つこい洟水をかみ出さうとしながら見てゐた。そこにはいつもと変はらないアルバイト程度の募集情報が並んでゐるだけのやうだつたが、その中に、滝の霊水で有名だといふ真言宗別格本山寺院が出した「境内及び寺の清掃などの簡単な仕事です。 *ただし住込みできる方にかぎる」といふ案件をたまたま見つけて、思はず詳細ボタンをクリックした。
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滅失。

2016-03-24 16:41:59 | Weblog

午後には雨止んで空は薄く明るんだものの、そんな兆しすら見えなかったその朝の陰鬱な空と吐く息白き春の雨は、木々や道を濡らし、ふらふらと足取り覚束なく寺町の裏通りを歩いていた秋原康三の気分を暗くした。〈なべて滅失や〉と秋原は思わず呟いた。

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小池さんとプーランク。

2016-03-23 07:45:44 | Weblog

今日は八日ぶりの休日。ベルギーの空港と地下鉄駅で不幸で凄惨で嫌な事件があったという昨夜、帰りがけ、当地の駅前もサイレン鳴らして消防車と救急車が急に集結し物々しい雰囲気。人身事故でもあったのだろうか。大事でないことを祈った。昨夜は酷く疲れていたせいか椅子に腰掛けて短歌ひとつでも詠めやしないかとぼおっとしているうちにいつの間にやら沈没、はっと気付いて周章てて寝る用意をし、クリスティの『NかMか』を携えて床に入った。どういうわけだか子どもと奥さんの出てくる夢を見た。今朝は、岩代先生のFB記事の新作映画『二重生活』紹介から小池真理子氏の原作小説のことを知り、今まで一作とて読んだことがなかった小池さんのいくつかの作品に関するAmazon reviewを興味深くぱらぱらと開き読む。機会があったら『冬の伽藍』からでも読んでみようかなと思うも、いやいや、まだ読みたい読むべき本が手元にたくさんあったなとあらためて思い直す。ラジオは、プーランクが作曲した〈ピアノ協奏曲〉。面白い。

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寝る前に。

2016-03-21 23:23:48 | Weblog
しごとから帰って来て、寝る前に開く瀬戸夏子歌集『かわいい海とかわいくない海 end.』。


けれど友達を忘れはしない陛下やっぱりときめきは霧状の中  瀬戸夏子
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ランベール舞踏子爵。

2016-03-21 11:11:55 | Weblog

ブルネグロの町の外れのブドウ畑に囲まれた美しい丘の上のお城に住んでいるランベール舞踏子爵は見かけは70歳ぐらいも、じつは当年とって御年210歳という。その年齢ギャップの理由は、ランベール舞踏子爵家が代々〈時〉のエンジニアを任されていることによるそうだ。皆さんは、〈命の蝋燭と黄金の船〉の話をご存じだろうか。ランベール舞踏子爵のお城の地下深くに〈命の蝋燭の部屋〉と〈黄金の船のための船着き場〉があると言われている。

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