ほほゑみに肖てはるかなれ霜月の火事の中なるピアノ一臺/塚本邦雄
この一首は〈三島事件〉を受けて詠まれたと言われている。不世出の詩人は不世出の小説家を〈ピアノ〉に仮託したのだ。火に包まれた〈ピアノ〉がハチャメチャに断末魔の澄んだ音を立てている光景。光景のおぞましさの一方、はるかな〈ほほゑみ〉の哀しさが、読み手の心をしみじみと打ってくる、忘れがたい作品。
詞書:わたし(この「わたし」は私ではない。)がお后さまの気付け用のワインをグラスに注ぎ、お盆に載せてお城の廊下を通りかかったとき、《ちょっと失礼、そこのあなた》と男はわたしを呼び止めた。《毒見せなあ、いかんでしょ》とわたしのお盆のグラスを奪い、立ったまま一気にあおった。そしてすぐに昏倒した。傍らに居たもう一人の男が慌てて《春山、春山》と声を掛けて男の肩を揺すったがぴくりとも動かない。倒れた男のコートのポケットからは、《寺山修司全歌句集》の文庫本が零れ落ちそうになっていた。時刻は五月四日午後九時二十分。
五月四日ならずものに毒盛られ春山君死す 奇しくも修司忌
ワルツ1ページ目。28日は姪っ子の誕生日。
昨晩は、非常に久しぶりにNHKホールのNHK交響楽団定期演奏会へ。井上道義さん指揮のオール・ショスタコーヴィチ・プログラム。『ロシアとキルギスの民謡による序曲』『ピアノ協奏曲第1番』『交響曲第12番』。どの演奏も非常に素晴らしかったです。
コンサートからの帰り道、開店12周年記念キャンペーン中の代々木のカレーの名店LION SHAREさんに、久しぶりに寄り道。
久々に頂いたLION SHAREさんの名物キーマカレー。近頃は代々木へ足を向ける機会がなかなかなくてずっとご無沙汰してしまいました。本当に十年ぶりぐらいに突然ポンと寄らせて頂いたのに、オーナーのYさんは私のことをしっかり覚えていてくださり恐縮してしまいました。絶品のおいしいキーマカレーを頂いて、Yさんの四歳のお子さんにもご挨拶させて頂きました。
休みのけふの昼御飯。割烹さいとうで食事を終えて〈さあ、会計だ〉とひとりごちて席を立ち上がってお店のひとに声をかけると、相席の目の前の眼鏡のスーツが〈○○君?俺、△△だよ〉とこちらを見上げて話し掛けてきた。〈え!?△△、△△?え、△△!?〉と顔を見ると、たしかに、高校のクラスメイトの△△だった。△△は今日は職場の人間ドックで、その帰りに食事しに偶々さいとうへ来たらしい。向かい合って相席で食事をしながらさっぱり気付かなかったことにお互いにびっくりし思わず笑ってしまった。なにせ卒業以来30年ぶりぐらいの再会で、そもそも気付けたことがなんとも奇跡的で、びっくりした。どうやら、お店のひとへの私のしゃべりが昔と変わっていなかったので、声をかけてくれたらしい。店を出てから駅までの道中、久しぶりに懐かしい話に盛り上がった。
「美しき夜へと逝つてしまはれたKさんを悼んで」
(2007/12/19)
その夜を美しき夜と思へども ベラ・バルトークの手書きの譜面
パヴァロッティの歌ふベルリオーズの「レクイエム」流してラジオは側溝に消えたり
扉上の窓より書庫にもぐり込む ダンテは夕方の欅に凭れて
美しき夜に鳴りたるオルゴール サミュエル・バーバーの弦楽アダージョ
この夕べラジオ局から流さるる暗くて寒きニュースのことども
まろやかにホットミルクの膜は立つ 祈りはいつもこの天空に
どういうわけか、昨晩来チャイコフスキーの悲愴交響曲のなかの〈激しい雪嵐の情景〉の音楽が繰り返し頭の中で鳴っています。しごと前に葛根湯を服みつつ、最近とかく増えている天変地異のことを思いながら、降り積もる初雪の寒さにぷるぷると身を震わせています。。
雪。
今朝は、ゆるやかで長い揺れのなかで目が覚めた。ラジオを点けると〈津波警報〉発令のニュースが繰り返し流されていて、思わず五年前の春を思い出した。あらゆる自然界、宇宙、世界を統べている〈存在〉があるとして、〈そこ〉からの、どうであってもあの強烈な教訓を忘れてはならない、というメッセージなのだろう、と感じた。
ヴァイオリンのための〈小さな星へ〉。