昼過ぎ、疲れて眠った幼子をおぶった私は、ある山中の駅で降りて、森の中の道を辿って寺を目指し歩いていた。これからその寺で大事な法要があるのだ。
そういう夢を見た。
近頃、三十年ほど前の受験のときに泊まった旅籠町の柴田屋伝七旅館のことをよく思い出す。遠方からの受験生はみな大学生協に割り振られた市内の旅館に泊まることになっていて、伝七旅館から道を隔てた前には、数々の偉人がその佇まいを愛し投宿してきた立派で格式高い後藤又兵衛旅館がでんとあって、そこにも受験生が泊まっていた。
いま、その旅籠町には一軒も旅館がないという。みな廃業してしまったという。そういう寂しい話を最近知った。
七月の嵐に。