カームラサンの奥之院興廃記

好きな音楽のこと、惹かれる短歌のことなどを、気の向くままに綴っていきます。

空色ぴりかさんの一首。

2024-06-24 14:25:24 | Weblog
歌誌『塔』六月号より。

庭を観るために降りたつ無人駅 ポストみたいな改札が立つ/空色ぴりか

まず、駅に降りたつ繋がりで、小中英之さんの有名な一首〈螢田てふ駅に降りたち一分の間(かん)にみたざる虹とあひたり〉を思い出した。小中さんの一首は滞空時間の掬い上げ方が実に巧くて見事だ。さて、こちらの作品の〈無人駅〉だが、昔はどの駅にも駅員さんがいて駅長さんがいてみどりの窓口のような受付もあったものだが、昨今は何かと効率化優先の叫ばれる社会へと変貌してしまい、駅員さんにもみどりの窓口のような受付にもなかなかお目にかかれなくなってしまった。駅間近に風光明媚な景勝地の〈庭〉がありながらも、乗降客数がいっこうに伸びず、鉄道会社の人員削減計画で無人駅となったのかもしれないが、作中主体は、名所の庭を観ようとそんな無人駅に降り立ち、庭を観る前に、ポストみたいな改札に逢い、ハッとするわけである。庭云々ではなく、思い掛けない〈ポストみたいな改札〉に心が動いて、このような一首を掬い上げた作中主体の心中がなかなか興味深い。
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