小さな頃、父の書斎に忍び込んでその書棚にえらく古びた木下謙次郎著『美味求真』の部厚い背表紙が並んでいるのを見つけて、〈求真〉とはいったいどう読むのだろうと幼い頭を精一杯捻ったことがある。元気な頃から美味探求を生涯のモットーの一つに掲げていた亡き父は、その晩年、認知症進行が無慈悲に父を追いかけ、まだ幾等かものごとの分かっていた頭と精神とを徐々に確実に無惨に蝕んでゆく現実の前で、その恐怖心を打ち消すかのように、若い頃から父が〈至極美味〉と考えるいくつかの料理屋へ時々僕を連れて行ってくれるようになった。その最後に行った店の後、〈次に行くのはどんな料理屋がよいかな。〉と父が訊ねるので、〈お父さんの考えるいちばん美味しい焼き鳥屋を教えてください。〉と僕がいうと、〈じゃあ、渋谷駅の近くのガード下にすごく美味しい焼き鳥屋があるから、次はそこを教えてあげよう。そこは本当に特別な焼き鳥の店なんだ。〉と父は言った。しかし、結局、父の病状はさらに進行し、父と連れ立ってその焼き鳥屋を訪ねることはできなくなった。そして、父が亡くなったことで、父の口からその焼き鳥屋の名前を聞くこともまったく叶わなくなり、父の至高の〈焼き鳥屋〉とはいったいどこのことだったのだろうとずっと気になっていた。
最近、母の許へたまたま父の昔の教え子の方から手紙が来た。そこには、元気だった頃の父が教え子の方たちに〈今度同窓会をやるとしたら気取ったビアホールでなくて渋谷の原宿方面ガード下の至極美味い焼き鳥屋の鳥福でやろう〉と語っていた旨が綴られていた。そこで初めて僕は〈鳥福〉のことを知った。
ネットで調べてみると、鳥福は今も渋谷でやっているらしい。いつか訪ねてみたい。
国家の大計とは、百年先の人びとの幸福な暮らしの実現のための賢くて心温かな政策、施策のこと。この国に〈大計〉ははたしてあるのだろうか。
さまざまな民営化のもたらしたこと。国鉄や郵政や水道などの民営化が私たちの暮らしにもたらしたことを冷静に賢明に振り返る必要をしみじみ思った今朝。例えば、ゆうちょ銀行の硬貨手数料のニュースにため息。
湧き水の土手へけふの水汲みにいく 廃線のレールはどこまでも草、くさ
さまざまな民営化のもたらしたこと。国鉄や郵政や水道などの民営化が私たちの暮らしにもたらしたことを冷静に賢明に振り返る必要をしみじみ思った今朝。例えば、ゆうちょ銀行の硬貨手数料のニュースにため息。
湧き水の土手へけふの水汲みにいく 廃線のレールはどこまでも草、くさ
今日は浩司さんのご命日で、13回忌に当たる日。また、昨日は山陰地方の墓所に眠る父方祖母の命日だった。
今朝は、昨晩NHKFMから録音した片山先生の〈クラシックの迷宮〉特集スクリャービン生誕150年を繰り返し聴いた。
これから仕事。
今朝は、昨晩NHKFMから録音した片山先生の〈クラシックの迷宮〉特集スクリャービン生誕150年を繰り返し聴いた。
これから仕事。
偶々ひらいた歌人北川 草子(きたがわ そうこ、1970年1月20日 - 2000年4月10日)さんのwikipedia記事から、今日1月20日が北川さんの誕生日と知った。ご健在であれば御年52歳。おめでとうございます。
北川さんの短歌作品から。
ぼくたちはジャックの子孫 豆の木のかなたの空がぼくらの大地だ
チャペックの園芸書を読む雪花は花よりも葉に似ているらしい
いつかはねって淋しくわらうニッキだけ底にのこったドロップの缶
目にみえないものをたよりに生きていて改札口があんなにとおい
同じ年の美容師に髪をとかれつつ鏡に視線やれないでいる
北川さんの短歌作品から。
ぼくたちはジャックの子孫 豆の木のかなたの空がぼくらの大地だ
チャペックの園芸書を読む雪花は花よりも葉に似ているらしい
いつかはねって淋しくわらうニッキだけ底にのこったドロップの缶
目にみえないものをたよりに生きていて改札口があんなにとおい
同じ年の美容師に髪をとかれつつ鏡に視線やれないでいる
歌誌『塔』1月号:特集〈みんなで短歌かるた〉。ジュンク堂池袋本店(東京)、 ちくさ正文館本店(名古屋)、葉ね文庫(大阪)で一般向けにも販売しています(一冊1250円)。
今日から読み始める天草季紅さんの『ユーカラ邂逅~アイヌ文学と歌人小中英之の世界~』(新評論)。楽しみ。
書影。