カームラサンの奥之院興廃記

好きな音楽のこと、惹かれる短歌のことなどを、気の向くままに綴っていきます。

東京士官2。

2013-06-30 07:00:06 | Weblog

七月一日の朝、59歳の緒方三四郎は、仕事場に向かう途中、安藤坂の長い赤信号に捕まってしまった。仕方なく辺りを見回していると、交差点脇の電柱の「東京土建」の広告が目に入ってきて唐突に〈東京士官〉のことを思い出した。



私(三四郎)はまだ19歳だった。その年、東京田端の外れにある下宿屋の女将の愛犬が夏の暑い昼に死んで、夜、埋葬のために役所から連絡を受けた五人の東京士官たちが派遣されてやってきた。外灯に照らされた道に、青いジープに乗った彼らは、一様に青いスーツを着て、大きな青いバッグを提げていた。近くの路地に目立たぬようにジープを駐めてもらい、女将と一緒に母屋横の木戸から三条公ゆかりの庭隅に彼らを案内した。ほんのひと月ばかり前に瀬戸内の田舎から東京に出てきた私は東京士官のことをまったく知らなかった。青で統べられた彼らの風体はじつに奇異に目に映じた。彼らが準備していく作業を見守りながら、怪訝に「彼らは何者なんですか。」と女将にこっそり訊ねた。女将は黙って割烹着のポケットから三ヶ月前の新聞切り抜きを取りだして私に手渡し、「三四郎さん、悪いけれど此処で彼らのことを見ていてね。」と耳元で早口で言い、家に戻っていった。私は、青い五人が懐中電灯で手元を照らしながら黙々と穴を掘っていくそばで、座敷から洩れてくる灯りの下に立って女将から受け取った記事に目を通した。〈つづく〉

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東京士官。

2013-06-26 01:04:30 | Weblog

昨日の朝、仕事場に向かう道すがらの信号待ち中、交差点脇の電柱の「東京土建」の広告が目に入ってきて唐突に〈東京士官〉のことを思い出した。



東京田端の外れにある下宿屋の女将の愛犬が夏の暑い昼に死んで、夜、埋葬のために役所から連絡を受けた五人の東京士官たちが派遣されてやってきた。彼らは一様に青いスーツを着て、大きな青いバッグを提げていた。東京に出てきたばかりの「私」は東京士官のことを知らなかった。怪訝に思って「彼らは何者なんですか」と女将に訊ねると、女将は黙って奥から三ヶ月前の新聞記事を捜してきて私に手渡した。記事を読む私。懐中電灯で手元を照らしながら黙々と下宿屋の庭に穴を掘る五人。

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東京士官。

2013-06-25 18:40:45 | Weblog
東京田端の外れにある下宿屋の女将の愛犬が夏の暑い昼に死んで、夜、埋葬のために役所から連絡を受けた数人の東京士官たちが派遣されてやってきた。彼らは一様に青いスーツを着て、大きな青いバッグを提げていた。
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菅野さん。

2013-06-24 00:02:38 | Weblog
3.11を決して風化させないために、「死者の思いを生者のもとへ届ける音楽」としてのレクイエムたれ、との願いを込めて佐村河内守氏は『ピアノ・ソナタ第2番』を作曲されたそうです。そのことを考えながら佐村河内氏のその、どこかラフマニノフ的でもあるピアノ音楽を思い浮かべるたび、映画『砂の器』のテーマ音楽として有名なピアノと管弦楽のための組曲『宿命』の作曲家菅野光亮氏がもしも長生きされて3.11を経験されていたら、そのあとはたしてどんな音楽を紡がれただろうと思うのです。
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夢の記。

2013-06-22 23:26:59 | Weblog
昨日の朝に見た夢。歌人のK先生が生前のお姿のままで登場される。その先生について皆が心配げにひそひそと噂してゐる。なんでも、近頃の先生がお元気でないのは、先生の起居されてゐる座敷の畳の下の水溜まりに洪水で流された屍が浮かんでゐるからだといふ。
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けふ。

2013-06-20 21:47:45 | Weblog
今日は夕べに葉書を二通書いた。


今朝は、どこかの駅ビルの書店に新潮文庫の松本清張氏の或る作品を探しに行くも見つからなかつた夢を見た。なぜ清張さんが出てきたのかよくわからず。昼間、久々に大学生協の本屋へ。文春文庫のシネマコミック『となりのトトロ』を探すも「刊行が遅れてゐるやうです。」とのことでなし。文藝春秋連載記事をまとめた石井妙子氏の『日本の血脈』(文春文庫)を購入。そのあと、前職場の事務所を久々にお訪ねし、アイスクリームをご馳走になりながら懐かしい皆様としばし歓談。楽しかつたです。
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山崎さん。

2013-06-18 07:33:57 | Weblog
昨夕、仕事帰りに豊島郵便局に立ち寄り、10分ほどテーブルの隅を借りて10首を作って原稿用紙に書き込み投函。そして、家では、山崎聡子さんの歌集『手のひらの花火』(短歌研究社)の東京大空襲の一連を繰り返し読んでいました。
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気付いたら。

2013-06-15 19:36:27 | Weblog
今日も仕事から帰ってきて、ほっと一息トマトジュースを飲みながら、カレンダーを覗く。気付いたら今月も15日。歌誌『塔』6月号はまだ届かないけれども、20日までに京都に着くように月例詠草10首を詠んで郵便局から投函しなければいけないと唐突に思い出し、少々焦る。塔に入って12年、これまで一度も欠詠したことがないのが唯一の誇りなので、なんとかせねば。
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佐村河内さんの新作披露会。

2013-06-14 00:40:14 | Weblog

普段は専らどこに出かけるのにも自転車で走り回っているものの、昨日は服地に染み通る雨降りでこれはかなわぬといざ地下鉄で銀座ヤマハホールへ向かわむとて改札に行くも、あまりにも久しぶりの公共交通機関ゆえに、いったいどういう経路で向かったらうまく銀座ヤマハホールに着けるのやら非常に心許なく困惑し東京おのぼりさんよろしく地下鉄改札前で暫し途方に暮れてしまったのは事実。しかしそれでも何とかたどり着き、披露会に参加。司会はフリーアナウンサーの中込真理子氏。日本コロムビアの岡野博行氏と佐村河内さんの話のあと、ソン・ヨルムさんによる演奏披露。全曲は36分らしいも、今回は時間の都合で作曲家本人の手による抜粋版(10分)の演奏。抜粋とはいえ、楽曲も演奏も素晴らしかったです。
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雨の樹幻想。

2013-06-13 10:58:14 | Weblog
大森静佳さんの歌集『てのひらを燃やす』(角川書店)の一首。



どこか遠くでわたしを濡らしていた雨がこの世へ移りこの世を濡らす 大森静佳



この世にあらざる「どこか遠くで」の遥けき透明感が私を打ちのめします。武満さんがご覧になったという「雨の樹」を、この作中主体もどこかで見ているのかもしれません。
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