カームラサンの奥之院興廃記

好きな音楽のこと、惹かれる短歌のことなどを、気の向くままに綴っていきます。

濱松さんの一首。

2024-06-20 14:16:56 | Weblog
歌誌『塔』六月号より。

ある日ふと引つこ抜かれてバス停のゐなくなりけり海境の口/濱松哲朗

今に始まったことではないが、本当の国民生活の何たるかを知らぬ眼の曇ったお上連中は、何でも彼でも紙などの実を廃して例えばデジタルという美名を纏った虚へと詐欺的弁法まで駆使して強引に移行させたがる。そして、昨今全国的に蔓延してとかく話題に上がる事が多いバス路線減便廃止増大問題の根っこも、本当の国民生活の見えていないお上が許認可を判断している故、案外同じかもしれぬ。〈海境〉とは、海上遠くにある海神の国と人の国とを隔てる境界のことで、バス停〈海境の口〉はそんな大事な場所の入り口附近にあったらしいのだが、〈ある日ふと引つこ抜かれて〉バス停自体がなくなってしまったのだという。海神の国と人の国とのまるで国交断絶を匂わすような重大な事態勃発がさらりと詠まれているこの一首の手柄は、バス停を引っこ抜いたのがはたして海神の国側なのか人の国側なのか明記していないところ。不穏芬芬たる雰囲気を巧く掬っている。
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