都市徘徊blog

徒然まちあるき日記

高輪で階段三昧5

2006-05-21 | 港区   

 高輪には大好きな階段がまだある。

高輪のS字型階段 下部

 正確には、港区高輪4-14と品川区北品川6-2の境界にある階段。清泉女子大学がある島津山と東側の高輪台の間にある谷道から、東へ社宅の石垣沿いを逆S字型に上る階段である。

 妙なのは、途中がひどく狭いこと。最初のカーブを曲がると、行き止まりかと思うような景色になる。だが不思議なことに、この隙間を通って上り下りする人は意外に多い。

U字型溝の上を歩いて上る

 この道は道路とはみなされていないのだろうか? せめて溝に蓋をしてくれれば歩きやすいのだが、十年経っても様子はほとんど変わらない。この区間には街灯もないので、夜はかなり歩きづらいだろう。酔って歩いたら足を踏み外して溝にはまるに違いない。ひどく狭いので、すれ違いも大変だ。溝に落ちないように気をつけながら、石垣側かフェンス側に身を寄せてすれ違うしかない。雨が降っていたら、傘を閉じて濡れるしかない。

 だが、この溝とひどい狭さがこの道を特徴づけていて、とても魅力的なものにしている。広くて歩きやすい階段ならいくらでもあるし、都会では安全を求めて狭い道は次第になくなっている。そのような趨勢の中で、この狭い抜け道は特殊なものとなり、知る人ぞ知る印象的なものになっている。

カーブを描く階段上部

 狭い区間を抜けると上の方はカーブした緩やかな階段になっている。古くからある階段でこのように美しいカーブを描いているものは少ないのではないだろうか。全体としてはちゃんとした形をしているのだが、一段一段のステップは、大谷石だったりセメントモルタルだったりとばらばらでやや不整形だ。段差もほとんどなく坂道のようでもある。左側の石垣は最初の方では砂岩だが、上の方では大谷石が使われている。

 小雨降る階段はひっそりと静かだった。

 大谷石とコンクリートでできたステップは、老朽化してひび割れ、あちこちから雑草が顔を出している。道端の方は苔むしていて、雨に濡れてしっとりと柔らかくなっている。経年変化して、時間の経過の痕跡を残す階段は見ていて飽きない。周辺の景色とも馴染んで、落ち着いた風景を創っている。

Photo 2006.03.10

#階段・坂 港区  #路地  #雨
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高輪で階段三昧4

2006-04-22 | 港区   

 高輪の階段巡りで外すことができないのがここ。

石垣の間を下る直線階段
所在地:港区高輪1-27
Photo 2006.3.5

 松光寺の階段のすぐ近くにある細く長く真っ直ぐな階段。二本榎通から西へと下る。お城のようにそびえる石垣に挟まれて谷底へ下りていく感覚は、他ではあまり味わえないもの。個人的には、都心部にある階段の中で、味わい深い階段ベスト10に入れたい。

Photo 2006.3.5
Photo 1996.3.31

 桜田通りへの抜け道でもあるため、狭い階段なのだが、意外に通り抜ける人は多い。知る人ぞ知る秘密の道。人ひとりがようやく通れるような、すれ違いにも苦労する階段を歩く人が多いのは、この不思議な雰囲気の空間を楽しみたい気持ちもあるのではないだろうか。自動車も自転車も全く来ない静かな道。

 遠くには明治学院大学の校舎が見える。そして上には桜が。

 
Photo 1995.2.23
Photo 1996.3.31

 一番下から見ると、両側の石垣の上に住居がそびえ立っている。このスケール感は、本郷の一葉の路地奥の階段と似ている。ただこちらの階段は30m以上の長さがある。細く長く続く姿は、奥の方へと私たちを誘う。

 階段下には松光寺の階段へと抜ける飛び石路地が以前はあった。ただ残念ながらこの超プライベートな路地は、古い木造住宅が解体されたのと同時に、空き地の中の寂しい道になってしまった。路地の奥から私を見つめる視線あり・・・。

Photo 2006.3.5
Photo 2006.3.5

 上の写真は、階段の途中にあるアパートの裏口?へのアプローチ。とんでもない傾斜で、しかも手摺なし!。石垣にへばりつきながら恐る恐る上って覗き込むと、すごいことになっている。

 谷底状になった階段からは近くにできた超高層マンションが見える。全く異質な世界が見えている不思議な感じ。

Photo 2006.3.5
Photo 1995.2.23

 階段の北側には、わき道階段が二箇所あり、迷路状に繋がっている。左の写真は、お家の玄関先を抜けるわき道。写真を撮っていたら、この家に住んでいる御婆様が買い物から帰っていらした。恐縮しながら、玄関先を通らせて頂く。右は木造アパートへと抜けるわき道。どちらもかなりプライベートなルート。

 この階段の全貌は写真では説明しきれないかもしれない。空中写真などを使わないとこの複雑な路地構造は伝えにくい。だから、時間ができたら、ぜひこの階段のイラスト図面を作ってみたいと考えている。でもこんな路地で階段の図面なんか作ってたら、かなりの不審者になってしまうんだろうなぁ。

 興味を持たれた方は、是非一度。とにかく驚くべき場所です。でも多人数で一度に行かないでね。

#階段・坂 港区  #街並み 港区  #路地
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高輪で階段三昧3

2006-04-18 | 港区   

 東禅寺から妙な気分のまま境内を西へ抜けて、お寺の背後の住宅地へ。
 Photo 2006.3.5

 墓地のキワにある細道は健在だった。緩やかに木立の下を上る道を歩くとホッとする。変な景色を見なくて済むのは幸せだ。

 お寺の真裏に回り込むと、車がほとんど通れないような小さな住宅地になる。高台に向かって上り続けるのかと思いきや、別の小さな谷地にまた下りてしまったりもする。急坂に建つ鋭角な住宅、細い路地を挟んで建つ住宅群など、都心にエアポケット状に残された異空間を歩くのは密やかな楽しみだ。

 小道は最後に桂坂際の擁壁に突き当たり、擁壁ぎわを少し上ったあと、階段を一気に上って桂坂上に出る。桂坂沿いにも2階ないしは3階から入る建物がいくつかある。入口付近は完全に空中にあり、車庫も人工地盤上にあるような建物が建ち並ぶ。そして擁壁沿いの小道の方では、かなり低いところに入り込んでしまったような印象になる。

 昔は階段を見る視線の先が多少開けていて、谷地の様子がよくわかったのだが、高野山別院の裏側に足場を造って空中に建物を作ってしまったため、視界はややせせこましくなった。狭い谷あいへと下りていく印象が強い階段である。

 階段の楽しみは、一歩一歩、歩みを進めるごとに変化する景色を楽しめること。台地と低地を繋ぐ階(きざはし)だが、結界的な装置でもあり、階段の存在は丘の上下を明快に切り分ける。

 階段自体の姿も私にとっては鑑賞の対象である。一直線のものもあれば、カーブしたり屈曲したり。幅も長さも傾斜も段数も千差万別。ステップもコンクリート、敷石、自然石、土!と様々。踊り場があったり、手摺が付いていたり、スロープがあったり。野外の階段の場合、一つとして同じものはないと言っても良い。

 階段の途中からアプローチする住宅なんていうのもある。

 また、坂と違って一段一段は水平なので、途中で立ち止まって振り返って景色を見たり、車も来ないので疲れたら腰掛けたり。意外に歩行者系の装置でもある。

 これだから階段歩きはやめられない。

#階段・坂 港区  #街並み 港区  #路地
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高輪で階段三昧2

2006-04-16 | 港区   

 松光寺の参道を通り、墓地への階段を下る。しばらく来ないうちにこの階段も様変わりしていた。

松光寺、墓地への階段
所在地:港区高輪1-27
Photo 2006.3.5
Photo 1996.3.31
 
Photo 1995.2.23

 撮影ポイントや画角は少しずれているが、3枚の写真は同じ階段。

 以前は、蹴上部分と踏み面の中央部分だけがコンクリートで、踏み面の両側は土が露出しているものだった。上の方の階段は、斜めに積まれた石垣とブロック塀に両側を挟まれ、また下の方では、墓地がコンクリート塀やブロック塀で目隠しされていた。

 新しい階段は、全面が舗装され、スロープやアルミの手摺が付いている。舗装を変えただけでなく、階段の構造全体に手を入れたようで、以前とはステップの段数や大きさが全く異なり、以前の面影はほとんどない。

Photo 2006.3.5
Photo 1995.2.23

 墓地の中の階段を下りきって振り返り、下から全景を見る。昔は階段下に木造の古い住宅があり、この家と階段のセットが絵になる風景だった。住宅はなくなり生け垣に、階段の途中の踊り場には緑色の洋風のパラソルが。

 確かに昔は、ここはちょっと怪しい場所だった。階段の両側の石垣には無縁化した墓の墓石が転用されていて、戒名が書かれていたり、蓮の花の彫刻が欠けていたりして、いかにも「出そう」な雰囲気があり、夕暮れ時はひっそりして陰気でもあった。私などは、都心なのにこの静けさはすごいなーと、妙に感心したりしてもいたが、普通の人はあまり近寄りたくない雰囲気だったかもしれない。

 しかし鮮やかな緑のパラソルと休憩用の腰掛けである。見事に雰囲気を変えたというか、怪しさを消し去ったというか・・・。都心の歴史のあるお寺へようこそ。墓地区画新規販売中です!、という感じで、ここでも確実に時代は変わっているのだなと、痛感したのだった。

 緩やかなカーブを描いて下りていく階段が好きだったのだが、妙に清潔できっちりした階段になってしまったので、この時は写真を撮る気が途中で失せてしまった。

 せっかくなので、昔の写真を今回は掲載。

緩やかにカーブしながら墓地の間を上っていく階段
Photo.1995.2.23
墓石を積み上げた石垣
Photo.1996.3.31

 やっぱり昔の方が味わいがある景色だと思う。白黒写真ということを割り引いて考えても・・・。

#階段・坂 港区  #寺院 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高輪桂坂で眺望を・・・

2006-04-13 | 港区   

 桂坂は高輪の高台から東方へ海へ向かって下る坂道。Photo 2006.3.5

桂坂から海方向の眺望

 桂坂からは昔は海が見えていたはずだ。しかし戦後の埋め立てで海は次第に遠くなり、海の眺望は得にくい状況になっていた。それでも海沿いの低地への眺望のある、印象的な坂だった。ところが数年ぶりに行ってみたら、その眺望は激変していた。坂下の海の方にNTT Docomo 品川ビル(港区港南2丁目、29F、145m、2003年3月竣工)が建設され、ロボットみたいな姿が彼方にドーンと見えている。桂坂は坂の途中に大きな石垣が昔からあり、緑もたくさんあって、車の交通量は多いが、なかなか良い雰囲気の坂だったのだが、イヤでもその背後に巨大なお姿が見えてしまうのだ。

 ここのところ、何回も「見えてしまうこと」について書き綴ってきたが、ここでもまた場にそぐわないようなものが見えてしまっている。都市開発肯定論者はこの景色を、歴史と現代のコントラストがおもしろいとか、東京ならではの新しい景色だなどというのかもしれない。確かに一つや二つぐらいだったらまだ面白がっていられたのかもしれないのだが、かようにあちこちで「見えてしまう」と、おもしろい、現代的だ、では済まされないような気がしてくる。

 その昔、海が見えていた、ということを知らなければ、向こうの方に変な形をした大きなビルが見えているねー、ぐらいなのかもしれないが、本来は海が見えていたということを知ってしまうと、途端に、海が見えると良いんだがなー、海沿いに大きいの建てるなよなぁマッタク・・・、という気分に変わってしまう。

 NTT Docomo の建物は、今後数十年は建ち続けるだろう。私が生きているうちには、もうここから、海の方を望むことはできないと考えると、すごく惜しい。残念だ。

桂坂:坂上方向の景色

 海方向への眺望が遮られてしまっているので、今度は坂上の方を見てみると、こちらも知らないうちにすごいことになっていた。

 坂上の二本榎通りとの交差点のところに高輪・ザ・レジデンス(港区高輪1-27、47F、154m、2005年12月竣工)という超高層マンションが昨年完成していた。海の方にドーン、丘の上にもドーン、である。

 桂坂上の交差点には、昭和8年に建てられた高輪消防署二本榎出張所がある。桂坂を下から上っていくと、かわいらしい塔が付いた建物が次第に見えてきて、坂を上りきって近くで見たいという気持ちになったものだが、その消防署も巨大なマンションの足下にこぢんまりと佇んでいて、存在が霞んでしまった。巨大マンションの方は坂を上がらずとも途中から十分すぎるほど見えている。

 坂の下に建っている建物が自分よりも遙かに高くて、坂上にいるのに上空から見下ろされてしまっているのは良い気分がしない。しかし、丘の上にそびえ立って見下ろされてしまうのも、やはりあまり良い気がしない。丘の上に建っているんだから、そこまで高くしなくたっていいじゃないのさと思う。話はそれるが、猫などは高いところに上って上から見ることで安全を確保し、見下ろされることに対しては非常に警戒心を持っている。人間もどこかに動物的な本能が残っているからいやなのかもしれない。

高輪・ザ・レジデンスと高輪消防署二本榎出張所

 近くまで来てみると、やはり往年の消防署は印象的で素晴らしい建物だ。大きさではなくデザインで存在感があり、年月を経た風格がある。

 桂坂のいわれなどについては、坂道コレクションというHPの中に、桂坂があるので、そちらも御覧下さい。

 さて、今回の記事を書くにあたって、二つの新しい超高層建物については超高層ビルとパソコンの歴史というHP内の超高層ビルデータベースへリンクを貼らせて頂き、参照して頂くこととした。リンク先の建物写真なども是非見て頂きたい。というのは、リンク先の写真と、拙Blogの写真を、交互に見比べて頂きたいのである。

NTT Docomo 品川ビル   高輪・ザ・レジデンス

 超高層ビルデータベース内の個々の建物情報は、あくまでもその建物に関する情報であって、周囲の環境情報は、ここではひとまず除外されている。それはそこで掲載されている写真についても同様で、かのHPの中では、超高層建物はできるだけ当該建築物の全景のみになるように写されている。

 一方、拙Blogの写真は、あくまでも周辺状況との関係性の中で超高層建物を捉えようとしているため、建物の手前や左右に様々な建物や緑などが写し込まれている。

 建築物を見る態度としては、私の写真の撮り方は正攻法ではないのかもしれない。しかし現在、都市に建つ建物の周囲には、多かれ少なかれ、既存の建物などが存在している。私たちが建物を見るとき、その視野にはほとんど必ず、周辺の環境が映り込んでいる。見ようとする建物を注視すれば、視界には入っていても意識からは除外されてしまうかもしれない。しかし私たちは注視ばかりしているわけではない。必ずや、漠然と周辺環境も含めて全体を眺めている時間があり、むしろそちらの方が体験の割合としては多いはずだ。つまり、建物単体が撮られている写真はやや特殊であり、風景、景色として建物が見えている写真の方が、どちらかといえば日常の視覚体験に近いということなのである。

 もちろん私は写真の質の優劣とか撮り方の正誤を言おうとしているのではない。目的の持ち方、意識の向け方によって、撮り方が違ってくること、表現の仕方が異なってくることに留意して頂きたいのだ。都市景観を考える立場に立つと、自ずと街並みとか、周囲との関係性とかから景色を眺めることになり、写真の撮り方も、いわゆる建築写真の建物中心の撮り方とは明らかに違ってくる。

 都市部において景観環境の良し悪しを考えるときに考慮すべきなのは、個々の建物のデザインの良否ではなくて、それらがたくさん集まって出来上がる建物群の景色が、全体として快適か不快か、という点だろう。総体としての景観の評価は今後、ますます重要になってくると思われる。

#階段・坂 港区  #ヴィスタ  #眺望  #高層ビル  #新しい建物 港区
#住宅系 
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高輪で階段三昧1

2006-04-09 | 港区   

 三田~高輪のビル群景観にケチをつけていたら、却って滅入ってきたので、今回は階段と路地を巡って遊ぶ。

清正公前交差点付近から二本榎通り方面へ上る階段
所在地:港区高輪1-17 Photo 2006.3.5

 高輪も地形の起伏があり階段が多い街だ。

 都心南部は北部に比べて、谷が入り組んでいる。小さな谷が多く、谷の奥行きや差し渡しが短い。谷底では囲まれたように感じられる場所が意外に多く、秘密の場所的な地区がいくつかある。高輪や白金というと、高級住宅地、高台、というステロタイプな表現が往々にしてされるが、谷あいには良い意味でそれとは正反対の印象の場所があって、毎度驚かされる。

 この階段は、谷地の密集住宅地の中を行くと現れる。高台側の住宅地との間をつなぐ小さな階段で、最下部がわずかに曲がっているのが形態上の特徴。上りきった先は道路の角になっていて、そこから先の丘には都営アパートなどがあり、視界が開けてくる。谷あいから台地上へ、境界を越えることが体感される階段。

密集住宅地内にある井戸
大谷石の石垣から張り出した住居
所在地:港区高輪1丁目
Photo 2006.3.5

 昨日の記事の場所から200m程度の場所には、木造の小さな住宅が建ち並ぶ一角がある。井戸が残されていたり、大谷石の石垣に変則的に張り出す家があったり、なかなか面白い。数年前まではもっと木造の古い住宅が多かったが、徐々に建て替えられて、新しめの木造住宅が増えている。だが空間のスケール感はあまり変わっていない。

 都心部の階段をあちこち歩いているが、たくさん回っても私は飽きない。次はどんな階段が眼前に現れるのだろうという興味や期待の方が、もう見なくてもいいやという思いを上回る。階段なんて世界中にあるわけだから、階段が嫌いにならない限り、ずっと階段巡りは続く。うわぁーっ、階段中毒者みたいだ。でも不思議と屋内の階段には執着がないんだな、これが。

 私自身、いまだに階段の魅力が何かを一言では言い表せない。そんなにたくさん回ってどうするの?とか、階段の何がそんなに面白いの?と聞かれると、面白いんだものしょうがないじゃないとしか言いようがない。説明するのが面倒くさくなって、マニアなんだから仕方がないとか、理由なんて分からないとか言ってたりもする。さすがに「そこに階段があるからだ」とは恥ずかしくて言わないけれど・・・。

 ただ時折、階段を上下するときに得られる、身体的な高揚感に反応してるのかもしれないと思うことがある。だから、魅力を言葉にするという理屈っぽい左脳的な作業は、私の脳内ではまだあまり行われていないような気がする。簡単にかつ正直に言えば、魅力を言葉にしようとは考えていないのかもしれない。だから、不遜な態度だが「歩けば分かる」みたいなことになる。共感してくれぃ、頭でなく身体で理解してくれぃ、というあたりだろうか。

 街歩きや路地歩きが面白いのも、階段歩きとだいたい同じで、歩いて体験してこそ、初めてその面白さが分かる。街の風景は面白いと思えばいくらでも面白くなる。またあちこち行けば行くほど、面白くなってくる。ただそれは決して全国の名所のどれだけを制覇したかという話ではない。数を稼ぐことや、踏破することには実はあまり意味はない。あちこちを歩きながら見聞きした事柄について、何を考えたか、そして、どれだけためになることと、ためにならないことを考えたか、それが個々人にとって重要なことなんだと思う。

 そうは言っても、街歩きを引率するとき、普通の人が面白く思ってくれるか不安に思うことは結構ある。私はどこへ行っても多かれ少なかれ面白くなってしまうので、正直言って、街なら基本的にどこでも良い。面白くなるきっかけはあちこちに転がっていて、能動的にそれを見つけることさえできればどこでも面白くなる。しかし「普通の」方々は、面白さを積極的に発見することに慣れていない。良い景色というお墨付きを与えられたところのみを見ようとすることが多くて、説明されないと面白さに気がつかない。説明されないほとんどの景色は退屈なものと思ってしまっている人も多い。面白く思えるのは、日頃から無意識のうちに見る訓練をしているからだろう。経験が少なければ、面白く感じることはできない。文物骨董の鑑定に多くの経験が必要なように、街歩きにも経験は必要かもしれない。

 違う見方をするなら、普通の人は、特別ではない景色でも一生懸命アピールされるとすごいものと勘違いしてしまう可能性もある。自分の目や頭、心を信じて見ないと、プロパガンダに弱い「目」になってしまうのではないだろうか? 街に転がっているたくさんの面白い(笑えるという意味ではなく、興味深いという意味で)景色を見過ごしてしまっているのは、かなり損なことだと思う。

 更に話はそれるが、旅行に行ったのにも関わらず、バスの中で窓外を見ず、歌ったり話してばかりいるのには、私的にはあまり意味がない。それは日頃の宴会ですればいい。旅行の面白さは、名所仏閣を拝見する時だけではなく、そこへ至る道すがらの景色にもある。こんなことを言ってると、つきあいが悪い変わり者と思われてしまうのかもしれないが、とにかく私は景色を見たいのさー。

 でも世の中にはいろんな人がいて当然。先日私が、マンガをあまり読まない、ドラマもそれほど見ないと言ったら、それはかなりもったいないことだと知人に言われた。更に、それらをこれから読んだり見たりして、新鮮に感動できるのは羨ましいとさえ言われた。私が街を見て写真を撮ってヨロコンデいる間、他の人はドラマを見て感動したり、知人と電話をして楽しんだりしている。考えてみれば、なんでもかんでも全てのことを極められるほどの時間は私たちには与えられていない。欲張って全てをできるわけがないのだから、何かは捨てて行かねばならない。だから、私は街をフラフラ歩き、階段を巡る。それくらいしか私の存在を実感する術がないからなのかもしれないな。

#階段・坂 港区  #街並み 港区  #路地 
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

タグ一覧

1992-01-10 | 記事一覧 
#失われた建物 
#失われた建物 千代田区 
#失われた建物 中央区 
#失われた建物 港区 
#失われた建物 新宿区 
#失われた建物 文京区 
#失われた建物 台東区 
#失われた建物 墨田区 
#失われた建物 江東区 
#失われた建物 品川区 
#失われた建物 目黒区 
#失われた建物 大田区 
#失われた建物 世田谷区 
#失われた建物 渋谷区 
#失われた建物 中野区 
#失われた建物 杉並区 
#失われた建物 豊島区 
#失われた建物 北区 
#失われた建物 荒川区 
#失われた建物 板橋区 
#失われた建物 練馬区 
#失われた建物 足立区 
#失われた建物 葛飾区 
#失われた建物 江戸川区 
#失われた建物 都下 
#失われた建物 神奈川県 
#失われた建物 埼玉県 
#失われた建物 静岡県 
#失われた建物 長野県 
#失われた建物 愛知県 
#失われた建物 広島県 
#失われた建物 福岡県 
#古い建物 
#古い建物 千代田区 
#古い建物 中央区 
#古い建物 港区 
#古い建物 新宿区 
#古い建物 文京区 
#古い建物 台東区 
#古い建物 墨田区 
#古い建物 江東区 
#古い建物 品川区 
#古い建物 目黒区 
#古い建物 大田区 
#古い建物 世田谷区 
#古い建物 渋谷区 
#古い建物 中野区 
#古い建物 杉並区 
#古い建物 豊島区 
#古い建物 北区 
#古い建物 荒川区 
#古い建物 板橋区 
#古い建物 練馬区 
#古い建物 足立区 
#古い建物 葛飾区 
#古い建物 江戸川区 
#古い建物 都下 
#古い建物 新潟県 
#古い建物 神奈川県 
#古い建物 千葉県 
#古い建物 静岡県 
#古い建物 埼玉県 
#古い建物 山梨県 
#古い建物 長野県 
#古い建物 愛知県 
#古い建物 海外 
#新しい建物 
#新しい建物 千代田区 
#新しい建物 中央区 
#新しい建物 港区 
#新しい建物 新宿区 
#新しい建物 文京区 
#新しい建物 台東区 
#新しい建物 墨田区 
#新しい建物 江東区 
#新しい建物 品川区 
#新しい建物 目黒区 
#新しい建物 大田区 
#新しい建物 世田谷区 
#新しい建物 渋谷区 
#新しい建物 中野区 
#新しい建物 杉並区 
#新しい建物 豊島区 
#新しい建物 北区 
#新しい建物 荒川区 
#新しい建物 板橋区 
#新しい建物 練馬区 
#新しい建物 足立区 
#新しい建物 葛飾区 
#新しい建物 江戸川区 
#新しい建物 都下 
#新しい建物 神奈川県 
 
#新しい建物 静岡県 
 
 
 
#新しい建物 海外 
#階段・坂 
#階段・坂 千代田区 
#階段・坂 中央区 
#階段・坂 港区 
#階段・坂 新宿区 
#階段・坂 文京区 
#階段・坂 台東区 
#階段・坂 墨田区 
#階段・坂 江東区 
#階段・坂 品川区 
#階段・坂 目黒区 
#階段・坂 大田区 
#階段・坂 世田谷区 
#階段・坂 渋谷区 
#階段・坂 中野区 
#階段・坂 杉並区 
#階段・坂 豊島区 
#階段・坂 北区 
#階段・坂 荒川区 
#階段・坂 板橋区 
#階段・坂 練馬区 
#階段・坂 足立区 
#階段・坂 葛飾区 
#階段・坂 江戸川区 
#階段・坂 都下 
#階段・坂 神奈川県 
#階段・坂 千葉県 
#階段・坂 静岡県 
 
 
 
#階段・坂 海外 
#東京新旧写真比較 
#東京新旧写真比較 千代田区 
#東京新旧写真比較 中央区 
#東京新旧写真比較 港区 
#東京新旧写真比較 新宿区 
#東京新旧写真比較 文京区 
#東京新旧写真比較 台東区 
#東京新旧写真比較 墨田区 
#東京新旧写真比較 江東区 
#東京新旧写真比較 品川区 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
#新旧比較写真・静岡県 
 
#新旧比較写真・海外 
#街並み 
#街並み 千代田区 
#街並み 中央区 
#街並み 港区 
#街並み 新宿区 
#街並み 文京区 
#街並み 台東区 
#街並み 墨田区 
#街並み 江東区 
#街並み 品川区 
#街並み 目黒区 
#街並み 大田区 
#街並み 世田谷区 
#街並み 渋谷区 
#街並み 中野区 
#街並み 杉並区 
#街並み 豊島区 
#街並み 北区 
#街並み 荒川区 
#街並み 板橋区 
#街並み 練馬区 
#街並み 足立区 
#街並み 葛飾区 
#街並み 江戸川区 
#街並み 都下 
#街並み 青森県 
#街並み 神奈川県 
#街並み 千葉県 
#街並み 静岡県 
#街並み 埼玉県 
#街並み 海外 
#パノラマ 
#ヴィスタ 
#眺望 

#地形 
#海・川・池 
#山 

#夕景・夜景 
#雨 
#雪 

#花・紅葉 
#樹木・植物 
#動物 
#祭 

#地図 

#自動車 
#飛行機 
#鉄道 
#船 

#道 
#旧東海道 
#旧中山道 
#甲州街道 
#日光街道 
#奥州街道 
#旧街道 
#トンネル 
#橋 
#路地 
#広場 
#公園 
#地下 

#塔 
#モニュメント 
#門・ゲート 
#東京タワー 
#インフラ 
#神社 
#寺院 
#教会 
#神殿 
#城・宮殿 

#商業系 
#看板建築 
#銅板張り看板建築 
#モルタル看板建築 
#タイル張り看板建築 
#木造店舗 
#マーケット 
#デパート・百貨店 

#オフィス 
#高層ビル 
#官公庁 
#研究所 
#公共施設 
#ミュージアム 
#体育館 
#野外劇場・スタジアム 
#映画館・ホール 
#遊興施設 
#ホテル・旅館 
#宿場町 
#飲食店 

#工場 
#病院 
#医院 
#倉庫・蔵 
#銭湯 
#銀行・保険 
#郵便局 

#住宅系 
#集合住宅 
#公営・公団・公社・公立住宅 
#長屋 
#戸建て住宅 
#洋館・洋風住宅 
#文化住宅 
#和風住宅 
#和洋折衷住宅 
#同潤会 
#青木淳 
#芦原義信 
#阿部美樹志 
#安東勝男 
#安藤忠雄 
#石井和紘 
#石本喜久治 
#石山修武 
#磯崎新 
#伊東忠太 
#伊東豊雄 
#乾久美子 
#今井兼次 
#内田祥三 
#大江宏 
#大高正人 
#岡田信一郎 
#菊竹清訓 
#岸田日出刀 
#桐山均一 
#隈研吾 
#黒川紀章 
#小坂秀雄 
#坂倉準三 
#佐藤功一 
#佐藤武夫 
#関根要太郎 
#妹島和世 
#曽禰中條 
#高橋貞太郎 
#竹山実 
#辰野金吾 
#谷口吉郎 
#丹下健三 
#土浦亀城 
#内藤多仲 
#中村與資平 
#林昌二(日建設計) 
#前川國男 
#松井貴太郎(横河工務所) 
#村野藤吾 
#森山松之助 
#安井武雄 
#山田醇 
#山田守 
#吉阪隆正 
#吉村順三 
#渡辺仁 
#A.レーモンド 
#I・M・ペイ 
#J.コンドル 
#W.M.ヴォーリズ 
#エッフェル 
#マックス・ヒンデル 
#クリストファー・レン 
#ミケランジェロ 
#リチャード・ロジャース 
#レンゾ・ピアノ 

#ロシア・クラシック様式 
#ネオ・ロシア 
#スターリン様式 
#ソビエト様式 
#江戸時代以前 
#江戸時代 
#明治期 
#大正期 
#震災復興 
#昭和戦前期 
#昭和戦後期 
#平成期 

#古代 
#中世 
#近世 
#近代 

#ギリシャ 
#ローマ 
#ビザンティン 
#ロマネスク 
#ゴシック 
#ルネッサンス 
#バロック 
#新古典主義 
#ネオゴシック 
#ネオバロック 
#擬洋風建築 
#近代建築 
#近代土木遺産 
#アーツ&クラフツ 
#アールヌーヴォー 
#アールデコ 
#セセッション 
#表現主義 
#帝冠式 
#モダニズム 
#メタボリズム 
#ポストモダン 
#現代建築 
#吹き抜け・アトリウム 
#アーケード 
#屋内階段 
#EV・ES 
#出桁造り 
#ギャンブレル屋根 

#早稲田大学 
#大学 
#学校 

#講座 
#マスメディア 

#国宝 
#重要文化財 
#都道府県指定文化財 
#市区町村指定文化財 
#国登録有形文化財 
#重要伝統的建造物群保存地区 
#史跡 
#世界遺産 
#保存樹 
#移築保存 
#docomomo japan 

Tokyo Lost Architecture
静岡の建築・土木構築物
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする