三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

パメラ・ドラッカーマン『不倫の惑星』

2008年10月13日 | 

マイケル・パトリック・キング『セックス・アンド・ザ・シティ』はシモネタで笑いをとるご都合主義映画で、どこがおもしろいのかと思う。
不思議なのが、4人の女性たちはそれぞれ男性経験が豊富だし、きわどいことを平気でしゃべっているのに、なぜかパートナーに対して妙に倫理的なのである。
ひとりは夫から浮気したという告白を聞いて、すぐさま別居する。
出来心で一度だけ浮気しただけだし(妻が拒むので何ヵ月もセックスしていない)、妻にはばれていないのだから黙っていればいいのにと思う。
おまけに、わざわざ謝罪した夫に妻がどうしてそこまでかたくなになるのだろうか。
性に関すること以外でも、アメリカ映画を見ていると変なところできまじめなとこがあり、そこらに文化の違いを感じる。

ところが、パメラ・ドラッカーマン『不倫の惑星』を読むと、これは伴侶が浮気をしたアメリカ人カップルの普通の反応らしい。
たとえば、こういう相談がある。
つき合っている男性がいるのに、酔って別の男性とキスをした女性はこう打ち明ける。
「いまはすごく落ちこんでて、自分にうんざりしてる。カレに打ち明けるべき? どうすればいい? わたしみたいな女は、あのひとにふさわしくないような気がする」
酔ってキスをしただけでこれである。

アメリカでは、不倫している人間はどこかが破綻しているとみなされるそうだ。
「不倫をする人々は道をあやまった普通の人間ではなく、ほかの人間とはまったく異なった犯罪者ということになる」

もしも不倫をしたら罪の意識に悩まされることになる。
そこで伴侶に率直に告白して許しを請う。
アメリカ人は夫婦の間では隠し事があってはならない、嘘があってはならない、何でも正直に話すのがよいことだと信じているらしい。
「セックスをしたことが問題なんじゃない、嘘をついたことが問題なのだ」

不倫したと打ち明けられると、当然のことながら傷ついてしまう。
心に傷を受けて悲しむだけではなく、「これまでの人生観が崩壊してしまった」「なにが本当で、なにが嘘なのか、わからなくなった」と言う人がいるし、中には「子どもが亡くなったときよりもつらかった」とまで言う人がいる。

だったら黙っていればいいと思うのだが、子どもにまで告白する人がいるのだから驚きである。
教会でカウンセリングしている夫婦は自分の子どもたちに、ママはほかの男性とセックスをしたんだ。パパはすごく頭にきたから、この問題を解決するまでしばらく時間がかかったよ」と伝えたという。
そんなことを親から告げられたら、子どものトラウマになるのではないだろうか。
『セックス・アンド・ザ・シティ』で浮気の告白した夫なんてまだかわいいほうなのである。

パメラ・ドラッカーマンは、アメリカでは結婚産業複合体が巨大化していると指摘する。
「この複合体はテレビ番組、自己啓発本、夫婦関係が悪化した原因を解明する無数のカップルカウンセラーから成り立っている」
アメリカ人は何か問題が起きると、自分たちだけで解決しようとせず、専門家(と称する人たち)を頼るわけである。
1970年、夫婦や家族問題のセラピストはアメリカに3000人いた。
2004年、アメリカで開業している家族問題のセラピストは5万人以上。

「結婚産業複合体が勧めるやり方はいたるところに浸透しているが、その効果のほどはほとんど検証されていない。情事の一部始終を語れば伴侶の心の傷は癒される、夫婦はなにもかもつつみかくさず話しあえばそれだけ幸せになるといった通説は、実際には証明されていないのである」

では、アメリカでは実際に不倫する人はどれくらいいるのだろうか。
結婚もしくは同棲している人々のなかで1年以内に複数の性交渉の相手をもったひとのパーセンテージ
 アメリカ 男3.9% 女3.1%
 フランス 男3.8% 女2.0%
 イタリア  男3.5% 女0.9%

フランス人は大人の恋愛を楽しみ、イタリア男は女好きの種馬といったイメージがあるが、実際は伴侶に忠実な人が多いらしい。
ただ、不倫をした時、ばれた時の対応の仕方が違っているそうだ。
浮気したからというので伴侶に告白して許しを請うなんてことはほとんどの国ではしないだろうと思う。

アメリカ人は不倫に対してどうしてそこまでの罪の意識を持つのだろうか。
「アメリカ人は不倫がだれかにばれなくても罪の意識をもつことが多い」
「信心深いひとたちは、密会場所のモーテルの一室に神がいるように感じる。無宗教のひとでさえ、宗教的な罪の意識に似た良心の呵責を覚える」

アメリカ人のこうしたあり方はキリスト教の影響という気がする。
信仰が自分にとってとても大切と答えるフランス人は11%、アメリカでは59%だそうだ。
アメリカは清教徒の国であり、禁欲的だから、より罪の意識を持つのだろうか。

ところが、パメラ・ドラッカーマンによると、信仰と不倫とはあまり関係がないらしい。
「世界のどこに目を向けても、信仰心の深さと不倫の相関関係を見いだすことはむずかしい。フランス人とイギリス人はアメリカ人にくらべて格段に信仰心が薄いが、この三国の不倫率はほぼおなじである」
仏教だって在家信者の戒律の中に不邪淫戒があるし、浮気しても無条件にOKという宗教はないだろうと思う。
利己的遺伝子説を信じるならば、自分の遺伝子を残すために男は多くの女に子供を産ませようとし、女はより強い男の子どもを産もうとする。
しかし、一夫一妻制の呪縛にからみとられている現代人はそのあたりで悩んでしまうのかもしれない。

「人間の行動を決定づけるのは宗教というよりも土地柄だ。アメリカの敬虔なキリスト教徒の行動様式は、ほかの国のキリスト教徒というよりも、無宗教のアメリカ人のそれに近い」
無宗教であっても、アメリカ人はキリスト教の規範が血となり肉となっているということか。
どうしてそこまで宗教的なのだろうか、やはり不思議である。

フランス人だって不倫がいいことだとは思っていない。
「フランス人の不倫にたいする考え方は、パートナーへの忠誠を守ることは神によって定められた掟ではなく、単なるいい心がけにすぎない」

アメリカ式は誠実かもしれないが、なんだか話をややこしくしているだけのような気がする。
正しくあることの脅迫的観念がアメリカ人は強いのかもしれない。
で、こじつけだが、アメリカ的価値観をよしとして世界中に押しつけようとするアメリカの世界戦略と、不倫に対する罪の意識と根っこはつながっていると思う。

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4 コメント

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たぶん (chi-)
2008-10-17 20:00:12
キリスト教からくる倫理的な態度は実際のところどうか分かりませんが、『セックスアンドザシテイ』に関していえば、「だって女の子はいくつになってもお姫様なんだもの」を体現した態度であろうと思います(ゆえに多くの男子からは余りすかれない映画)。つまり十把一絡げの遊び相手はともかく、パートナーたるべき男性は「王子様」でなくてはならない。だからこそ、主人公たちは遊び相手でも、パートナーになりそうだったら途端に倫理的な態度を示し(姫にふさわしい男子となれ)始めるのではないでしょうか。そしてそんな女性と付き合う男性は当然、王子様たろうと頑張る。これはディズニーの弊害かと。おそらく先進国の女性に受けているのはそのせいかも。と、ちょっぴり思うのでありました。

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待てば海路の ()
2008-10-18 14:23:07
なるほど。
英雄物語は、英雄(男)が試練を乗り越えて宝物(王位、姫、財産、智慧など)を手にするというパターンですが、シンデレラ、白雪姫などは女が試練を克服して王子様と結ばれるという物語です。
お姫様は白馬に乗った王子様がやってくるのをただ待っていればいいわけではありません。
男のほうが受け身です。
男女が逆転しているわけですね。
『セックスアンドザシテイ』でもそうで、男(王子様)は、結婚に不安になって逃げ出したり、浮気を許してもらうために平身低頭する、実に「女々しい」男たちです。
そこらが女性に受けているのかもしれないなと、chiさんのコメントを読んでふと考えた次第です。
返信する
私は女性ですが (あみ)
2009-06-08 09:20:48
この記事を読ませて頂き、面白いなぁと思いました。

先日、私は『何故007のボンドガールはいつも若い女なのか』という記事を自分のブログに書きました。
007に限らず、男性に好かれる映画は全て若い女ばかり。
たまにはセックスアンドザシティのような女性向けの映画があってもいいのでは?と思います。

時代は変わりましたね。
私は女だから、男性が理想の女性を語る映画より、女性が理想の男性を語る映画のほうが面白い。
マフィア映画なんか観るより為になるし。

だから、セックスアンドザシティは女性向けの映画で構わないと思います。
女性の視点を観てみたければ、観てみるのもいいですけどね。

日本人は特に若い女がもてはやされます。

でも、女性ばかりが歳をとったら相手にされなくなるなんて、寂しいじゃないですか。
だから、女が自分から相手を探す時代なんですよ!

私はまだ28歳だけど、旦那に浮気されたら絶対離婚します。

不倫は罪です。
不倫を隠すことはもっと罪です。
思いやりの嘘なんて言い訳に過ぎません。

よく『家庭さえ崩壊しなきゃ不倫は良い』と言う男性がいますが、悪い風習だと思います。

それこそ子供に悪影響。
不倫に気づいた子供がひねくれ者になって非行に走っても、親が後ろめたいことしてては偉そうなこと言えませんよね…。
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コメントありがとうございます ()
2009-06-09 16:56:23
利己的遺伝子説によると、若い女性がもてはやされるのは当然なんですよ。
生物は自分の遺伝子を残そうとするわけですが、男(オス)にとっては若いほうが子どもを産んで育てる確率が高い、そして他の男(オス)の遺伝子が入り込まないよう独占するわけです。
女(メス)としたら守ってくれる力のある、精力の強い男(オス)のほうが好都合ということになります。
ほんとかどうかはともかく、話としては面白いです。
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20080201
それと、日本は性に関しては寛容でした。(女性もです)
明治になって西洋の価値観(キリスト教ですね)が入ってきて、一夫一妻制でなければならないということになったわけです。
だからといって浮気してもいいと言っているわけじゃないですよ。
両親の不和は子供にとっていいことじゃないですからね。
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