三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

岡田憲治『なぜリベラルは敗け続けるのか』(1)

2023年09月29日 | 

安倍政権の問題点を岡田憲治『なぜリベラルは敗け続けるのか』は数々指摘しています。

・2013年、特定秘密保護法の成立。
本来ならば政府が国民にオープンにすべき重大な情報(原発の安全基準、防衛費に使われているお金の分類、政治家や官僚が公正な手続きで決め事をしているかどうかを確認する文書)の公開の範囲を、実質的には政府が好き勝手に決められるようにさせるもの。
多額の増税が決まって、「なぜ多額のお金が防衛費に必要なのか」と問うても、「国家機密だから答えられない」という返事を正当化することが可能になった。

・2014年、安倍内閣による集団的自衛権に関する解釈改憲。
内閣法制局によって40数年間維持されてきた、憲法上、集団的自衛権は認められないという政府の公式見解が、通常国会で一度も議論されることなく、憲法解釈が変更された。
しかも、どのような議論を経て変更されたか、議事録が存在しない。

・2015年、安保法制の成立。
圧倒的多数の憲法学者が安保法制に反対声明を出しているにもかかわらず、集団的自衛権に関する閣議決定を前提に、11本の安全保障関連法が強行採決した。

・2017年、共謀罪法の成立。
心の中で犯罪計画を立てただけでも罪に問える。
悪用すれば、国家に異議申し立てをするあらゆる個人・団体を刑事捜査の対象にできる。

・2017年、野党からの国会開催要求を無視し続けた。
森友・加計学園問題などを理由に、野党が憲法53条に基づいて議会の開催を求めたにもかかわらず、与党は98日間も無視し、ようやく国会を開催したが、その冒頭で衆院解散を行なった。

・2018年、選挙後の国会で野党の質問時間の削減が断行された。
森友学園問題では、国有地取引時の行政決済文の改竄を財務省が認めた。
ところが、この不祥事の責任を、財務大臣を辞めさせることもなく、現場の官僚の責任問題として処理した。

なぜこれほど私がこの事態を憂慮するかと言えば、このまま政治に負け続けると、今度は「選挙など必要ない」という暗黒時代を現実化しかねないからです。つまり、もう連敗することすらできない、「選挙のない国」となるという事態です。


これは杞憂ではありません。
憲法に緊急事態条項という条文を追記しようという動きがあります。
内閣が災害等で緊急と判断した場合には国会の権能を内閣が実質的に兼ねることができる、国会議員の3分の2以上の多数で国会議員の任期を延長することができるという内容です。
https://www.toben.or.jp/know/iinkai/kenpou/column/2020229.html
緊急事態条項によって選挙がずるずると行われない国になる可能性はあります。

民主主義は失敗を繰り返さないための工夫が必要だと、岡田憲治さんは書いています。
たとえば、記録を残すことは近代国家としての最低限のルール。

不完全な人間が合意を作るためには、政権の中でどのように意思決定がなされたかをきちんと書き残すという習慣が、民主政治には必要不可欠です。それがなされなければ、誰が政策決定においてそれぞれの責任を引き受けるのか、また、その政策が失敗したら、どういう拙劣な経緯と迂闊さによって、それが起こったのかを検証することができません。

最低限のルールが安倍政権ではないがしろにされました。

安倍首相は国会での質疑で虚偽答弁を何度もした。
国会の答弁で大臣は官僚が作った作文を棒読みし、質問にはまともに答えない。
官房長官は定例の官邸記者会見で、記者の質問の制限・無視までした。
政府は部署に圧力をかけ、官僚は懲罰人事への恐怖から安倍首相に忖度した。
そうして、公文書の隠蔽、改竄、破棄がなされたのです。

安倍一強の情勢の下でデモクラシーそのものが少しずつ破壊され、少しずつ殺されているという危機的な状況となっている。
しかし、選挙で安倍晋三元首相は勝ち続けました。

1960年、日米安保条約が強行採決され、都立大学教授の竹内好は大学に辞表を提出しました。
黒川創『鶴見俊輔伝』に、竹内好が知人に送った挨拶文が載っています。

私は東京都立大学教授の職につくとき、公務員として憲法を尊重し擁護する旨の制約をいたしました。
5月20日以後、憲法の眼目の一つである議会主義が失われたと私は考えます。しかも、国権の最高機関である国会の機能を失わせた責任者が、ほかならぬ衆議院議長であり、また公務員の筆頭者である内閣総理大臣であります。このような憲法無視の状態の下で私が東京都立大学教授の職に止まることは、就職の際の誓約にそむきます。かつ、教育者としての良心にそむきます。よって私は東京都立大学教授の職を去る決心をいたしました。

翌日、竹内好の辞表提出を知った東京工業大学助教授の鶴見俊輔は辞表を出した。

辞表提出の翌々日、東工大文化系教授会で、鶴見俊輔は同僚たちに挨拶をした。

私の辞職の動機は、5月19日、警官導入し、単独に安保決議したことにかぎりたい。岸首相の採った態度、また、政府機構はよろしくない。空虚に感じられる。


岸首相は5月28日、「院外の安保反対運動に屈すれば、日本の民主主義は守れない。私は国民の〝声なき声〟の支持を信じている」と言った。
この発言に、安倍晋三元首相が選挙演説の際、批判的な聴衆に向けて「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と言ったことを思い浮かびます。

もっとも、岸信介元首相は日米安保条約改訂を国会で審議し、その後に退陣しています。
現在は国会を開催せず、重大な決定が閣議決定により行われているのだから、60年安保のころのほうがまだましな気がします。

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